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第一章
11.リタのお嬢様リスト
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「お断りいたします」
ニコニコにっこりと社交辞令用の極上の笑みを浮かべながら、リタは容赦なく扉を閉めようとした。
だが、その刹那、エヴァンスがドアに片足を挟み込み、力技で引き止めた。
「まあまあ、少しくらい話を聞いてくれてもいいだろう?」
リタの笑顔が一瞬で凍りつき、地獄の門番のような表情に変わるや否やエヴァンスと、その背後にいる黒髪の見知らぬ男を交互に睨みつけて口から火を吐くようにまくし立てた。
「エヴァンス様、お断り申し上げているのがわからないのですか?」
気の強さを如実に示しているリタの焦げ茶色の瞳にたじろいでいるのは、女性即ち淑女と脳内に刻み込まれているセリウスだった。
前日の乱れた格好とは打って変わり、濃いブルーの薄手のジャケットとズボンに清潔な白いシャツを合わせた固めの服装だ。よく磨かれたエナメルの黒い革靴が廊下の天井の明かりを反射して艶やかに光っている。
袖口にはさりげなく銀青の細やかな刺繍糸で繊細な模様が刺繍されているが、華美ではなく品のよいアクセントになっている。腕の中には、アルヴィスにとセリウスが用意した挨拶ついでの軽いプレゼント程度の花束が抱えられている。
リタが目ざとく一瞥したところによると、繊細な白いリリーフェルモの花弁と美しい黄緑色のペリーニシュアをメインに取り合わせた花束はどことなくアルヴィスを連想させる。リタの脳内「お嬢様ご交友関係帳リスト」の中には彼の姿も名前もなかったが、この男、どうやらお嬢様を知っているようだ。
それがますます面白くなくて、いったいどこの馬の骨を引っ掛けたんですか!と心の中で盛大に雷を落としつつ、とりあえずリタは目の前の難事をさっさと解決することに集中した。
「タイヘンモウシワケナイノデスガ、お嬢様はご多忙ですので、明日の夜会への参加は謹んで辞退させていただきます」
今日の午後には荷物と一緒にお嬢様と領地に帰る予定なのだ。
荷物の整理もまだ終わっていない忙しいところに、この来訪者であるので、リタは正直さっさと済ませたかった。
それに、個人的な付き合いもない方の婚約披露の席に出席するのは、貴族にとっては常識がないと思われかねないと重ねて告げる。招待状ももらっていないような会に参じるのは、お嬢様にとって不名誉なことですとはっきりと告げれば、エヴァンスはふと考えた後意地の悪い顔で応える。
「内輪のごく親しい友人や親戚しか呼ばないような小さな会だ」
それは初耳だが、規模が小さいからと言って出席するのは考えものだ。
「そうでしょうね。ご婚約のお披露目と聞いておりますから」
すかさずリタが応じると、エヴァンスも同意とばかりに深く頷く。
「一般的な夜会はアルヴィスも苦手だろうし、俺も社交は面倒くさいからアルヴィスの気持ちはよくわかるつもりだ」
社交嫌いの侯爵家の三男坊のことは古くからリタもよく知っているので、その点は同意だ。
貴族連中の趣味といえば自慢話と根拠のない噂話と人の悪口。
口から砂を吐きそうな悪趣味さであることには全くもって共感するし、そんな嫌な場所に大切なお嬢様を赴かせるのはかなり気が引ける。いや、断固として拒否だ。
「俺としてもそうした場にアルヴィスを行かすのは問題だと思っている」
「そうでしょうとも」
うんうん、と深く頷いてリタは腕を組んだ。
そこへすかさずするりとエヴァンスが含みのある笑みを作って口を開く。
「そこへ来て今回の夜会は、内輪の閉ざされた場だ。招待状を受け取った者がどんなパートナーを連れてこようが、閉ざされた会での親密性の高い話になる」
「ん??」
「アルヴィスも令嬢としては結婚しても十分にいい年齢だし、大人数が苦手なら少人数で慣れて経験値を積んだ方がいいだろう。身元が確かな人物が多い場所から出会いの研鑽を積んだ方がいいんじゃないかと俺は思ってね」
「・・・・は?」
ぱっとリタが顔を上げれば、したりとばかりに勝ち得たとエヴァンスが両眼を細めた所だった。しまったと慌てて思考を巡らせようとしたがもう遅い。
「ということなので、少しだけ、アルヴィスに会わせてくれないか?」
「はい?」
疑問を付けたはずだが、許可と勝手に解釈して、気もそぞろになったリタの手から扉の主導権を奪ったエヴァンスがセリウスを伴って遠慮の欠片もなく部屋の中に入って行く。
「ちょっと!!!誰が勝手に入っていいと言いましたかっ!」
「おーい、アルヴィス!エヴァンス先生が来てやったぞー」
「お医者様ならもうちょっと品よくお嬢様に話しかけてくださいーー!!」
エヴァンスの後ろを親鳥について行くひよこのような格好で、セリウスが追いかけて行った。
「お断りいたします」
ニコニコにっこりと社交辞令用の極上の笑みを浮かべながら、リタは容赦なく扉を閉めようとした。
だが、その刹那、エヴァンスがドアに片足を挟み込み、力技で引き止めた。
「まあまあ、少しくらい話を聞いてくれてもいいだろう?」
リタの笑顔が一瞬で凍りつき、地獄の門番のような表情に変わるや否やエヴァンスと、その背後にいる黒髪の見知らぬ男を交互に睨みつけて口から火を吐くようにまくし立てた。
「エヴァンス様、お断り申し上げているのがわからないのですか?」
気の強さを如実に示しているリタの焦げ茶色の瞳にたじろいでいるのは、女性即ち淑女と脳内に刻み込まれているセリウスだった。
前日の乱れた格好とは打って変わり、濃いブルーの薄手のジャケットとズボンに清潔な白いシャツを合わせた固めの服装だ。よく磨かれたエナメルの黒い革靴が廊下の天井の明かりを反射して艶やかに光っている。
袖口にはさりげなく銀青の細やかな刺繍糸で繊細な模様が刺繍されているが、華美ではなく品のよいアクセントになっている。腕の中には、アルヴィスにとセリウスが用意した挨拶ついでの軽いプレゼント程度の花束が抱えられている。
リタが目ざとく一瞥したところによると、繊細な白いリリーフェルモの花弁と美しい黄緑色のペリーニシュアをメインに取り合わせた花束はどことなくアルヴィスを連想させる。リタの脳内「お嬢様ご交友関係帳リスト」の中には彼の姿も名前もなかったが、この男、どうやらお嬢様を知っているようだ。
それがますます面白くなくて、いったいどこの馬の骨を引っ掛けたんですか!と心の中で盛大に雷を落としつつ、とりあえずリタは目の前の難事をさっさと解決することに集中した。
「タイヘンモウシワケナイノデスガ、お嬢様はご多忙ですので、明日の夜会への参加は謹んで辞退させていただきます」
今日の午後には荷物と一緒にお嬢様と領地に帰る予定なのだ。
荷物の整理もまだ終わっていない忙しいところに、この来訪者であるので、リタは正直さっさと済ませたかった。
それに、個人的な付き合いもない方の婚約披露の席に出席するのは、貴族にとっては常識がないと思われかねないと重ねて告げる。招待状ももらっていないような会に参じるのは、お嬢様にとって不名誉なことですとはっきりと告げれば、エヴァンスはふと考えた後意地の悪い顔で応える。
「内輪のごく親しい友人や親戚しか呼ばないような小さな会だ」
それは初耳だが、規模が小さいからと言って出席するのは考えものだ。
「そうでしょうね。ご婚約のお披露目と聞いておりますから」
すかさずリタが応じると、エヴァンスも同意とばかりに深く頷く。
「一般的な夜会はアルヴィスも苦手だろうし、俺も社交は面倒くさいからアルヴィスの気持ちはよくわかるつもりだ」
社交嫌いの侯爵家の三男坊のことは古くからリタもよく知っているので、その点は同意だ。
貴族連中の趣味といえば自慢話と根拠のない噂話と人の悪口。
口から砂を吐きそうな悪趣味さであることには全くもって共感するし、そんな嫌な場所に大切なお嬢様を赴かせるのはかなり気が引ける。いや、断固として拒否だ。
「俺としてもそうした場にアルヴィスを行かすのは問題だと思っている」
「そうでしょうとも」
うんうん、と深く頷いてリタは腕を組んだ。
そこへすかさずするりとエヴァンスが含みのある笑みを作って口を開く。
「そこへ来て今回の夜会は、内輪の閉ざされた場だ。招待状を受け取った者がどんなパートナーを連れてこようが、閉ざされた会での親密性の高い話になる」
「ん??」
「アルヴィスも令嬢としては結婚しても十分にいい年齢だし、大人数が苦手なら少人数で慣れて経験値を積んだ方がいいだろう。身元が確かな人物が多い場所から出会いの研鑽を積んだ方がいいんじゃないかと俺は思ってね」
「・・・・は?」
ぱっとリタが顔を上げれば、したりとばかりに勝ち得たとエヴァンスが両眼を細めた所だった。しまったと慌てて思考を巡らせようとしたがもう遅い。
「ということなので、少しだけ、アルヴィスに会わせてくれないか?」
「はい?」
疑問を付けたはずだが、許可と勝手に解釈して、気もそぞろになったリタの手から扉の主導権を奪ったエヴァンスがセリウスを伴って遠慮の欠片もなく部屋の中に入って行く。
「ちょっと!!!誰が勝手に入っていいと言いましたかっ!」
「おーい、アルヴィス!エヴァンス先生が来てやったぞー」
「お医者様ならもうちょっと品よくお嬢様に話しかけてくださいーー!!」
エヴァンスの後ろを親鳥について行くひよこのような格好で、セリウスが追いかけて行った。
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