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思い出
しおりを挟む柳瀬さんのあとに続いて、女性の方にチケットを渡したら、半分に切って返してくれた。
映画の半券だ。
大切にポケットに入れたら、胸がほんの少しだけ温かくなる気がした。
「……わ」
館内に入ると、思わず声が漏れる。
椅子が数え切れないほどたくさんあって、
スクリーンも、思ったよりもずっと大きい。
柳瀬さんの隣に座ったら、彼が僕との間にポップコーンと飲み物を置いてくれた。
「ひとつ、食べてみたら」
「……うん」
ポップコーンをひとつ摘んで、口へと運ぶ。
柔らかいような、固いような、不思議な食感。
塩がきいていて、美味しい。
「甘そうに見えて、あまり甘くない。美味しい」
「好きなら良かった。
りんごジュースは?」
促されて、一口喉を通す。
しつこくない甘さで、りんごの香りが口の中に広がる。
と、少し大きな機械音が鳴って、辺りが薄暗くなる。
同時に、画面に映像が映し出された。
「始まるよ」
柳瀬さんの声が優しく響き、頷いた。
柔らかな椅子と、食べ物と、飲み物。
大きなスクリーンに、綺麗な映像。
頭のてっぺんから足の先まで、まるで自分ではないみたい。
何故こんなところに来て、映画など見ているのだろう。
何故娯楽でしかない食べ物と飲み物を買い、
こうして、のんびりとしているのだろう。
子ぎつねが画面に映し出される。
それは本当に可愛くて、胸が締め付けられた。
ああ、なんか、この空間は、
温かすぎて、苦しい。
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