眠れない夜のお話

温もり

颯太さんの家は本当に近くて、ほんの少し歩くだけで着いた。
事前に連絡を入れていたのか、インターホンを鳴らすとすぐにドアが開く。


「何か可愛い子が可愛い子を抱っこしてるー」


颯太さんが、僕を見て笑った。
暗めの茶髪に、笑うと細くなる目。

初対面でこんな笑顔を作れるものだろうか。

元は心療内科に勤務していたということもあるのか、思わず警戒をしてしまう。

確かに優しそうだけれど、
立花さんだって、初めは優しかった。


「蒼っていうの。可愛いだろ」

「別に羨ましくはないけどな。俺恋愛対象に男は入らないんで。
で、その子がみぃ？可愛いな」


手の中のみぃさんを、慣れた手つきで颯太さんが抱える。

僕より抱っこが上手だ。


「じゃ、よろしくな」

「はいはーい」


みぃさんを撫でながら、颯太さんがドアを閉めた。


こんな短い会話で成り立つ。
柳瀬さんと颯太さんは、本当に仲が良いのだろう。


「よし、行こう」

「……うん」


最近は、家とお客さんの家、ラブホテルを行き来することが多かったから、
こうして外を歩くのも久しぶりだ。


少し歩いてから、階段を下った。
この先にあるのは、地下鉄という乗り物、だと思う。


「2駅電車に乗るよ」

「……電車、乗ったことない」

「珍しいな。
都会に住んでて電車にあまり乗ったことないなんて」


昔は家に居ることが多かったし、
今は、神崎さんの車での移動が多いから。


「じゃあ切符買わないとな」

「……できるかな」

「はは、簡単だよ」