眠れない夜のお話

何もない日

「どうしてそんな強張った顔してんの？」

「映画、みたことなくて。なんか、緊張して」

「へー見たことないのは変わってるね。
というかDVDってそんなに緊張してみるものじゃないんだけど」

柳瀬さんがそっと笑って、思わず目を逸らす。
そういう笑顔は、あまり見たくない。

「セックスより緊張する？」

尋ねられて思わず頷く。
セックスは、無理に性感を引き出される行為で、
緊張というよりは、少し苦しい。

「ふーん、それはそれは。
俺はさぞかし変わった客だろうね」

その通り、と頷きそうになって、止めた。
客に対して何でもかんでも正直すぎるのも良くない。


映画が始まり、画面には一匹の動物が映し出される。

毛がふわふわと生え、丸いフォルムに目が奪われる。


「……子犬？」

「子ぎつね。きつねの赤ちゃんの頃って、犬みたいだよね」

「子ぎつねの話？」

「そう、少し前に癒し系の映画で有名になったよ」


毛布を手繰り寄せて、映像に見入った。


何だろう、この時間。

何もしないで、こうして、見ていればいいの？


特にお話することも、
密着することも強要されなくて、落ち着かない。