上 下
11 / 27
改正番;王宮編

10話,義妹が婚約破棄を見たよう-アルフィー

しおりを挟む
私が10歳の時にレイナは王族となった。
叔父上、叔母上や従兄弟が暗殺され、レイナだけが生き残ったそうだ。暗殺者は少年1人、その場にはその子と血が付いた刃物を持ったレイナが立っていたらしい。その為レイナが家族を殺した説もあったそうだが、少年が逃げる時笑いながら自分が殺したと言ったらしく、その可能性はすぐに無い物とされた。
既に周囲を理解し始めていた私とローナは、レイナをとして頭ではすぐに受け入れられなかった。会ったことも無い従妹、それがレイナだった。
「レイナ、一緒に庭へ御茶をしに行かないか?」
「まあ、嬉しいです」
父に兄弟として仲良くしろと言われた為、仲の良い家族の振る舞いをした。そうしたらまだ5歳のレイナは無邪気に、嬉しそうに返してくれるから。ある日、私はその事の一貫でレイナを街の御忍びに連れ出した。護衛は居らず、服も普段着ないおんぼろ。何度か城を抜け出して御忍びに来ている為、学んだ私はカツラをかぶり、レイナには髪を結んで帽子をかぶらせた。
その日だった、私がレイナを王にしようと誓ったのは。
散歩をするのに人気な湖の沿いを2人で歩いていた時、悲鳴が上がった。驚きながら視線が集まる先を見ると、そこには小さな女の子が湖で溺れていた。
助けなければ。
そう思った。思ったけれど、足が動かなかった。万一の為と泳ぎ方は習った。けれどもし私まで溺れたら?王太子の名に泥を塗ってしまったら?何より、死にたくない…。
そんな思考で頭が埋め尽くされる中、レイナが握っていた私の手が離された。無意識にすがっていた温もりが無くなり、私は呆然とレイナを視線で追いかける。けれどレイナはそんな私を視界に移す事無く湖に飛び込んだ。
「っ?!!レイナッッッッ!!!!」
慌てて私は湖の近くまで駆け寄ったが、レイナは構わず泳ぎついに沈みかけていた女の子を持ち上げてこちらに泳いで戻って来た。全く溺れる様子も見せず陸に上がり咳き込む女の子の背中を擦るレイナを、私は何も出来ず呆然と見つめる。
「レ…イナ……」
絞り出した弱々しい声はレイナに届いたようで、彼女は私を見て無邪気に微笑んだ。
「勝手な行動をしてごめんなさい、アルフィー御兄様。濡れちゃったので何処かで着替えたのですが、いいですか?」
「あ……あぁ……」
金は持ってきている為、私は仕立て屋か何処かで服を購入し王宮に戻ろうと考えたが、その考えはすぐに打ち消された。
「アルフィー?!てことは第1王子殿下ですか?!」
「嘘!道理で美少年だと思ってたのよ!」
「そこの嬢ちゃんは誰だ?!まさか第1王女殿下か?!」
女の子が落ち着き医師の元に向かうと、野次馬達は私とレイナの元にわらわらと集まってきた。溺れた者を助けたレイナを称えるのは分かるが、何故私まで持ち上げるのだろう。何も出来なかった私が、王族のくせに民を助けられなかった私が、国の為で無く自分の為に生きる私が……。
王の器を持っているはずが無いのだから。
その日、私はレイナを王にする事を決めた。レイナを王とする為に動くのならば、少しは王族として生きる私を誰かが許してくれるのでは無いか。そんな淡い希望を持ちながら、私は生きた。
レイが離宮に引きこもってからも、私はいつレイが王になろうと思ってもいいように準備を進めてきた。そしてその準備に邪魔だったのが、一般的に聡明と言うのであろうエスメ・コールマン。彼女が婚約する必要があるのは、レイの為に動く私では無く王太子であり次期王である私。予想よりはあまり口出ししてこなかったが、邪魔であり警戒対象である事には変わり無い。何より、彼女は私に恋して居らず扱いづらい。だから王族主催パーティーでエスメの偽の悪事を並べて断罪した、捨て駒であるメイジー・ポーリッシュを隣に置いて。
「ここに、エスメ・コールマンとの婚約破棄を宣言する!」
「御機嫌麗しゅう、皆様!」
その時だった。聞き覚えのある、懐かしく愛おしい声が聞こえたのは。
私の義妹いもうと、私の愛する者、私の王。
「…っと、このレイナ・エヴァンズ・ティアーズは本日より社交復帰致します」
そんなレイを呆然と見つめ、私はポツリと心の中で言葉を溢す。
レイが社交復帰?王位を狙うと言うことだろうか。
少ししてその事を飲み込んだ私は歓喜した。ついにこの時が来た、ついに私の努力が報われようとしている。レイが乗り気ならば1年も経たないうちに彼女は玉座に座る事だろう。王太子である私と完璧王女パーフェクトクイーンであるレイが協力すればローナ等目じゃない。敵わないはずが無い。彼女はいつだって完全無欠で完璧な、私の王なのだから。
女であるだけが為に、レイの王位懸賞権は第3位で止まっているだけだ。すぐに第2位へと昇格するだろう。
邪魔な物を排除して、私がレイの俯いた顔を無理矢理にでも上げて再び玉座を視界に入れさせればいい。ずっとそう思っていた。けれどそんな事しなくたって、私の想いはレイに伝わっていたのだ。
私はレイだけでいい、王であるレイだけが残ればいい。
私の全てを捨てて、レイに玉座をプレゼントしよう。
顔がにやけるのが止められない。メイジーに対し形だけエスコートして、歩く早さには気を使わずレイに歩み寄った。エスメに話し掛けるレイの疑問を私が代わりに答える。
「エスメがメイジーに嫌がらせをしていた為、私の婚約者に相応しくないと思い婚約破棄を言い渡しただけだ。そんなことよりレイ、社交復帰おめでとう。私は兄として嬉しいよ、君が王座に着いてくれればいいのにね」
レイが今ここで王位を狙う事を明らかにすればいい。そうしたらこれまで我慢していた、レイに付く貴族もその意見を高らかに叫ぶだろう。けれどレイはそんな私の期待に答えず、ゆるりと首を振った。
「社交復帰をしたところで、アルフィー王子殿下やローナ王子殿下にはわたくしごときが敵うはずございません」
「君はいつだって完全無欠じゃないか。レイ、我が愛おしい義妹いもうと
そうだ。私の王を侮辱する者はレイであっても許さない。もっと自信をもって欲しい。後に処分するメイジーには、貴族から私への疑いを少しでも晴らす為に甘く振る舞った。この全てをレイに捧げたい、勿体無い。レイに対して無礼な捨て駒なんて、早く捨てたいと思いながら私はこのパーティーをやりきろうとした。けれど、レイはエスメに心配そうな視線を送り、ついには私の期待を捨て去る。
「アルフィー王子殿下、わたくしは王になりません。決して」
じゃあ、何で社交復帰なんてした?
レイが社交復帰しない方が私は動きやすかった。敵はローナだけだと思っていたのに、何故だ?
どうしてレイは私の想いを受け取ってくれない?気付いてくれない?答えてくれない?まだあの目に玉座が映っていないのか?どうしたら映る?何を犠牲にしたら君は王となってくれる?
呆然とレイが出ていった扉を見つめていると、不快にもメイジーが腕を絡めてきた。気持ち悪い猫なで声を出し、上目遣いで私を見つめてくる。
「アルフィー様、あんな人放っておきましょうよ。アルフィー様の気持ちを無下にするなんて、最低です!確かに綺麗な人だったけど、それだけじゃないですか。アルフィー様が気にかける理由が良く分かりませんっ。アルフィー様が王になった方がいいですよ!わたしが王妃になりますし、それで全部解決です!」
「……何だと……?」
「え?」
私は貴族達の前と言う事も忘れてメイジーの手を振り払った。呆然とするメイジーを睨み付ける。
レイが最低?レイは綺麗なだけ?レイより私の方が王に相応しい?
馬鹿が、思い上がりも甚だしい。
先程までの私の演技を見ていた貴族達は私の態度にかなり驚いていた。ひそひそと隠れて話す声が聞こえる。このままではこれまでの演技が水の泡となってしまう。
「ごめん、メイジー。少し頭を冷してくる、君はもう帰っていいよ」
「は、はい……」
メイジーにそう言い私は会場を出た後、専属執事に一声掛ける。
「興が削がれた、帰る。それと、あの女も捨てておけ」
「御意」
馬車に乗り王宮へ戻ってすぐ、王族会議が開かれる旨が伝えられた。これからどうやってレイを王とするか考えようとしていた時だった為、私はかなり苛立った。
貴人会議室へ向かうと、既に父上と母上、そしてローナが着席していた。ローナはパーティーに参加していたのに何故私よりも先に居るのだろうと思いながら、私は両親に挨拶をして席に座った。ローナの挨拶を受けた後、リアム、レイの順で会議室に到着した。私の隣に座ったレイに、ひとまず口説いたり説得する事を決めた私はレイの手を握った。手の甲に爪を立てられる。
「では、会議を始める」
「「「「「御意」」」」」
会議を始めてしばらく、レイはエスメを庇い始めた。彼女とレイの関わりはそんなに濃くなかったはずだ。挨拶くらいならばした事はあるだろうが、何故こんなにも庇うのだろう。そんな事を疑問に思っていながら、私はふと時計を見た。
……そろそろだな。
心の中でそうぽつりと呟いた時だった。
「王族の皆様!ポーリッシュ嬢が取り押さえられされましたぁっ!!」
そう、会議室の扉の向こうから叫び声が聞こえた。
いらない駒は捨てた。けれど汚いがゴミ箱から拾い上げる事も出来る。必要ならばコールマン公爵家も潰して見せよう。
さて、そろそろレイを嫁にするかどうか決めなければ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

3歳で捨てられた件

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,606pt お気に入り:146

婚約者の義妹に結婚を大反対されています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:45,966pt お気に入り:4,994

【完結】お姉様の婚約者

恋愛 / 完結 24h.ポイント:646pt お気に入り:1,977

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,662pt お気に入り:5,785

所詮、愛を教えられない女ですから

恋愛 / 完結 24h.ポイント:8,683pt お気に入り:3,870

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:655pt お気に入り:423

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:42,269pt お気に入り:2,911

記憶がないですけれども、聖女のパワーで解決します

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7,214pt お気に入り:24

処理中です...