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第1章
8話,神水流皇麗は悩む
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執事達に開かれた扉から屋敷に入り、僕はブレザーを脱ぐ。
赤いカーペットの上を歩き、ブレザーを執事に手渡しながら僕は自室へ向かった。
臣麗の行動を監視する道具の注文と、明日のヒロインと臣麗の交流について予知しなければならない。その前に、確認したい事があるが。
「『未来予知』」
そう呟き視た未来に、俺は内心肩をすくめる。夕食に毒、就寝中に暗殺者、翌日の朝に誘拐──。
1日に複数回命を狙われているとか最悪すぎると思いながら僕はため息をつく。
乙女ゲーム内では1つ足りとも生き残ったルートは無く、毎度のごとく臣麗は闇堕ちした。いつだって臣麗は悪役令息で、ヒロインに八つ当たりしていたのだ。
これまで陰で皇麗の事を悪く言う奴なら他にも居ただろうに、何でよりによってヒロインと思っていると、自室に到着する。
開かれた扉から入室すると、部屋はバルコニーに繋がった大きい窓から差し込む光で照らされていた。周りをぐるりと見回してから、僕は抱えていたチェシーを放す。
僕は執事を下がらせながら、L字の長いソファーに腰かけ、ズボンのポケットに入れていたスマホを取り出した。
GPSと盗聴器、隠しカメラ……。品質の良い物は何れか。受け取りは近くの駅のロッカーでいいとして、もし僕だとバレた時の言い訳はどうする。
取り敢えず手当たり次第必要な物は購入し、僕は制服から私服に着替えた。今日はもう屋敷から出る予定が無い為、白いシャツに青いカーディガン、ジーパンとラフな服装にする。
再びソファーに腰かけ、僕はノートパソコンを開き記憶にある限りの乙女ゲームの知識を書き込んだ。
世界設定の次に人物名を並べていると、1人の名前を書き僕はそれをぼーっと見つめる。
「……斉京夜空……」
先程予知で見た少年の名前を読み上げ、僕は大きくため息をつく。
乙女ゲームの攻略対象で、能力は『言葉通りの幻覚を聞いた相手に見せる』。毒親だった母親への恨みを同じ女である、告白してきた女子達にぶつけるクソ野郎だ。僕なんて前世も今世も告白された事無いのに。
前世の彼女なんて僕から何度も告白して彼女が折れただけ。今世は婚約者も居るから告白されても困るが、それでもモテたいと思うのが男の性。前世の記憶を思い出す前まではモテたいなんて考えもしなかったが。
はあ、とため息をつき男子にしては若干長い自分の銀髪をかき回す。
「会いたくないし知りたくもないけど、夜空ルートがな…」
ヒロインが斉京夜空のルートに行った場合、臣麗は最悪二度と動けなくなる程の大怪我をして仮死状態となる。ヒロインを追って来たら夜空の殺人現場を目撃してしまい、彼の能力と臣麗の能力では使う所が全く違う為、見られたと焦り攻撃する斉京に臣麗も攻撃された為反撃し双方大怪我という結末。
だが斉京は奇跡的に臣麗よりずっと早く目を覚まし、臣麗はおかしいくらいに目を覚まさなかった。斉京の能力により事は隠蔽され臣麗は無傷なのに眠り続けるという設定となる。
それを斉京の文字の下へ打ち込んでいると、扉がノックされた。ちらりと扉の方へ視線を向ける。
「皇麗様、お茶をお持ちしました」
「……入れ」
「失礼致します」
そう言って入室してきた執事は僕の前に赤茶色の紅茶の入ったカップをソーサーと共に置いた。
この紅茶、毒は入っていない。だがしかし、カップの縁に毒が塗られているのを先程予知で見た。ちなみに犯人はこの執事、懐には暗器が隠されている。いや何で、ここ日本。
取り敢えず手をつけないで放置して、居座るなら執事は追い出すか。
そう思い僕はノートパソコンへ打ち込む手を再び動かし始める。過去の記憶では何度も命を狙われた事がある為、毒が盛られていても近くに暗殺者が居ても警戒はするものの恐怖を感じない。暗殺されそうになる事に慣れるって、嫌な人生送ってる。
小さくため息を付き僕は神水流皇麗として生きるにあたりこれから当たり前のように起こる苦労に思いを馳せた。
「……皇麗様、いつまでお飲みにならないのですか?」
「君こそ、いつまでこの僕の部屋にいるつもりかな?」
前世では怖いと感じる事へ今は恐怖を感じず何か変な感じがする現状を早く失くしたいと少し思いながら僕はそう吐き捨てる。
先ほどからこいつはちらちらそわそわしていてとても鬱陶しい。イライラしてキーボードを叩く音が大きくなり、チェシーはまるで僕を宥めるかのようににゃぅと鳴いた。少し肩を震わせ執事がそれに反応する。
ノートパソコンの画面に固定していた視線をちらりと執事に向けると、顔を青くして俯き小刻みに震えていた。
「…う…あ……」
何やらぶつぶつと呟き始めた執事に僕は小さくため息をつく。すると、執事の充血した黒い目がぎょるりと気味悪くこちらに向いた。そして、白目を向きながら鋭く尖った刃物の暗器を振り上げ迫ってきたのだ。
「うわア、うわぁぁぁ!うわぁぁァァぁぁあ”!!!!!」
うるさい奇声を発してくる執事に僕は前世で刺された経験があるにも関わらず怯えもしなかった。ただただ、迫りくる命の危機を見つめるだけ。
……おかしいだろ……。
そう心底思いながら振り下ろされた刃物を避けようとすると、男がぶっ飛んだ。視えていた未来に、僕は驚きも出来ない。
「お前。兄上に、何をしようとした?」
低く怒りが籠った、けれど艶のある声が聞こえた。
◆◆◆◆作者◆◆◆◆
いいね300越えありがとうございます。
神水流皇麗のイラストを先日投稿したのでまだ見ていないという方は見てくださると嬉しいです。
赤いカーペットの上を歩き、ブレザーを執事に手渡しながら僕は自室へ向かった。
臣麗の行動を監視する道具の注文と、明日のヒロインと臣麗の交流について予知しなければならない。その前に、確認したい事があるが。
「『未来予知』」
そう呟き視た未来に、俺は内心肩をすくめる。夕食に毒、就寝中に暗殺者、翌日の朝に誘拐──。
1日に複数回命を狙われているとか最悪すぎると思いながら僕はため息をつく。
乙女ゲーム内では1つ足りとも生き残ったルートは無く、毎度のごとく臣麗は闇堕ちした。いつだって臣麗は悪役令息で、ヒロインに八つ当たりしていたのだ。
これまで陰で皇麗の事を悪く言う奴なら他にも居ただろうに、何でよりによってヒロインと思っていると、自室に到着する。
開かれた扉から入室すると、部屋はバルコニーに繋がった大きい窓から差し込む光で照らされていた。周りをぐるりと見回してから、僕は抱えていたチェシーを放す。
僕は執事を下がらせながら、L字の長いソファーに腰かけ、ズボンのポケットに入れていたスマホを取り出した。
GPSと盗聴器、隠しカメラ……。品質の良い物は何れか。受け取りは近くの駅のロッカーでいいとして、もし僕だとバレた時の言い訳はどうする。
取り敢えず手当たり次第必要な物は購入し、僕は制服から私服に着替えた。今日はもう屋敷から出る予定が無い為、白いシャツに青いカーディガン、ジーパンとラフな服装にする。
再びソファーに腰かけ、僕はノートパソコンを開き記憶にある限りの乙女ゲームの知識を書き込んだ。
世界設定の次に人物名を並べていると、1人の名前を書き僕はそれをぼーっと見つめる。
「……斉京夜空……」
先程予知で見た少年の名前を読み上げ、僕は大きくため息をつく。
乙女ゲームの攻略対象で、能力は『言葉通りの幻覚を聞いた相手に見せる』。毒親だった母親への恨みを同じ女である、告白してきた女子達にぶつけるクソ野郎だ。僕なんて前世も今世も告白された事無いのに。
前世の彼女なんて僕から何度も告白して彼女が折れただけ。今世は婚約者も居るから告白されても困るが、それでもモテたいと思うのが男の性。前世の記憶を思い出す前まではモテたいなんて考えもしなかったが。
はあ、とため息をつき男子にしては若干長い自分の銀髪をかき回す。
「会いたくないし知りたくもないけど、夜空ルートがな…」
ヒロインが斉京夜空のルートに行った場合、臣麗は最悪二度と動けなくなる程の大怪我をして仮死状態となる。ヒロインを追って来たら夜空の殺人現場を目撃してしまい、彼の能力と臣麗の能力では使う所が全く違う為、見られたと焦り攻撃する斉京に臣麗も攻撃された為反撃し双方大怪我という結末。
だが斉京は奇跡的に臣麗よりずっと早く目を覚まし、臣麗はおかしいくらいに目を覚まさなかった。斉京の能力により事は隠蔽され臣麗は無傷なのに眠り続けるという設定となる。
それを斉京の文字の下へ打ち込んでいると、扉がノックされた。ちらりと扉の方へ視線を向ける。
「皇麗様、お茶をお持ちしました」
「……入れ」
「失礼致します」
そう言って入室してきた執事は僕の前に赤茶色の紅茶の入ったカップをソーサーと共に置いた。
この紅茶、毒は入っていない。だがしかし、カップの縁に毒が塗られているのを先程予知で見た。ちなみに犯人はこの執事、懐には暗器が隠されている。いや何で、ここ日本。
取り敢えず手をつけないで放置して、居座るなら執事は追い出すか。
そう思い僕はノートパソコンへ打ち込む手を再び動かし始める。過去の記憶では何度も命を狙われた事がある為、毒が盛られていても近くに暗殺者が居ても警戒はするものの恐怖を感じない。暗殺されそうになる事に慣れるって、嫌な人生送ってる。
小さくため息を付き僕は神水流皇麗として生きるにあたりこれから当たり前のように起こる苦労に思いを馳せた。
「……皇麗様、いつまでお飲みにならないのですか?」
「君こそ、いつまでこの僕の部屋にいるつもりかな?」
前世では怖いと感じる事へ今は恐怖を感じず何か変な感じがする現状を早く失くしたいと少し思いながら僕はそう吐き捨てる。
先ほどからこいつはちらちらそわそわしていてとても鬱陶しい。イライラしてキーボードを叩く音が大きくなり、チェシーはまるで僕を宥めるかのようににゃぅと鳴いた。少し肩を震わせ執事がそれに反応する。
ノートパソコンの画面に固定していた視線をちらりと執事に向けると、顔を青くして俯き小刻みに震えていた。
「…う…あ……」
何やらぶつぶつと呟き始めた執事に僕は小さくため息をつく。すると、執事の充血した黒い目がぎょるりと気味悪くこちらに向いた。そして、白目を向きながら鋭く尖った刃物の暗器を振り上げ迫ってきたのだ。
「うわア、うわぁぁぁ!うわぁぁァァぁぁあ”!!!!!」
うるさい奇声を発してくる執事に僕は前世で刺された経験があるにも関わらず怯えもしなかった。ただただ、迫りくる命の危機を見つめるだけ。
……おかしいだろ……。
そう心底思いながら振り下ろされた刃物を避けようとすると、男がぶっ飛んだ。視えていた未来に、僕は驚きも出来ない。
「お前。兄上に、何をしようとした?」
低く怒りが籠った、けれど艶のある声が聞こえた。
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