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第1章
4話,とある野次馬は畏怖する
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セレブばかりが通うヴァイベル学院初等科に入学して、すぐ分かった。
この人に気に入られたら出世する、と。
神水流臣麗様、まだ幼いながらにも麗しい容姿に高い頭脳、完璧と言っていい程の運動神経。そして、あの神水流家の次男。
『臣』という名前に、神水流家当主である神水流麗矢に残酷さを覚えたが、次期当主の神水流皇麗様に一番近い存在は彼だろう。
だから、彼の側に居るべきだ。
まずは友人に、と思い臣麗様に話し掛けたが、すぐにそんな考えは甘かった事に気が付いた。
「臣麗様、食堂へご一緒しても宜しいでしょうか」
「………」
「臣麗様、次は移動教室です。お供させてください」
「………」
「臣麗様、お荷物をお持ちさせてくださいませんか」
「………」
目が合った事が無い。会話をした事が無い。触れられた事も無い。
それでも俺は彼に付き纏う。そのうち俺の同類が数人増えて、彼等と共に俺は臣麗様の後に続く日々を過ごした。それは喜怒哀楽も無い毎日で、それでも次第に臣麗様の考えも何となく分かってきたような、そんな気持ちを味わって。まだ小学生ながらに、臣麗様の自称友人である俺達は処世術を学んでいった。
そんな日々のある日、俺等とは違う形で図々しく臣麗様に付き纏う女が現れる。
「愛染咲希っていいますっ!わたし、臣麗くんと仲良くなりたいですっ!!」
「………」
確かにそいつは可愛くあざとい女だと思った。周りも彼女の容姿に見惚れ、何人かの名家の子が彼女に告白したという噂も聞く。
けれど高校からの編入生、それも特待生だ。
初等科から大学までエレベーター式のこの学院。名家の生まれならば、学校はここに通うことこそが名誉とされている為、引っ越すとしてでもセレブはこぞって我が子を通わせたがる。それでも面接で素行が悪く、身分が低く、落とされる者達も居るのに、編入生の上に特待生だなんて。
編入生だけならば、海外に住んでいた可能性もあっただろう。けれどそれは特待生である時点であり得なくなる。
つまり愛染咲希は一般市民だ。
それにも関わらず、彼女は無礼にも臣麗様に話し掛ける。臣麗様はいつものように無視していたが、段々苛立ってこられたのか、彼女に言い返すようになった。
◇◇◇◇今日の昼休み◇◇◇◇
今日も飽きずに、図々しくも、愛染咲希がまた臣麗様の元を訪れる。臣麗様はいつも以上にストレスが貯まられているようで、デフォルトな無表情が少し、眉間に皺を寄せられていた。
それに気付かない彼女は、にこにこ笑いながら、2つ結びの髪を揺らして臣麗様に言葉を発する。
「臣麗くん!今日のお菓子の調理実習で、わたしはクッキーを作ったんだけど、良かったら受け取って!」
「………」
俺達も今日行った調理実習。テーマは菓子で、何を作っても評価はつく。
臣麗様はマカロンを作っていらして、何方かに渡そうとしていたのかラッピングもされていた。本来なら2時間以上かかり、とてもじゃないが2限では完成しない代物だ。それなのに、それはプロ顔負けの美しさがある。
そんな中、簡易なラッピングで素朴なクッキーを差し出す庶民。
身の程知らずにも程がある。
怒りを通り越し俺達が呆れている間にも、臣麗様は愛染咲希を無視し先に進まれた。そんな臣麗様にぷうっと頬を膨らませた愛染咲希は、臣麗様の腕に抱きつき彼を引き留める。あまりに無礼な行動に、俺達は揃ってヒュッと息を飲んだ。
「ねーぇっ、シカトなんて酷いよ!折角わたしが臣麗くんの為に一生懸命作ったのに、何で受け取ってくれないの?!意味分かんないっ!!美味しいんだよっ、なのに食べてくれないとか、ほんとにサイテーっ!!!」
無礼な行為に無礼な言葉。思わず足を止める、通りすがりの生徒が続出した。結果、彼等は野次馬と化し、そして本物の野次馬共も群がってくる。俺は思わず顔を歪めた。
「………、離せ」
しばらく無言を貫き愛染咲希を振り払おうとしていた臣麗様だったが、あまりにもしつこい彼女の拘束し、口を開く。が、彼女はそれでも引かなかった。
「臣麗くんが無視するのが悪いんじゃん!離して欲しいなら受け取ってよ、わたしのクッキー!そしてわたしに謝って!ほんとに、何でいつもいつも無視するの?!わたしが毎日、精一杯ぅ、ぼっちで孤独で可哀想な臣麗くんに話し掛けてあげてるのに、何で一向に心を開いてくれないの!おかしいじゃん!!」
「……うるっさいな、殺されたいのか?」
ぞわっと。背筋を駆け抜けた悪寒。
無意識に息を殺し、背中を丸め、気配を消し目立たないよう、臣麗様に見付からないようにする。
それは回りも同じで、皆冷や汗をかけながら黙り込み、視線も中心の2人から外す。
しんと、静まり返った廊下。ぞわぞわと立った鳥肌は収まらず、臣麗様の青い目に睨まれた愛染咲希は真っ青な顔でがくがくと震えている。
───殺されたいのか?
臣麗様は、そうおっしゃった。
死にたいのか、じゃない。明確に、人が人に殺される事を意味させた。
愛染咲希が、神水流臣麗に殺される事を。
野次馬の皆、怖いのだ。自分が殺される対象になる事が。確かな生存本能が、今ここには滲み出ている。
圧倒的な強者。弱肉強食の上。それが、臣麗様なのだと。
鈍い彼女でも、流石にヤバイと感じたようで、慌てた様子で、わざとらしく話を反らした。
「そ、そういえば、この間臣麗くんにお兄さんが居るって聞きました!意外です!てっきり臣麗くんは一人っ子だの思っていたので!」
ぶちっ、と。
何かが切れるような、音が聞こえた気がした。
この人に気に入られたら出世する、と。
神水流臣麗様、まだ幼いながらにも麗しい容姿に高い頭脳、完璧と言っていい程の運動神経。そして、あの神水流家の次男。
『臣』という名前に、神水流家当主である神水流麗矢に残酷さを覚えたが、次期当主の神水流皇麗様に一番近い存在は彼だろう。
だから、彼の側に居るべきだ。
まずは友人に、と思い臣麗様に話し掛けたが、すぐにそんな考えは甘かった事に気が付いた。
「臣麗様、食堂へご一緒しても宜しいでしょうか」
「………」
「臣麗様、次は移動教室です。お供させてください」
「………」
「臣麗様、お荷物をお持ちさせてくださいませんか」
「………」
目が合った事が無い。会話をした事が無い。触れられた事も無い。
それでも俺は彼に付き纏う。そのうち俺の同類が数人増えて、彼等と共に俺は臣麗様の後に続く日々を過ごした。それは喜怒哀楽も無い毎日で、それでも次第に臣麗様の考えも何となく分かってきたような、そんな気持ちを味わって。まだ小学生ながらに、臣麗様の自称友人である俺達は処世術を学んでいった。
そんな日々のある日、俺等とは違う形で図々しく臣麗様に付き纏う女が現れる。
「愛染咲希っていいますっ!わたし、臣麗くんと仲良くなりたいですっ!!」
「………」
確かにそいつは可愛くあざとい女だと思った。周りも彼女の容姿に見惚れ、何人かの名家の子が彼女に告白したという噂も聞く。
けれど高校からの編入生、それも特待生だ。
初等科から大学までエレベーター式のこの学院。名家の生まれならば、学校はここに通うことこそが名誉とされている為、引っ越すとしてでもセレブはこぞって我が子を通わせたがる。それでも面接で素行が悪く、身分が低く、落とされる者達も居るのに、編入生の上に特待生だなんて。
編入生だけならば、海外に住んでいた可能性もあっただろう。けれどそれは特待生である時点であり得なくなる。
つまり愛染咲希は一般市民だ。
それにも関わらず、彼女は無礼にも臣麗様に話し掛ける。臣麗様はいつものように無視していたが、段々苛立ってこられたのか、彼女に言い返すようになった。
◇◇◇◇今日の昼休み◇◇◇◇
今日も飽きずに、図々しくも、愛染咲希がまた臣麗様の元を訪れる。臣麗様はいつも以上にストレスが貯まられているようで、デフォルトな無表情が少し、眉間に皺を寄せられていた。
それに気付かない彼女は、にこにこ笑いながら、2つ結びの髪を揺らして臣麗様に言葉を発する。
「臣麗くん!今日のお菓子の調理実習で、わたしはクッキーを作ったんだけど、良かったら受け取って!」
「………」
俺達も今日行った調理実習。テーマは菓子で、何を作っても評価はつく。
臣麗様はマカロンを作っていらして、何方かに渡そうとしていたのかラッピングもされていた。本来なら2時間以上かかり、とてもじゃないが2限では完成しない代物だ。それなのに、それはプロ顔負けの美しさがある。
そんな中、簡易なラッピングで素朴なクッキーを差し出す庶民。
身の程知らずにも程がある。
怒りを通り越し俺達が呆れている間にも、臣麗様は愛染咲希を無視し先に進まれた。そんな臣麗様にぷうっと頬を膨らませた愛染咲希は、臣麗様の腕に抱きつき彼を引き留める。あまりに無礼な行動に、俺達は揃ってヒュッと息を飲んだ。
「ねーぇっ、シカトなんて酷いよ!折角わたしが臣麗くんの為に一生懸命作ったのに、何で受け取ってくれないの?!意味分かんないっ!!美味しいんだよっ、なのに食べてくれないとか、ほんとにサイテーっ!!!」
無礼な行為に無礼な言葉。思わず足を止める、通りすがりの生徒が続出した。結果、彼等は野次馬と化し、そして本物の野次馬共も群がってくる。俺は思わず顔を歪めた。
「………、離せ」
しばらく無言を貫き愛染咲希を振り払おうとしていた臣麗様だったが、あまりにもしつこい彼女の拘束し、口を開く。が、彼女はそれでも引かなかった。
「臣麗くんが無視するのが悪いんじゃん!離して欲しいなら受け取ってよ、わたしのクッキー!そしてわたしに謝って!ほんとに、何でいつもいつも無視するの?!わたしが毎日、精一杯ぅ、ぼっちで孤独で可哀想な臣麗くんに話し掛けてあげてるのに、何で一向に心を開いてくれないの!おかしいじゃん!!」
「……うるっさいな、殺されたいのか?」
ぞわっと。背筋を駆け抜けた悪寒。
無意識に息を殺し、背中を丸め、気配を消し目立たないよう、臣麗様に見付からないようにする。
それは回りも同じで、皆冷や汗をかけながら黙り込み、視線も中心の2人から外す。
しんと、静まり返った廊下。ぞわぞわと立った鳥肌は収まらず、臣麗様の青い目に睨まれた愛染咲希は真っ青な顔でがくがくと震えている。
───殺されたいのか?
臣麗様は、そうおっしゃった。
死にたいのか、じゃない。明確に、人が人に殺される事を意味させた。
愛染咲希が、神水流臣麗に殺される事を。
野次馬の皆、怖いのだ。自分が殺される対象になる事が。確かな生存本能が、今ここには滲み出ている。
圧倒的な強者。弱肉強食の上。それが、臣麗様なのだと。
鈍い彼女でも、流石にヤバイと感じたようで、慌てた様子で、わざとらしく話を反らした。
「そ、そういえば、この間臣麗くんにお兄さんが居るって聞きました!意外です!てっきり臣麗くんは一人っ子だの思っていたので!」
ぶちっ、と。
何かが切れるような、音が聞こえた気がした。
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