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第1章
6話,神水流皇麗は帰宅する
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後ろから抱きつかれ、腕を腹に回され身動きが取れない。手付きは優しいのに力が強く、振りほどこうとすればするほど強く抱き締められていく。まるで罠にはまった獣のようだ。
僕の頬に擦り付けられる彼の頬、レロッレロッ♡と舐められる首筋、くんくんと嗅がれる僕の銀髪。
触られる度に、ゾッと鳥肌が立つ。申し訳ないけど、ぶっちゃけとてつもなく気持ち悪い。僕に触らないでくれよ。
「あー、ほんと。皇麗だったら俺、全部食べれるかも。ほんと、めっちゃ美味しそうに見える。全身キャンディーみたく舐め回したい、ペロペロしたい♡骨まで甘くしゃぶってあげるから、放課後でも俺の家においでよ」
「悪いね、僕はあまり放課後が空いていなくて」
だから、さっさと離せ。
口元に笑みを意識的に浮かべながら、僕は内心毒付く。野郎に触られるとか嬉しくないし、僕のパーソナルスペースは広めである。
神水流グループの事業と氷鉋グループの事業はあまり関係しておらず、滅多に交流してこなかった為、中学の途中に初めて同じクラスになってから僕達は知り合った。友人にはなっていない。
だって僕の友達がこんな変態なんて、僕の評判に関わるから。
と、思っていたのがつい最近。前世の記憶を取り戻した為気付いたのだが、普通に氷鉋が気持ち悪くて離れたくても、あくまでもあの氷鉋家の御曹司様に失礼はしない方がいいと考え必死に我慢していたようだった。
気持ち悪いって思っていたのか、この僕が。驚きである。
苛立ちとかを感じる事は多々あったが、まさか、気持ち悪いだなんて。
久しぶりの怒り以外の感情。まあ喜ばしい変化………、いや普通にストレス貯まるわ。
前世の記憶を頼りに生き残る算段でも立てようかと思っていたが、まあ帰ってからでもいいだろ。変態がくっ付いた状態で正常な判断なんて出来やしない。血迷って家出でもしたら暗殺されやすくなってしまうし。
「氷鉋、昼ご飯は食べた?」
「ん?まだだよ。グダグダと告白長引かされたせい、ほんと最悪ぅ。俺言ってんのにね、ゲイだって」
「僕は初耳だけどね」
特に否定するつもりは無いが、流石に驚く。まさかこいつ、これまでのセクハラは……。
「そりゃそうじゃん。そんな事言ったら、皇麗、俺との接触避けようとするでしょ。折角好みの顔見つけたのに、触らせてくれないなんて、そんな勿体無い事にしたくないし。まあその性格は、最も恋人にしたくないタイプだけど」
本物の体目当てであった、何て奴だ。
すると、先程から抱きついている為に回されている手が、するりと、まるで小動物がいたずらに入ったかのように、ズボンの中に入ってきた。
あはは、こいつめ~。お茶目なんだから☆
否、絶交である。
「そっか、じゃあ、僕はここで」
氷鉋の手を振り払い、僕は教室に向かう為足を動かす。と、手首を掴まれた。
「ん?逃げちゃダメだよ、ここからなのに。何処行くの」
「家だけど」
「えー、まだ2限も授業あるよ。それに、俺はもっと皇麗と居たい」
「へぇ、残念だけどまたの機会に」
「もう少し残念そうにして」
それじゃあね、って。
僕は不満たらたらな氷鉋を置いて数歩教室へ足を進める。荷物を取ったら家に電話して、駐車場まで迎えに来させなければ。
そう歩きながら考えていると、しつこく再び氷鉋が声をかけてきた。
「じ、じゃあ、俺に送らせて!家も皇麗より近いし車なら俺のとこの方がすぐ来るからさ。ね、そのくらいならいいでしょ?」
「………、分かった」
能力で家の車と氷鉋の車のどちらが速く着くか見るのが一番楽なんだが、ヒロインの力が強すぎてそんな小さいことを見る余裕も無い。
パアッと顔色を明るくしらんらんとルビーのような赤色の瞳を輝かせた氷鉋は、早速家に電話をかけて車を呼んだ。
まあ、どちらでも誤差だろう。
そう思い、耳にスマホを当てる氷鉋を背に、僕は教室へ再び足を進める。授業を受けず下校したところで、僕を叱る者はいない。父上もきっと、神水流家の名に泥を塗らないよう、テストで首位でもキープしておけば何も言われないだろうから。
ふと、先程の予知で見えた、1週間程先の未来を思い出す。
『ずっと、好きでした!斉京君っ、わたしと付き合ってください!』
『……それは、光栄だな……。ここでは何だし、場所を変えないか。そこの渡り廊下を渡って、空き教室へ行こう』
『うっ、うん!』
嬉しそうに頬を赤く染めた令嬢は、斉京と呼ばれた、金の縁の眼鏡をかける男子生徒の言う通り、教室へと足を踏み出す。
そして彼女は───階段から転げ落ちた。地面に頭を強く打ち付けたようで、真っ赤な血が彼女から広がっていく。
『あぁ……、最高だ……』
彼は自身の口を両手で覆い、先程の女子の赤面など非じゃないほど頬を赤く染め、充血した青い目というアンバランスな球体で、ぎょるりと息絶えつつある彼女を見下ろした。
甘美に満ちた、温度の無い声。
僕は彼を、知っている。
「……はぁ……」
ため息をつき、自身の銀色の髪をかきむしる。
取り敢えず、その日の夕方は南館の踊り場に行かないよう、臣麗にも良く言わないと。巻き込まれるなんて、死んでも御免だ。
◆◆◆◆作者◆◆◆◆
お気に入り登録35越え、いいね100越え、ありがとうございます。
ラブストーリーを書いている時に恥ずかしいとか思うタイプなので、恋愛小説には不向きですが、これからも読んでくださると嬉しいです。引き続きお願い致します。
お気に入り登録、いいね、エール、とても嬉しいです。本当にありがとうございます。
僕の頬に擦り付けられる彼の頬、レロッレロッ♡と舐められる首筋、くんくんと嗅がれる僕の銀髪。
触られる度に、ゾッと鳥肌が立つ。申し訳ないけど、ぶっちゃけとてつもなく気持ち悪い。僕に触らないでくれよ。
「あー、ほんと。皇麗だったら俺、全部食べれるかも。ほんと、めっちゃ美味しそうに見える。全身キャンディーみたく舐め回したい、ペロペロしたい♡骨まで甘くしゃぶってあげるから、放課後でも俺の家においでよ」
「悪いね、僕はあまり放課後が空いていなくて」
だから、さっさと離せ。
口元に笑みを意識的に浮かべながら、僕は内心毒付く。野郎に触られるとか嬉しくないし、僕のパーソナルスペースは広めである。
神水流グループの事業と氷鉋グループの事業はあまり関係しておらず、滅多に交流してこなかった為、中学の途中に初めて同じクラスになってから僕達は知り合った。友人にはなっていない。
だって僕の友達がこんな変態なんて、僕の評判に関わるから。
と、思っていたのがつい最近。前世の記憶を取り戻した為気付いたのだが、普通に氷鉋が気持ち悪くて離れたくても、あくまでもあの氷鉋家の御曹司様に失礼はしない方がいいと考え必死に我慢していたようだった。
気持ち悪いって思っていたのか、この僕が。驚きである。
苛立ちとかを感じる事は多々あったが、まさか、気持ち悪いだなんて。
久しぶりの怒り以外の感情。まあ喜ばしい変化………、いや普通にストレス貯まるわ。
前世の記憶を頼りに生き残る算段でも立てようかと思っていたが、まあ帰ってからでもいいだろ。変態がくっ付いた状態で正常な判断なんて出来やしない。血迷って家出でもしたら暗殺されやすくなってしまうし。
「氷鉋、昼ご飯は食べた?」
「ん?まだだよ。グダグダと告白長引かされたせい、ほんと最悪ぅ。俺言ってんのにね、ゲイだって」
「僕は初耳だけどね」
特に否定するつもりは無いが、流石に驚く。まさかこいつ、これまでのセクハラは……。
「そりゃそうじゃん。そんな事言ったら、皇麗、俺との接触避けようとするでしょ。折角好みの顔見つけたのに、触らせてくれないなんて、そんな勿体無い事にしたくないし。まあその性格は、最も恋人にしたくないタイプだけど」
本物の体目当てであった、何て奴だ。
すると、先程から抱きついている為に回されている手が、するりと、まるで小動物がいたずらに入ったかのように、ズボンの中に入ってきた。
あはは、こいつめ~。お茶目なんだから☆
否、絶交である。
「そっか、じゃあ、僕はここで」
氷鉋の手を振り払い、僕は教室に向かう為足を動かす。と、手首を掴まれた。
「ん?逃げちゃダメだよ、ここからなのに。何処行くの」
「家だけど」
「えー、まだ2限も授業あるよ。それに、俺はもっと皇麗と居たい」
「へぇ、残念だけどまたの機会に」
「もう少し残念そうにして」
それじゃあね、って。
僕は不満たらたらな氷鉋を置いて数歩教室へ足を進める。荷物を取ったら家に電話して、駐車場まで迎えに来させなければ。
そう歩きながら考えていると、しつこく再び氷鉋が声をかけてきた。
「じ、じゃあ、俺に送らせて!家も皇麗より近いし車なら俺のとこの方がすぐ来るからさ。ね、そのくらいならいいでしょ?」
「………、分かった」
能力で家の車と氷鉋の車のどちらが速く着くか見るのが一番楽なんだが、ヒロインの力が強すぎてそんな小さいことを見る余裕も無い。
パアッと顔色を明るくしらんらんとルビーのような赤色の瞳を輝かせた氷鉋は、早速家に電話をかけて車を呼んだ。
まあ、どちらでも誤差だろう。
そう思い、耳にスマホを当てる氷鉋を背に、僕は教室へ再び足を進める。授業を受けず下校したところで、僕を叱る者はいない。父上もきっと、神水流家の名に泥を塗らないよう、テストで首位でもキープしておけば何も言われないだろうから。
ふと、先程の予知で見えた、1週間程先の未来を思い出す。
『ずっと、好きでした!斉京君っ、わたしと付き合ってください!』
『……それは、光栄だな……。ここでは何だし、場所を変えないか。そこの渡り廊下を渡って、空き教室へ行こう』
『うっ、うん!』
嬉しそうに頬を赤く染めた令嬢は、斉京と呼ばれた、金の縁の眼鏡をかける男子生徒の言う通り、教室へと足を踏み出す。
そして彼女は───階段から転げ落ちた。地面に頭を強く打ち付けたようで、真っ赤な血が彼女から広がっていく。
『あぁ……、最高だ……』
彼は自身の口を両手で覆い、先程の女子の赤面など非じゃないほど頬を赤く染め、充血した青い目というアンバランスな球体で、ぎょるりと息絶えつつある彼女を見下ろした。
甘美に満ちた、温度の無い声。
僕は彼を、知っている。
「……はぁ……」
ため息をつき、自身の銀色の髪をかきむしる。
取り敢えず、その日の夕方は南館の踊り場に行かないよう、臣麗にも良く言わないと。巻き込まれるなんて、死んでも御免だ。
◆◆◆◆作者◆◆◆◆
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