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第1章

3話,神水流皇麗は決心する

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前世、彼女がハマっていた乙女ゲーム。攻略を手伝ってほしいと頼まれ良く空き時間にはこれをプレイしていた。
正直、クソつまらなかった。いやだって、僕は乙女じゃないし。
舞台は現代日本の、セレブが通う学園。そこにヒロインが編入してきて、物語は始まる。
登場人物は全員イケメンでお金持ち、攻略対象は勿論、悪役令息までも。
その現代学園ものであるはずのゲームには、何故かグロ要素が存在する。僕が死んだ直前であった、学園で自殺する悪役令息もそうだが、他にも攻略対象の闇的な感じで色々血が飛んでいた。ていうか、ゲームで僕死んでたし。
神水流皇麗はゲーム内で登場していないが、攻略対象は皆彼の事を知っていて、唯一彼を知らないキャラはヒロインのみだったはず。
死因はルートによって違っていて、家のいざこざでの毒殺、ストーカによる殺害、ストレスからの自殺、家から勘当され事故死。最も最悪だと感じたのは、臣麗を殺そうとして相討ち気味だが返り討ちにあったルート。あれは臣麗の闇落ち度が半端なかった。
ちなみにこのゲームは、ファンタジー要素も含まれている。基本的に、1人1つ、能力を持ち合わせているのだ。
臣麗の能力は、『完全記憶』。本当に、攻撃系の能力じゃなくてよかったと心底思う。ヒロインの『能力無効化』がどの程度通用するのか良くわからないから、即バッドエンドと言う言は無いだろうが。
そんな感じでゲームを思い返していると、チェシーがペロペロと頬を舐めてきて、意識がそちらに向く。すると、臣麗が僕に向かって深く頭を下げていた。90度、と言うよりも、いつでも土下座出来るような体制だ。
ただの土下座ではない、スライディング土下座だ。いやスライディングしたら僕に臣麗が突っ込む形になるんだが。
そんなくだらない事を思っていると、臣麗が重々しい雰囲気で話し始めた。

「……兄上、私が居ながら、兄上の耳にあのような戯れ言を入れるような事をしてしまい、大変申し訳ございません。今回の件の罰、謹んでお受けします。誠に申し訳ありませ……」

「何?君は僕に何を言わせたいんだ?僕は構わない、僕は怒っていない。さっきからそう言っているだろ」

「っ申し訳ありません……」

臣麗の言葉にハッとする。
しまった、また謝らせてしまった。 
神水流皇麗は目上の相手と関わる機会よりも下の者に命令する事が多い為、こんなプライドの塊になっている。どうしても偉そうな言葉が口から出てしまうのだ。
どうしようか、どうフォローすればいい。いや何だかんだ言っても、臣麗は変わらず無表情なんだが。

「…いや、謝らなくていい。君は彼女を教室まで送ってあげて。僕は教室に戻る」

「御意に」

そう言って頭を下げた臣麗を背に、僕は教室へ歩き出す。先程僕が通った、野次馬が作り出した道は、見事に野次馬により塞がれていた。ざっとまた野次馬が青ざめた表情で道を開け、僕は先程は感じもしなかった気まずさを覚えながら足を進める。
そんな僕の気持ち等知らないのか、それとも気付いていてこの反応なのか、チェシーは呑気に「んにゃごーーー」、と欠伸していた。まあ、そんなところも愛おしいから愛猫なんだが。
そんな事をぼーっと考えながら、チェシーの頭をゆるりと撫でてしばらく歩くと、僕は小さく呟いた。

「『未来予知』」 

その言葉と同時に、僕の脳内でびりりと何かが痺れるように反発してくるのを感じた。それでも根気よく押し通すと、視えたのは、無表情ながらも明らかに苛立って見える臣麗が、ヒロインを送り届ける様子。
ひとまずほっと、安堵の息をつく。弟が急に殺しかかったりしてなくてよかった。
それにしても、と思う。

「ヒロインの能力強すぎだろ……」

先程の痺れた感覚、恐らくヒロインの能力による物だ。だから未来が視えずらい。あの2人の未来も、今の僕には数秒数分後の物しか見えない。
しかもヒロインが近くにいる未来は本当に視えにくく、先程の臣麗とヒロインの騒動だって向かっている途中はそれについての未来が、全くと言って未来が視えなかった。いつもは数日後までの未来ならはっきり視えるのに。

「おーうーりっ♡♡」

すると突然、後ろからぎゅっと抱き締められた。お腹に手を回されするりするりと何度も撫でられ、肩に顔を埋められる。ふわりとバラのいい匂いが香った。

「何処行ってたの?告白から戻ってきたら教室に皇麗が居なくて驚いちゃったよ。はぁ、てかほんと、皇麗っていい匂い♡♡♡舐めていーい?」

「………」

しまった、未来を眺めてぼんやりと歩いていたら変態が来やがった。
氷鉋清ひがのせい、僕の自称友人で、人の匂いを嗅いだり抱きついたり噛んだりしてくる変態である。
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