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第188話 僕のために生きてくれた人

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「私、ユウタさんのために生きて来れて良かった……」

 僕はガイアの最後の言葉が耳について離れなかった。
 彼女は僕のために生きていてくれた。
 死んだ僕を、自らの命を犠牲に蘇生魔法を使って、僕を蘇らせてくれたのは彼女だった。
 僕は僕だけのために生きている最低の人間だ。
 そんな彼女は、僕のために生きてくれて最後に良かったと言ってくれた。

「ガイアさん……」

 自然と彼女との日々が脳裏を過る。
 僕は目の前にいるエリスのことが大好きだ。
 だけど、皆を殺してまでその愛を貫き通すべきなのか。
 ガイアの死に顔は穏やかだった。
 まるで、僕を地球《ちきゅう》で待ってくれているかの様だ。

「ユウタ。あなたは正しい」

 膝をつき、震える僕にエリスは優しく呼び掛けてくれた。

「地球《ちきゅう》何て、辛い悲しみや、身勝手な争いばかり。ましてや戦争なんて愚かなことが行われている。それより、この世界で一緒にずっといましょう」

 ああ……。
 彼女の言葉は何て、甘やかで魅惑的なんだろう。
 その言葉こそが真実に思えてならない。



 辛い奴隷生活に希望があるとするなら、一日たった30分だけ、エリスと二人、街の図書館で過ごすのが唯一の楽しみだった。
 僕とエリス、それぞれの雇い主がくれる休憩時間。
 その間だけは、心穏やかに過ごせる時だった。

「ユウタはエルフを見たことがある?」
「ないよ」
「私はね、一度だけ見たことがある」
「へぇ」
「耳が尖ってて、すごく綺麗だった」

 エリスの雇い主は裕福な夫婦だった。
 そこで彼女は雑用や、夫婦の息子の慰みとして使役されていた。
 僕はその息子のことが羨ましかった。

「バカ息子が気球に乗せてくれて、辺境に連れて行ってくれたの。その時、上空から辺境の集落が見えたの」

 もっと近くで観たい。
 彼女はそうおねだりした。

「バカ息子は偉そうにしてるけど、私の事好きだったから私の言うこと聞いてくれて、辺境に気球を降ろしてくれたの。気球を見て驚いたエルフが綺麗で、嫉妬しちゃった」

 彼女は僕の知らない世界をたくさん知っていて、そのことを沢山話してくれた。
 僕も自分の知ってることを彼女に沢山話した。
 僕と彼女は同じ境遇で、しかも話がピッタリあったし、気持ちもどこか通じ合うところがあった。
 お互いがお互いのことを意識するのに時間は掛からなかった。

「ユウタ。こんな生活もう嫌。私を連れ出して」

 その言葉を僕は待っていた。
 僕は彼女を連れて夜の中を飛び出すことにした。

つづく
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