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第128話 空気椅子の気持ち

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「お前達が、私のパパやママを殺したのね!」

 マリアンはフィナに押し倒された。
 不意を突かれ驚いたのか、目を丸くしている。

「うるさいっ!」

 だが、力では劣るフィナは跳ね飛ばされた。
 床に尻餅をついたマリアンは、立ち上がり埃を払うとこう言った。

「私の家族以外の人間も、エルフを殺してる。それに血を飲んだ者はみんな死んだ。お互い様だろ?」

 メチャクチャな理論だった。

「お互い様じゃない! お前らのせいで……お前らのせいでっ……!」

 フィナは歯を食いしばり、泣きじゃくった。
 ズボンの膝の辺りを掴んだ拳の上に涙が落ちる。

「フィナ」

 僕は彼女の両肩に手を置いた。

「マリアン、一つ情報が抜け落ちている」

 僕はフィナに向かって小さく頷いた。
 彼女も小さく頷いた。

「エルフに慕われれば、その血は効果を発揮する」

 マリアンの目が大きく見開かれた。

「……本当なのか?」

 震える声で問い掛けて来る。

「そうだよ! エルフに好かれれば、殺されない限りずーっと生きられるよ! ユウタなら私に好かれてるから、私みたいに2000歳にだってなれるよ!」

 フィナは両手を大きく広げ、無限大を表現した。

<その効果はエルフ一体につき、人間一人>

 ネスコはそう言っていた。
 マリアンは小さく顎に手を当て、考え込んでいる。
 彼女の頭の中で、僕らの仲間になってでも不老不死を得ることが正しいのか、考えているのだろう。

「……分かった。一時的ではあるがお前の仲間になろう」

 赤毛の狂戦士は不承不承ながら、僕らに協力することになった。
 周囲には不満を表情に出す者もいた。
 僕は思った。
 仕方ないことだと。
 僕らは魔王を倒すためにマリアンの力が必要だ。
 マリアンは不老不死のためにエルフの血が必要だ。
 だから、一時的に協力する。

「ユウタ。いいのか?」

 いつの間にか側にいるリンネが眉根を寄せ、問い掛ける。

「分かってる」

 マリアンはエルフの血を手に入れたら、僕らを裏切るだろう。

「それまでに信頼関係を築ければ、問題ないよ」
「それが一番難しいぞ」

 リンネの言うとおりだ。
 考え方の違う人間が、同じ方向を向くのは難しい。
 だが、救世主として、全ての人間を導かなければならない。

「ねー、マリアン」
「あ?」

 フィナが竜神の剣を鞘に収めたマリアンに問い掛ける。

「マイナス1000000000000点からのスタートだからね!」
「どういう意味だ?」
「私にすごく嫌われてるってこと! ここからプラスに転じるのは大変だよぉ!」
「力づくでも、お前を従わせるさ」

 マリアンはフィナを睨みつけた。
 フィナが舌を出し、

「べー、だ! お前なんか好きにならないよー!」
「このやろぉ!」

 まるでじゃれているかのようだ。
 


 赤毛の狂戦士、マリアンの椅子代わりにされた俺は屈辱にまみれていた。
 まぁ、彼女の尻は柔らかくて麻痺状態の俺にも、何故かその感触は伝わっていて、そこだけは唯一の許せることだったが……
 そして、俺をほっといて話が進んでいる……
 俺は言葉を発せない代わりに、こう思った。

(俺は空気か?)

つづく
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