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第109話 転移したその先は、あの場所…… そんなに都合の良い世の中ではありません!

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 僕は目を覚ました。

「ここは一体……?」

 転移玉を使った空間移動により、僕はこの場所に降り立った。
 ……って、この場所って、どこ?
 辺りを見渡した。
 左右に土の壁がある。
 壁面には等間隔でタイマツが差し込まれていて、ほのかに明るい。
 誰かが探索するために用意したのだろうか?
 通路は狭くて人間二人がギリギリ並んで歩けるくらいの感覚だ。
 真っすぐ先は、暗闇に包まれていた。
 妙に埃っぽくて、湿っぽい。

「……ダンジョン?」

 僕はこの場所をそう判断した。
 この異常な空間はそうに違いない。

「何ということだ……。地球《アース》のギルドホールに向かうつもりが、こんな場所に転移するなんて」

 僕はあまりダンジョン探索の経験が無い。
 だから、これがどこのダンジョンで、何の目的で作られたのかもわからない。
 とりあえず、転移玉による移動が失敗したことだけは理解出来た。
 そして、もっと僕を不安にさせたのは周りに誰もいないということだ。
 意識を集中し、フィナに通信を飛ばす。
 だが、何かに遮断され彼女に届かない。
 同じく、ガイアにも届かない。
 昔、聞いたことがある。
 ダンジョンは特殊な環境だ。
 外への通信は可能なのに、パーティ同士の通信が不可になることがあるそうだ。
 ダンジョンはモンスターの領域なので、そういった現象はやつらの罠の一つととらえることも出来る。
 それ以外にも色々あるらしいが、今はそれどころじゃないので割愛する。

「フィナ! ガイアさん!」

 さーん!
 さーん!
 さー……ん
 さー…………

 僕の叫び声は、虚しくダンジョン内に反響するだけだった。
 落ち込んでいる暇は無い。
 フィナとガイアと合流し今すぐここを出なければ。

「呼んだ!?」

 背後からいつもの甲高い黄色い声。
 僕はホッと胸を撫で下ろし、振り返る。

「フィナ! まったくどこに行ってたんだ!? 心配したんだぞ!」
「君は私じゃなくて、自分の身を心配してたんだよね?」
「うっ……」

 痛いところを突かれ、僕はグッと言葉に詰まる。
 僕はフィナの顔を見た。
 ほのかな灯りに照らされた彼女の瞳には、タイマツの炎が揺らめく様が映り込んでいた。
 緑色の髪が妖しく揺らめく。
 何だか、いつもの彼女と違う様な、言葉では表せない違和感を感じる。

「フィナ、ここがどこか分かるか?」
「分からない」
「そっか……。じゃ、ガイアさんがどこにいるか知ってるか?」
「知らない」

 何か、会話がしっくりこないというか、フィナらしくない冷静な受け応えだ。
 いつもはもっと能天気な感じなんだがなぁ……。

「とりあえず、何とかして出ようよ」

 フィナが真面目な顔で言う。

「……うん」
「君は前ね。私は後ろを警戒しながら進むから」

 君、か……。
 何かよそよそしいな。
 ま、慣れないダンジョンでフィナも緊張してるのかな。
 僕は壁に刺さっているタイマツを一本抜き取り手に持った。
 モンスターに警戒しながら前を行く。

「ぐっ……」

 突如、背中に激痛が走る。

「フィナ?」

 口角を吊り上げ、目をギラギラさせた邪悪な表情のフィナが、僕の背中をナイフで一突きにしていた。

つづく
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