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第32話 それでも、好きなことをして生きて行く
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「で、親父はどうしたの?」
訊くまでも無かった。
こうしてクルスが生まれて生きているということは、暗殺は成功したのだろう。
だが、ユナはクルスの顔を見て、顔を横に振った。
「暗殺は失敗したの」
「え? じゃ、親父は?」
「お父さんは、暗殺には参加しなかった」
(どういうことだ?)
「お父さんは参加するって言ったけど、仲間達がそれを許さなかったの」
ユナはその時の、ナツヤと仲間達のやりとりを話した。
~~~
「ナツヤ、ユナさんのお腹の子供のためにお前は、生きなきゃならない」
「だが……」
「心配するな。それに、もし俺達が死んだら……意志を継ぐものがいなくなる。誰か一人は生き残らなきゃな」
「皆……」
~~~
ラインハルホ・ウラヌス国王の暗殺は失敗した。
皆、捕らえられ拷問された。
それでも、誰一人、ナツヤの名を口にする者はいなかった。
苛烈な拷問の末、皆、殺された。
「その後、お父さんと私はラインハルホ城下から、このパルテノ村に住み家を移したの。クルスを産むために」
クルスの脳裏に、この異世界に転生した瞬間の記憶がフラッシュバックする。
~~~
「よくやった。ユナ」
「ナツヤが側にいてくれたから……」
~~~
「親父……」
クルスは今すぐにでも、父親の胸に飛び込みたいと思った。
「クルス」
「何? 母さん」
「お父さんが、何でクルスをラインハルホ王国の騎士にしたいか、話しておかないとね」
今日のユナはいつになく、よく話す。
まるで自分の命が消えかけようとしているのを、悟っているかの様だ。
命ある内に、伝えたいことを、全てクルスに伝えようとしているのが分かる。
「皮肉なことに、ラインハルホ・ウラヌス国王は暗殺の翌年に病死したの。その後を継いだのが、今の国王……ラインハルホ・クロヌス」
ガイアナ姫の父親だ。
ゲームではお目に掛ったことがあるが、この異世界ではまだだ。
「クロヌス国王は、父親の前国王の不始末を正すため、全力で頑張っていらっしゃるわ。それは、この前この村に来たガイアナ姫の言動や振る舞いを見ても分かる」
クルスの脳裏に、ガイアナ姫の姿が浮かぶ。
白銀の長髪を揺らしながら、馬上から、紫紺の瞳をクルスに向け、こう言った。
~~~
「私はまどろっこしいのが嫌いだ。単刀直入に言おう。クルスよ。私と共に魔王討伐の旅に出よう!」
~~~
「お父さんは、クロヌス国王とガイアナ姫なら、この国を平和に出来ると思ったの。だから、二人を助けるために、クルスにラインハルホ王国の騎士になってもらいたいたかったのよ」
『ドラゴネスファンタジア』の取扱説明書には、ナツヤの紹介文には、やりたいことがあって騎士を辞めたとしか書いていなかった。
その、やりたいこ、というのが……
これほど色々なことを背負ったエピソードだと知って、クルスは自然とため息が出た。
(ここはゲームと同じ様で違う……。『ドラゴネスファンタジア』をベースにしているが、ちゃんと人が生きていて想い、考え、悩み、時間が進む世界なんだ)
そして、クルスは父の願いを理解した。
だが……
「母さん、でも、僕は……」
「いいのよ。それでも、クルスは好きなことをしても」
「母さん……」
木漏れ日から差す光がユナの黒髪を白く縁取る。
その黒髪に包まれたユナの顔は白く美しかった。
薄紫の唇さえも、神秘的に見えた。
その唇の端から血が漏れていた。
「母さん!?」
「ママッ!」
クルスとデメルがユナの異変に気付く。
ユナは口から血を吐き、意識を失った。
つづく
訊くまでも無かった。
こうしてクルスが生まれて生きているということは、暗殺は成功したのだろう。
だが、ユナはクルスの顔を見て、顔を横に振った。
「暗殺は失敗したの」
「え? じゃ、親父は?」
「お父さんは、暗殺には参加しなかった」
(どういうことだ?)
「お父さんは参加するって言ったけど、仲間達がそれを許さなかったの」
ユナはその時の、ナツヤと仲間達のやりとりを話した。
~~~
「ナツヤ、ユナさんのお腹の子供のためにお前は、生きなきゃならない」
「だが……」
「心配するな。それに、もし俺達が死んだら……意志を継ぐものがいなくなる。誰か一人は生き残らなきゃな」
「皆……」
~~~
ラインハルホ・ウラヌス国王の暗殺は失敗した。
皆、捕らえられ拷問された。
それでも、誰一人、ナツヤの名を口にする者はいなかった。
苛烈な拷問の末、皆、殺された。
「その後、お父さんと私はラインハルホ城下から、このパルテノ村に住み家を移したの。クルスを産むために」
クルスの脳裏に、この異世界に転生した瞬間の記憶がフラッシュバックする。
~~~
「よくやった。ユナ」
「ナツヤが側にいてくれたから……」
~~~
「親父……」
クルスは今すぐにでも、父親の胸に飛び込みたいと思った。
「クルス」
「何? 母さん」
「お父さんが、何でクルスをラインハルホ王国の騎士にしたいか、話しておかないとね」
今日のユナはいつになく、よく話す。
まるで自分の命が消えかけようとしているのを、悟っているかの様だ。
命ある内に、伝えたいことを、全てクルスに伝えようとしているのが分かる。
「皮肉なことに、ラインハルホ・ウラヌス国王は暗殺の翌年に病死したの。その後を継いだのが、今の国王……ラインハルホ・クロヌス」
ガイアナ姫の父親だ。
ゲームではお目に掛ったことがあるが、この異世界ではまだだ。
「クロヌス国王は、父親の前国王の不始末を正すため、全力で頑張っていらっしゃるわ。それは、この前この村に来たガイアナ姫の言動や振る舞いを見ても分かる」
クルスの脳裏に、ガイアナ姫の姿が浮かぶ。
白銀の長髪を揺らしながら、馬上から、紫紺の瞳をクルスに向け、こう言った。
~~~
「私はまどろっこしいのが嫌いだ。単刀直入に言おう。クルスよ。私と共に魔王討伐の旅に出よう!」
~~~
「お父さんは、クロヌス国王とガイアナ姫なら、この国を平和に出来ると思ったの。だから、二人を助けるために、クルスにラインハルホ王国の騎士になってもらいたいたかったのよ」
『ドラゴネスファンタジア』の取扱説明書には、ナツヤの紹介文には、やりたいことがあって騎士を辞めたとしか書いていなかった。
その、やりたいこ、というのが……
これほど色々なことを背負ったエピソードだと知って、クルスは自然とため息が出た。
(ここはゲームと同じ様で違う……。『ドラゴネスファンタジア』をベースにしているが、ちゃんと人が生きていて想い、考え、悩み、時間が進む世界なんだ)
そして、クルスは父の願いを理解した。
だが……
「母さん、でも、僕は……」
「いいのよ。それでも、クルスは好きなことをしても」
「母さん……」
木漏れ日から差す光がユナの黒髪を白く縁取る。
その黒髪に包まれたユナの顔は白く美しかった。
薄紫の唇さえも、神秘的に見えた。
その唇の端から血が漏れていた。
「母さん!?」
「ママッ!」
クルスとデメルがユナの異変に気付く。
ユナは口から血を吐き、意識を失った。
つづく
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