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第1章

第64話 復讐の連鎖

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(誰だ……お前は……?)

 ムネタカは喋れないので心の中でそう思った。
 ユメル侯爵を襲おうとした時、自分の名前を呼んだのは、確かにこの女の子だ。
 しっかりと見たのは今が初めてだ。
 美しい腰まである黒髪、真っ黒で大きな瞳、桜の様な唇。
 小さな顔に、まだ少年の様な身体は少し丸みを帯びて来ている。
 白いフリルの着いた薄青色のドレスは彼女に良く似合っていた。

(可愛い)

 そう思った。
 だが、自分には好きな人がいる。
 ……思わず場違いなことを考え、首を振るムネタカ。
 この女の子が自分の名前を呼ばなければ、自分は立ち止まることはなかった。
 こんな異世界で自分のことを知っている者がいる?
 もしかして、目の前のこいつも、よくある転生者というわけか?

「ムネタカ……、私……」

 その女の子は、忙しそうにムネタカの口にはめられた布を取った。
 新鮮とは言えないが、空気が大量に口から吸い込めると、少しは生き返った気分だ。

「いて!」

 生き返ると同時に、体中に痛みが走る。
 ずっと拷問を受けていた身体は、傷だらけだった。
 さっきは、マリメッコから鞭で沢山叩かれた。

「今、自由にしてあげる」

「誰だ、お前は……?」

「私はペル」

「……」

 思い当たらない。
 現世にそんな知り合いがいただろうか。

 そう思っている間にも、ペルは一生懸命、ムネタカに付けられた枷を外している。

「……」

 自由になったムネタカは自分の身体を見渡した。
 そして、ペル、ローランを見る。

「お前……」

 ムネタカはローランに声を掛けた。

「ああ! よく覚えていたな! 俺は、ペル様のために……お前を」

「ふん。知るか」

「何!?」

 ムネタカは部屋の中を見渡した。

(さて、どこから逃げれるか。そして、やることは他にある)

 ある意味、捕らわれてユメル侯爵の邸宅に入れたのは幸運だったと思った。
 ムネタカにはある確信がある。
 その確信がこの邸宅の中にある。
 そうすれば、10年前の事件がユメル侯爵のせいだと証明できる。

「ムネタカとか言ったな、お前。何で、僕を殺さなかった?」

 ローランは精一杯汗をかきながら、震えながら問いかける。
 まるでペルにいいところを見せようとする様に。
 だが、ムネタカは気にしていない様だ。

「おい、聞いているのか!?」

「ああ、聞いている」

「だったら……」

「俺は、お前の親父に殺されそうになったが生き延びた」

 ムネタカの声が響く。

「え? そうなの、ムネタカ」

 ペルが心配そうな顔でムネタカをじっと見る。

「ああ。だから、こうして復讐の機会が与えられた。ローランとか言ったな。お前は自分の親父が殺されたらどうする?」

 ムネタカの問いに、ローランは即答した。

「殺すさ」

「だろう。だから、僕はお前にチャンスを与えるために殺さなかった。強くなったら俺を殺しに来い」
 
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