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第1章
第48話 作り話
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なかなか難しい問題だった。
ユメル侯爵がカドレア邸を襲ったという証拠があれば、他の諸侯を味方に付け攻め込むことや、裁判にかけることも出来るのだが……
その証拠が無かった。
「あの日、タルボの死体の左手には、神器である聖槍ゲイボルグが握れていた。血のついたままの矛先……」
ゼストがそう言った。
そして、続けた。
「ユメル侯爵の邸宅の地下に保存されている神器が盗まれたのは、カドレア邸が襲撃された夜のことだと聞いている。これが何を意味しているか、分かるか?」
ゼストは問い掛けた。
「それは……ユメル侯爵の作り話です」
ムネタカは答えた。
そして、こう続けた。
「ユメル侯爵が神器を持ち出し、カドレア邸に盗賊の恰好をして押し入った。だが、彼は、証拠隠滅のために大胆にもタルボの死体に神器を握らせ、タルボが全てやったことにした。……翌日、ユメル侯爵は自分の家から神器が盗まれたと大騒ぎした」
ムネタカは全てを見ていた。
ユメル侯爵が黒装束で身を隠し、神器を持って現れたことも。
タルボがユメル侯爵に殺されるところも。
だから、これらの話が作り話だと分かる。
「……ここまで怪しい話なのに、証拠がないばかりに、誰もがユメル侯爵を問い詰めることが出来ずにいるわ。この10年間……」
マーシャがため息をついた。
とにかく、殺されたタルボにとっては無念だった。
死んで罪まで擦り付けられている。
カドレア侯爵を殺したこと、その騎士団を殺したこと。
そして、自らの妻マイファを殺したことまで彼のせいにされていた。
ギド盗賊団のアジトを襲ったのはユメル侯爵とエルミネアだ。
そして、彼女とその子分を殺した。
そこにはマイファに殺されたユメル侯爵の騎士団の死体もある。
ユメル侯爵はこんな作り話までしていた。
「聖槍ゲイボルグをタルボに盗まれたと分かったので、アジトまで取り返しに行ったら、そこにタルボがいた。神器を持った彼は、私の騎士団を殺しまくった。聖槍の強さに憑りつかれた彼は気が狂い、自らの妻を殺し、聖槍の力を試すべくカドレア侯爵の家の方に走って行った。そして、ドレア邸を襲撃し、失敗した挙句に自殺したと……」
……と。
全てが作り話だが、目撃者であるマーシャ、マイファ、ムネタカ以外が全て殺され、証拠も無いため、誰もユメル侯爵を責めることが出来ない。
「兄様。マーシャを……私を、信じてください」
マーシャが涙を流した。
この執務室でゼストだけが、その現場にいなかった。
「いや、お前のことだ。嘘は言っていない。その目を見れば分かる」
兄は妹の涙を、指で拭いてあげた。
「……あの時、オヒューイに跨り、ムネタカとフェミナ様を抱きかかえたお前を見た時、きっと、とんでもないことが起きたのだと分かった」
「兄様……」
「俺がいなかったばっかりに……すまん」
「兄様、あやまらないで……」
お互い、抱き合いながら悲しみを分け合った。
ユメル侯爵がカドレア邸を襲ったという証拠があれば、他の諸侯を味方に付け攻め込むことや、裁判にかけることも出来るのだが……
その証拠が無かった。
「あの日、タルボの死体の左手には、神器である聖槍ゲイボルグが握れていた。血のついたままの矛先……」
ゼストがそう言った。
そして、続けた。
「ユメル侯爵の邸宅の地下に保存されている神器が盗まれたのは、カドレア邸が襲撃された夜のことだと聞いている。これが何を意味しているか、分かるか?」
ゼストは問い掛けた。
「それは……ユメル侯爵の作り話です」
ムネタカは答えた。
そして、こう続けた。
「ユメル侯爵が神器を持ち出し、カドレア邸に盗賊の恰好をして押し入った。だが、彼は、証拠隠滅のために大胆にもタルボの死体に神器を握らせ、タルボが全てやったことにした。……翌日、ユメル侯爵は自分の家から神器が盗まれたと大騒ぎした」
ムネタカは全てを見ていた。
ユメル侯爵が黒装束で身を隠し、神器を持って現れたことも。
タルボがユメル侯爵に殺されるところも。
だから、これらの話が作り話だと分かる。
「……ここまで怪しい話なのに、証拠がないばかりに、誰もがユメル侯爵を問い詰めることが出来ずにいるわ。この10年間……」
マーシャがため息をついた。
とにかく、殺されたタルボにとっては無念だった。
死んで罪まで擦り付けられている。
カドレア侯爵を殺したこと、その騎士団を殺したこと。
そして、自らの妻マイファを殺したことまで彼のせいにされていた。
ギド盗賊団のアジトを襲ったのはユメル侯爵とエルミネアだ。
そして、彼女とその子分を殺した。
そこにはマイファに殺されたユメル侯爵の騎士団の死体もある。
ユメル侯爵はこんな作り話までしていた。
「聖槍ゲイボルグをタルボに盗まれたと分かったので、アジトまで取り返しに行ったら、そこにタルボがいた。神器を持った彼は、私の騎士団を殺しまくった。聖槍の強さに憑りつかれた彼は気が狂い、自らの妻を殺し、聖槍の力を試すべくカドレア侯爵の家の方に走って行った。そして、ドレア邸を襲撃し、失敗した挙句に自殺したと……」
……と。
全てが作り話だが、目撃者であるマーシャ、マイファ、ムネタカ以外が全て殺され、証拠も無いため、誰もユメル侯爵を責めることが出来ない。
「兄様。マーシャを……私を、信じてください」
マーシャが涙を流した。
この執務室でゼストだけが、その現場にいなかった。
「いや、お前のことだ。嘘は言っていない。その目を見れば分かる」
兄は妹の涙を、指で拭いてあげた。
「……あの時、オヒューイに跨り、ムネタカとフェミナ様を抱きかかえたお前を見た時、きっと、とんでもないことが起きたのだと分かった」
「兄様……」
「俺がいなかったばっかりに……すまん」
「兄様、あやまらないで……」
お互い、抱き合いながら悲しみを分け合った。
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