パーティから追放されたのは神に選ばれし救世主だった。～チートスキルで元のパーティを見返し、全知全能の冒険者になってやる！～

第32話 冒険の心得

「私が相手です！」

フィリアが叫ぶ。

「援護します！」

ルミナスが後退し、木の陰に隠れ、矢を弓にセットして構える。

「ハルト君。君は下がっていて！」

バルクはハルトの前に立つ。
ハルトは素直に従い、後ろに下がった。

「ハルトさん！」

フィリアの声に振り返る。
彼女は、ハルトの方を見て叫んだ。

「私はハルトさんのことが好きです！」
「へ？」

思わず間抜けな声を出すハルト。

「お返事待ってますから！」

フィリアはハルトに向かって、ウインクをした。

（えー？）

ハルトの頭は混乱する。
ルミナスはハルトとフィリアを交互に見た後、何故か不機嫌な表情。

「ガオオオオオオオ！」

筋肉の塊の様な棍棒の様な両腕を振り回しフィリアに襲い掛かるオーガ。

「はっ！」

フィリアは気合を入れて、オーガに突っ込む。
そして、すれ違いざまに、オーガの腹に蹴りを入れる。

「グオォ！」

悲鳴を上げるオーガ。

ルミナスの方に倒れ込む。

「ハルトは誰にも渡さないんだからー！」

先程のフィリアへの怒りを、矢に込めて、目の前のオーガの額に打ち込む。

ドシュッ！

「おぐぽおおおおおおおお！」

オーガが草地に倒れ込む。

夜の空に静寂が戻る。

「フィリアさん」
「はい？」

フィリアとルミナスは見つめ合う。

「負けませんよ」

ルミナスはフィリアに宣言する。
フィリアは微笑んだ。

「私だって」

ルミナスとフィリアは睨み合う。

「あの～、僕の意見は？」

ハルトが呟く。

「え？ ハルトさんの好きなようにすればいいじゃない？」
「なっ……フィリアさん！　」

ルミナスがフィリアを睨みつける。

「フィリア、その辺にしておけ。ルミナスちゃん、ごめん」

少し離れた場所にいるバルクがルミナスに声を掛ける。

「バルク兄さん。だって、ルミナスさんが純粋過ぎてつい……」

フィリアは悪戯っぽく笑う。

「うぅ……。ハルトは私のものなんだから！」

ルミナスは顔を真っ赤にする。
その様子を見ながら、バルクとフィリアは顔を合わせて微笑む。

「ルミナスちゃんの実力が見たかったんだよ。それも、怒りに燃えた時のね。だから、フィリアにハルト君が好きだと言わせたんだ」

バルクの声は夜の闇に優しく響く。

「そんなヒドイ」

ハルトとルミナスは同時に声を上げる。

「え？」
「え？」

そして、二人で同時に顔を見合わせる。

「この戦いは。厳しい。様々な精神状態になることが予想される。悲しい、辛い、きつい、無気力、怒り、幸せ。その時、実力が発揮できるか……。ルミナスちゃん、魔王討伐の戦いはそれだけ厳しいんだよ」

バルクの声が凛と響く。

「はい！」

ルミナスは大きく返事をする。
バルクの言葉が響いたようだ。
ハルトが好きなだけでは、この旅はやっていけない。
バルクはその心構えをルミナスに伝えたかったのだ。