上 下
99 / 112
雑用係と姫のリベンジ編

第99話 再現プレイ

しおりを挟む
 窓から差す朝日で、目が覚めた。
 胸の辺りが重い。

「左巻き......」

 僕は、僕の胸に頭を乗せ、すやすやと寝息を立てるジェニ姫のつむじを見て、そう呟いた。
 僕と彼女が一緒に住むようになって一週間が経った。
 彼女に強引に押し切られてこの生活を始める形になった。
 今、こんなことになっている(一晩添い寝しただけだが)のも彼女が夜這い(この言葉は彼女の名誉のために今後は使わないでおこう)して来たからだ。
 ジェニ姫が僕のことを好きなのは良く分かった。
 それだけに、今も僕の心の中にマリナがいるのは申し訳ない気がした。

「ん......」

 ジェニ姫が気だるそうに声を上げた。

「おはようございます」

 僕の挨拶にジェニ姫は応えない。
 その代わり、僕の胸に頬を押し当てたままサファイアブルーの瞳でじっと見つめてくる。

「二重顎」

 何を言うかと思えば......

「そこから見ると、そうなります」

 そして、僕はこう続ける。

「姫のつむじ、左巻きだ」
「うるさい」

 ジェニ姫は形の良い頭を、僕の胸からひょいと上げた。
 ベッドから床に足を着くと、ペタペタと歩き、食卓の椅子にこっちを向いてチョコンと座った。

「ここからのスタートもとうとう24回ね」
「はあ?」

 何を言ってるんだこの人は? 
 僕は身体を起こした。

「ちょっと待って!」

 ベッドから床に足を着こうとする僕を、ジェニ姫が右手の平で制す。

「右足から!」
「え?」
「ベッドから降りる時は右足から!」
「はっ、はい」

 僕は右足を床に着けジェニ姫に向かい合う様に座った。

「ま、そこまで再現する必要はないけど、復讐を達成したかったら私の言う通り動いてね」
「......はぁ」

 さっきから言っていることの、意味が分からない。

「あの......」
「何?」
「僕、混乱してます」
「ま、無理もないわね」

 ジェニ姫はコホンと一つ咳払いすると、僕の目をじっと見据えた。

「あるべき未来を一緒に作りましょう」
「え?」
「私は未来から来たの」
「は?」
「信じ難い話かもしれないけど、こういうことなの」

 ジェニ姫の話では、彼女は死ぬ度にこの日の朝に戻るらしいのだ。

「ゲームのセーブポイントと思ってくれたら分かり易いと思う」

 その例えのお陰で、僕も何となく彼女の話が理解出来た。
 でも、まだ半信半疑だった。

「10秒後に地震が来る」
「え?」

 食卓の上の陶器製のカップが揺れだした。

「ほんとだ......」
「信じてくれる?」
「......魔法、使ったんじゃないですか?」
「このやり取りも何回目なんだろう。仕方ないんだろうけど、君はいつも真っさらになるんだよね」

 ジェニ姫はため息をついた。
 僕は彼女の目に哀しい色を見た。

「窓を見て」
「はい」

 窓から丁度見える木。
 その枝に巣を作っている鳥がいる。

「5個産むわ」
「え?」

 鳥は巣にゆっくりと卵を産み始めた。
 1、2、3、4......
 僕はジェニ姫の方を向いた。
 彼女は頷いた。
 そして、5個目。

「おおっ!」

 僕は驚いた。

「鷲に一個獲られる」

 ジェニ姫の予言通り、鷲が飛んで来て巣から卵を一個盗んで行った。

「あ、助けなきゃ」
「ダメ!」

 鋭い声でジェニ姫の声に、僕はビクリとなる。

「......再現、ですか?」
「うん。言ったでしょ。私はある程度先の未来について知識がある。だから、あるべき未来を作りだすために、今をなるべくいじりたくない。それだけなの」

つづく
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

処理中です...