75 / 112
勇者の国編
第75話 童貞の気持ち
しおりを挟む
振り返ってみれば、僕はジェニ姫の言うとおりにしていたら良かったのかもしれない。
僕は焦り過ぎていたんだと思う。
だけど、僕は今すぐにでもマリナを取り戻したかったんだ。
早く取り戻さないと……
焦る理由。
僕はまだそういった経験が無いからモヤモヤしてるんだ。(キスもまだだ)
いくらマリナが魔法でグランに惚れてるからといって、そういう関係にならないとは限らないだろ。
ある夜から、グランの腕に抱かれるマリナが夢に出てくるようになった。(肝心のところは経験がないのでモヤモヤしてる)
その夢は毎晩続く。
もう、僕は居ても立っても居られなくなって来たんだ。
マリナの初めての人は僕だ。
懊悩する僕をしり目に、ジェニ姫は月を見たまま語り出した。
~~~~~~~~~
黒い流れ星が落ちる時、魔王がこの大陸に降り立つだろう。
同時に救世主も誕生する。
救世主は6人の使徒を引き連れ、魔王を倒すだろう。
~~~~~~~~~
僕が子供の頃、マリナが話してくれたこの国の伝説。
魔王がグランだとするなら、僕が救世主。
旅の途中で、僕とジェニ姫はそう仮説を立てた。
それは、グランに対して非力な僕らの、希望の拠り所でもあったんだ。
「いつもみたいにカンストメンバーは見つかったの?」
「いいえ。だけど、反乱の前日にギルドに行けば、いるはずです! 今まで通りなら!」
ジェニ姫は眉根を寄せ、僕の言葉を否定するかの様に首を横に振った。
「今回はカンストメンバー一人だけじゃない。今までのカンストメンバーも全部を揃えないと」
タケルの国で蛮勇を振るってくれた戦士グルポ。
コブチャの国で疫病と治癒魔法のマッチポンプを演じてくれた治癒魔法使いミナージュ。
チナツの国で最強の召喚獣デーモンを召喚してくれた召喚魔法使いクシカツ。
ソウニンの国で豪快な手刀を披露したマスタツ。
これで4人。
あとの二人は、この国にいるのだろうか?
「僕が救世主なら、きっと彼らは現れてくれます!」
だけど、反乱前日にギルドに行っても、カンストメンバーは誰一人いなかったんだ。
僕は混乱した。
混乱の後には激しい落胆が僕を襲った。
地下のアジトでは、皆、勝利を確信し前祝とばかりに酒を酌み交わしていた。
「ケンタ! 明るい未来が待ってるよな!」
「うん……」
反乱軍の幹部達が目を輝かせながら僕に酒をすすめてくる。
死と隣り合わせの彼らは、希望を追い掛けることで恐怖を振り払っていた。
僕にはその気持ちが痛いほど分かる。
だから、この場にいることが辛かった。
一人、屋根の上に座り夜空の星を眺める。
「いい?」
天窓から小さな銀色の頭がヒョコッと出て来た。
「はい」
ジェニ姫が僕の隣に座る。
「いよいよね」
「はい」
「その様子だと、見つから無かったみたいね」
僕は無言で頷いた。
「今からでも遅くない。多数の犠牲を出す前に中止するのもありだよ」
「それは……」
出来ない。
僕はもうマリナと誓いのキスを交わすと決めたんだ。
結婚式の続きをするんだ。
そうすれば魔法も解けるはずだ。
ジェニ姫がじっと僕を見ている。
桜色の唇をグッと噛み締めている。
返事をしない僕に、何か沢山のことを言いたいのだろうけど我慢している様だ。
そんな彼女が息を吸い、
「復讐なんかやめて、私と一緒に、どこかでずっと一緒に暮らそう」
白銀の髪に包まれた白い面《おもて》は真っ赤に染まっていた。
「そ、それって……」
「もう、女の子に言わせるつもり!?」
ジェニ姫が僕を拳でポコポコ殴ってくる。
それはまるで、ジャレついて来るかの様だ。
彼女のペースに持っていかれそうだ。
それもいいなと思ったけど、僕はマリナを裏切れない。
「僕は救世主じゃありませんでした。だけど……」
「分かってる」
ジェニ姫は真っすぐ僕を見つめた。
その顔は全てを分かり切ったような笑顔だった。
!?
僕の唇に、この世の物とは思えないほど柔らかくて暖かい感触が伝わる。
ちょっと湿っていて、まるで極上の果実の様だ。
「それでも、私が君を守ってあげる」
僕の唇から、唇を離したジェニ姫はそう言った。
月だけが二人を見守ってた。
そして、翌日。
つづく
僕は焦り過ぎていたんだと思う。
だけど、僕は今すぐにでもマリナを取り戻したかったんだ。
早く取り戻さないと……
焦る理由。
僕はまだそういった経験が無いからモヤモヤしてるんだ。(キスもまだだ)
いくらマリナが魔法でグランに惚れてるからといって、そういう関係にならないとは限らないだろ。
ある夜から、グランの腕に抱かれるマリナが夢に出てくるようになった。(肝心のところは経験がないのでモヤモヤしてる)
その夢は毎晩続く。
もう、僕は居ても立っても居られなくなって来たんだ。
マリナの初めての人は僕だ。
懊悩する僕をしり目に、ジェニ姫は月を見たまま語り出した。
~~~~~~~~~
黒い流れ星が落ちる時、魔王がこの大陸に降り立つだろう。
同時に救世主も誕生する。
救世主は6人の使徒を引き連れ、魔王を倒すだろう。
~~~~~~~~~
僕が子供の頃、マリナが話してくれたこの国の伝説。
魔王がグランだとするなら、僕が救世主。
旅の途中で、僕とジェニ姫はそう仮説を立てた。
それは、グランに対して非力な僕らの、希望の拠り所でもあったんだ。
「いつもみたいにカンストメンバーは見つかったの?」
「いいえ。だけど、反乱の前日にギルドに行けば、いるはずです! 今まで通りなら!」
ジェニ姫は眉根を寄せ、僕の言葉を否定するかの様に首を横に振った。
「今回はカンストメンバー一人だけじゃない。今までのカンストメンバーも全部を揃えないと」
タケルの国で蛮勇を振るってくれた戦士グルポ。
コブチャの国で疫病と治癒魔法のマッチポンプを演じてくれた治癒魔法使いミナージュ。
チナツの国で最強の召喚獣デーモンを召喚してくれた召喚魔法使いクシカツ。
ソウニンの国で豪快な手刀を披露したマスタツ。
これで4人。
あとの二人は、この国にいるのだろうか?
「僕が救世主なら、きっと彼らは現れてくれます!」
だけど、反乱前日にギルドに行っても、カンストメンバーは誰一人いなかったんだ。
僕は混乱した。
混乱の後には激しい落胆が僕を襲った。
地下のアジトでは、皆、勝利を確信し前祝とばかりに酒を酌み交わしていた。
「ケンタ! 明るい未来が待ってるよな!」
「うん……」
反乱軍の幹部達が目を輝かせながら僕に酒をすすめてくる。
死と隣り合わせの彼らは、希望を追い掛けることで恐怖を振り払っていた。
僕にはその気持ちが痛いほど分かる。
だから、この場にいることが辛かった。
一人、屋根の上に座り夜空の星を眺める。
「いい?」
天窓から小さな銀色の頭がヒョコッと出て来た。
「はい」
ジェニ姫が僕の隣に座る。
「いよいよね」
「はい」
「その様子だと、見つから無かったみたいね」
僕は無言で頷いた。
「今からでも遅くない。多数の犠牲を出す前に中止するのもありだよ」
「それは……」
出来ない。
僕はもうマリナと誓いのキスを交わすと決めたんだ。
結婚式の続きをするんだ。
そうすれば魔法も解けるはずだ。
ジェニ姫がじっと僕を見ている。
桜色の唇をグッと噛み締めている。
返事をしない僕に、何か沢山のことを言いたいのだろうけど我慢している様だ。
そんな彼女が息を吸い、
「復讐なんかやめて、私と一緒に、どこかでずっと一緒に暮らそう」
白銀の髪に包まれた白い面《おもて》は真っ赤に染まっていた。
「そ、それって……」
「もう、女の子に言わせるつもり!?」
ジェニ姫が僕を拳でポコポコ殴ってくる。
それはまるで、ジャレついて来るかの様だ。
彼女のペースに持っていかれそうだ。
それもいいなと思ったけど、僕はマリナを裏切れない。
「僕は救世主じゃありませんでした。だけど……」
「分かってる」
ジェニ姫は真っすぐ僕を見つめた。
その顔は全てを分かり切ったような笑顔だった。
!?
僕の唇に、この世の物とは思えないほど柔らかくて暖かい感触が伝わる。
ちょっと湿っていて、まるで極上の果実の様だ。
「それでも、私が君を守ってあげる」
僕の唇から、唇を離したジェニ姫はそう言った。
月だけが二人を見守ってた。
そして、翌日。
つづく
0
お気に入りに追加
185
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる