59 / 112
武闘家の国編
第59話 武闘家ソウニンのソロキャンプ
しおりを挟む
冬が好きだ。
空気が乾燥してるから、空が遠くまで見える。
「はー、はー」
吐く息が白い。
私は長い黒髪をマフラー代わりに首に巻いた。
ここ北の国は秋を過ぎ、冬になった。
私は仕事(統治者としての公務だ)を休み、ここビワ湖に来ている。
湖のほとりにテントを設営した。
丸い石を見つけてそこに座る。
雄大なフジ山を観る。
湖面には雪化粧を施したフジ山が映し出されている。
実物と湖面に映るフジ山の、シンメトリーな美しさに私は心を奪われた。
「さてと」
私は立ち上がり、今日の食事と燃料を探すため森に分け入る。
前方二メートル、グリズリー発見。
体長5メートルの灰色の熊の化け物は、森を我が物顔でノシノシ歩いている。
私は今日の食事の素材を見つけ、舌なめずりした。
こちらから仕掛けようと、地を蹴ろうとした時、
「くぅん、くぅん」
私の足元を舐める、子グリズリー発見。
「しっ、あっち行け!」
私は大物を狙ってるんだ。
お前じゃ食べ甲斐がないし、倒し甲斐も無い。
「グゥオオオオ!」
私の気配を感じ取ったのか、お目当ての方の大グリズリーがこちらに猛進して来る。
グローブの様な巨大な手に、剣の様な5つの爪が生えている。
グリズリーが獰猛な唸り声を上げ、熊手を振り上げる。
「はっ!」
鋭い爪が虚しく空を切る。
衝撃波で木々の枝がざわめき、葉が落ちる。
力ではそちらが上かもしれんが、素早さではこちらの方が上だ。
グリズリーが辺りを見渡す。
「ここだよ」
私はグリズリーの額に爪先立ちしている。
「グゥオ!」
グリズリーは私の存在にやっと気付いたのか、両の熊手で私を挟みこもうとする。
「よっと!」
私はバク転でそれをヒラリとかわし、グリズリーの背後に回り込む。
私の両の足の筋肉が一気に盛り上がる。
左足一本立ちになり、右足を上げ、勢いを付けるため脇腹に引き付ける。
「烈火百裂脚《れっかひゃくれつきゃく》!」
超高速の足蹴りの弾幕がグリズリーの背中に無数の穴を穿つ。
右足の蹴りが終わると、左足にスイッチ。
同じ技をグリズリーが息絶えるまで繰り返す。
「いてっ!」
足元を見ると、またあの子グリズリーだ。
こいつ、うっとおしいな。
殺ってしまおうと、その首に手刀を振り下ろそうとした時、瀕死のグリズリーがグラリと振り返った。
襲い掛かって来るかと思ったが、子グリズリーに覆いかぶさった。
「そうか......お前ら親子か」
今日は親子丼にしよう。
良く笠の開いた松ぼっくりは、火が着きやすく良い着火剤となる。
火種を松ぼっくりの山に投げ込み、焚火を起こす。
私に魔法でも使えれば、こんな手間、不要なのに。
でも、この手間が楽しい。
焚火の上に鍋を設置し、その中に湯を張り、先程、ぶつ切りにしたグリズリーの肉を盛大にぶっこむ。
その中に味噌とダシもぶち込む。
その間、別の焚火の前に行く。
串に刺した柔らかい子グリズリーの肉をバーベキューにする。
「うーん。さいこー」
流浪の民の子に生まれた私は、旅が日常だった。
街を転々とする日々。
そこで奴隷として一定期間働かされては、次の街へ。
街から街へ移動する間に行われるキャンプだけが、安らぎの時だった。
私は成功者となった後も、安らぎを求めていた。
「全てはマリク様のお陰だわ」
私は知っている。
本当の功労者はマリク様だ。
私は彼のことが......
「ん?」
遠くから人が走ってくる。
我が国の兵士の様だ。
「どうした?」
ボロボロの鎧に、血まみれの顔。
何があった?
「ソウニン様! 申し上げます! 城が反乱軍によって陥落しました!」
「何!?」
兵士は伝えると、息絶えた。
人の気配を感じる。
「この国難の時に、ソロキャンプとはいい身分だな。ソウニン」
振り返った時とその名を呼ばれたのはほぼ同時だった。
「ケンタ!」
あの雑用係がなんでここに!?
「久しぶりね。ソウニン」
「ジェニ姫」
お前は、グラン王に婚約破棄されて追放されたはず。
「はじめまして」
後ろからもう一人出て来た。
ん?
誰?
つづく
空気が乾燥してるから、空が遠くまで見える。
「はー、はー」
吐く息が白い。
私は長い黒髪をマフラー代わりに首に巻いた。
ここ北の国は秋を過ぎ、冬になった。
私は仕事(統治者としての公務だ)を休み、ここビワ湖に来ている。
湖のほとりにテントを設営した。
丸い石を見つけてそこに座る。
雄大なフジ山を観る。
湖面には雪化粧を施したフジ山が映し出されている。
実物と湖面に映るフジ山の、シンメトリーな美しさに私は心を奪われた。
「さてと」
私は立ち上がり、今日の食事と燃料を探すため森に分け入る。
前方二メートル、グリズリー発見。
体長5メートルの灰色の熊の化け物は、森を我が物顔でノシノシ歩いている。
私は今日の食事の素材を見つけ、舌なめずりした。
こちらから仕掛けようと、地を蹴ろうとした時、
「くぅん、くぅん」
私の足元を舐める、子グリズリー発見。
「しっ、あっち行け!」
私は大物を狙ってるんだ。
お前じゃ食べ甲斐がないし、倒し甲斐も無い。
「グゥオオオオ!」
私の気配を感じ取ったのか、お目当ての方の大グリズリーがこちらに猛進して来る。
グローブの様な巨大な手に、剣の様な5つの爪が生えている。
グリズリーが獰猛な唸り声を上げ、熊手を振り上げる。
「はっ!」
鋭い爪が虚しく空を切る。
衝撃波で木々の枝がざわめき、葉が落ちる。
力ではそちらが上かもしれんが、素早さではこちらの方が上だ。
グリズリーが辺りを見渡す。
「ここだよ」
私はグリズリーの額に爪先立ちしている。
「グゥオ!」
グリズリーは私の存在にやっと気付いたのか、両の熊手で私を挟みこもうとする。
「よっと!」
私はバク転でそれをヒラリとかわし、グリズリーの背後に回り込む。
私の両の足の筋肉が一気に盛り上がる。
左足一本立ちになり、右足を上げ、勢いを付けるため脇腹に引き付ける。
「烈火百裂脚《れっかひゃくれつきゃく》!」
超高速の足蹴りの弾幕がグリズリーの背中に無数の穴を穿つ。
右足の蹴りが終わると、左足にスイッチ。
同じ技をグリズリーが息絶えるまで繰り返す。
「いてっ!」
足元を見ると、またあの子グリズリーだ。
こいつ、うっとおしいな。
殺ってしまおうと、その首に手刀を振り下ろそうとした時、瀕死のグリズリーがグラリと振り返った。
襲い掛かって来るかと思ったが、子グリズリーに覆いかぶさった。
「そうか......お前ら親子か」
今日は親子丼にしよう。
良く笠の開いた松ぼっくりは、火が着きやすく良い着火剤となる。
火種を松ぼっくりの山に投げ込み、焚火を起こす。
私に魔法でも使えれば、こんな手間、不要なのに。
でも、この手間が楽しい。
焚火の上に鍋を設置し、その中に湯を張り、先程、ぶつ切りにしたグリズリーの肉を盛大にぶっこむ。
その中に味噌とダシもぶち込む。
その間、別の焚火の前に行く。
串に刺した柔らかい子グリズリーの肉をバーベキューにする。
「うーん。さいこー」
流浪の民の子に生まれた私は、旅が日常だった。
街を転々とする日々。
そこで奴隷として一定期間働かされては、次の街へ。
街から街へ移動する間に行われるキャンプだけが、安らぎの時だった。
私は成功者となった後も、安らぎを求めていた。
「全てはマリク様のお陰だわ」
私は知っている。
本当の功労者はマリク様だ。
私は彼のことが......
「ん?」
遠くから人が走ってくる。
我が国の兵士の様だ。
「どうした?」
ボロボロの鎧に、血まみれの顔。
何があった?
「ソウニン様! 申し上げます! 城が反乱軍によって陥落しました!」
「何!?」
兵士は伝えると、息絶えた。
人の気配を感じる。
「この国難の時に、ソロキャンプとはいい身分だな。ソウニン」
振り返った時とその名を呼ばれたのはほぼ同時だった。
「ケンタ!」
あの雑用係がなんでここに!?
「久しぶりね。ソウニン」
「ジェニ姫」
お前は、グラン王に婚約破棄されて追放されたはず。
「はじめまして」
後ろからもう一人出て来た。
ん?
誰?
つづく
0
お気に入りに追加
185
あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる