52 / 112
魔法使いの国編
第52話 僕らの、火遊び、水遊び
しおりを挟む
「ええ。あなたに殺されたわよ。横断歩道で突き飛ばされてね」
ルビーは息継ぎして、続ける。
「今、慶太君と付き合ってるってことは……あなた、あんな大胆なことして、警察に見つからなかったのね。ほんと、悪運の強い女」
「千夏……」
ルビー、否、チナツと呼ぶべきか。
僕は彼女をチナツと呼ぶことにした。
チナツがしゃべる度に、開いた口から熱風が噴き出す。
そのせいで、僕らの肌はメチャクチャ乾燥した。
火の粉が飛んで来て、服に着く。
服に穴が開く。
まるで巨大な焚火の前にずっと立たされてるみたいだ。
「冷水器《ヒーリング・ウオーター》」
僕の横に立つジェニ姫が、そっと詠唱した。
ジェニ姫と僕、そしてサオリの肌を水の薄い膜が覆う。
良かった。
これで、少しだけ灼熱地獄から救われる。
「千夏。私はあなたが嫌いだった。いっつも慶太君と仲良くしてたから。そして、慶太君は私の告白を断って、あなたのことが好きだって言った。すごく悔しかった」
どうやら、この二人は転生前の世界でケイタを取り合っていたらしい。
「だからって、私を殺すことないじゃない! そのせいで私は、今……」
「あら、ここって楽しい世界じゃない。私に感謝しなさい」
状況を呑み込めないでいるチナツの部下達が困惑顔だ。
「慶太も慶太よ。よりによって、こんな女と……」
チナツの赤い瞳が潤み、涙があふれだす。
「ルビー様」
イケメン執事のトールスが駆け寄る。
チナツの肩を支えた。
僕はチナツがどう思ってるか知らないけど、彼女はトールスとお似合いな気がする。
とか、場違いなことを思ってしまった。
「慶太は私と付き合えて喜んでるわ」
「言わないでっ!」
チナツが耳を塞いで、首を振る。
「私、いっつも言ってたじゃない。欲しいものは絶対手に入れる主義だって」
サオリが胸を張り、親指でトンとその胸をついた。
勝ち誇った様な態度に、チナツは怒り心頭したのか、
「殺す!」
あっ!
やばい!
「この世の全ての火の精霊よ、私にその力を。紅蓮の炎で目の前の女を焼き払うために。火炎大車輪《ラージ・フレームホイール》!」
チナツの手から炎の輪が飛び出す。
車輪のごとく、中央には巨大な火の玉。
そこから放射線状に火の柱が8本出ていて、炎の外輪を支えている。
紅蓮の火の輪が転がりながらサオリに向かってくる。
「下がって!」
間一髪。
ジェニ姫がサオリの前に立ち塞がる。
「強水鉄砲《ストロング・ウオーターガン》」
開いた彼女の手から滝の様に水が大量に噴出した。
炎の車輪の動きを止める。
炎と水がせめぎ合う。
水が蒸発し水蒸気が上がる。
水が尽きるのと炎が尽きたのはほぼ同時だった。
「私の炎の魔法が……」
チナツは信じられないといった態で、自分の手を見る。
「ルビー、忘れたの? 私のこと?」
「お、お前は……、いや、あなたはジェニ姫」
「チナツって呼んだ方がいい? チナツ、私と魔法で勝負する?」
チナツとジェニ姫は睨み合った。
僕は二人の間に割って入り、こう言った。
「あの~、チナツさん。このままサオリさんを殺しちゃうと、その、ケイタさんをここに呼べないと思うんですよ。サオリさんを殺せばスッキリするかもしれないけど、それって、絶対後悔しますよ」
チナツが僕の方を向く。
僕は続ける。
「一旦ここは、ケイタさんを召喚しましょう。そして、彼が、あなたとサオリさんどちらを選ぶか選択してもらうんです」
チナツは目を閉じ腕を組んだ。
僕の提案を受け止め、どうするか考えている様だ。
やがて、組んだ腕を解き、意を決する様に頷いた。
つづく
ルビーは息継ぎして、続ける。
「今、慶太君と付き合ってるってことは……あなた、あんな大胆なことして、警察に見つからなかったのね。ほんと、悪運の強い女」
「千夏……」
ルビー、否、チナツと呼ぶべきか。
僕は彼女をチナツと呼ぶことにした。
チナツがしゃべる度に、開いた口から熱風が噴き出す。
そのせいで、僕らの肌はメチャクチャ乾燥した。
火の粉が飛んで来て、服に着く。
服に穴が開く。
まるで巨大な焚火の前にずっと立たされてるみたいだ。
「冷水器《ヒーリング・ウオーター》」
僕の横に立つジェニ姫が、そっと詠唱した。
ジェニ姫と僕、そしてサオリの肌を水の薄い膜が覆う。
良かった。
これで、少しだけ灼熱地獄から救われる。
「千夏。私はあなたが嫌いだった。いっつも慶太君と仲良くしてたから。そして、慶太君は私の告白を断って、あなたのことが好きだって言った。すごく悔しかった」
どうやら、この二人は転生前の世界でケイタを取り合っていたらしい。
「だからって、私を殺すことないじゃない! そのせいで私は、今……」
「あら、ここって楽しい世界じゃない。私に感謝しなさい」
状況を呑み込めないでいるチナツの部下達が困惑顔だ。
「慶太も慶太よ。よりによって、こんな女と……」
チナツの赤い瞳が潤み、涙があふれだす。
「ルビー様」
イケメン執事のトールスが駆け寄る。
チナツの肩を支えた。
僕はチナツがどう思ってるか知らないけど、彼女はトールスとお似合いな気がする。
とか、場違いなことを思ってしまった。
「慶太は私と付き合えて喜んでるわ」
「言わないでっ!」
チナツが耳を塞いで、首を振る。
「私、いっつも言ってたじゃない。欲しいものは絶対手に入れる主義だって」
サオリが胸を張り、親指でトンとその胸をついた。
勝ち誇った様な態度に、チナツは怒り心頭したのか、
「殺す!」
あっ!
やばい!
「この世の全ての火の精霊よ、私にその力を。紅蓮の炎で目の前の女を焼き払うために。火炎大車輪《ラージ・フレームホイール》!」
チナツの手から炎の輪が飛び出す。
車輪のごとく、中央には巨大な火の玉。
そこから放射線状に火の柱が8本出ていて、炎の外輪を支えている。
紅蓮の火の輪が転がりながらサオリに向かってくる。
「下がって!」
間一髪。
ジェニ姫がサオリの前に立ち塞がる。
「強水鉄砲《ストロング・ウオーターガン》」
開いた彼女の手から滝の様に水が大量に噴出した。
炎の車輪の動きを止める。
炎と水がせめぎ合う。
水が蒸発し水蒸気が上がる。
水が尽きるのと炎が尽きたのはほぼ同時だった。
「私の炎の魔法が……」
チナツは信じられないといった態で、自分の手を見る。
「ルビー、忘れたの? 私のこと?」
「お、お前は……、いや、あなたはジェニ姫」
「チナツって呼んだ方がいい? チナツ、私と魔法で勝負する?」
チナツとジェニ姫は睨み合った。
僕は二人の間に割って入り、こう言った。
「あの~、チナツさん。このままサオリさんを殺しちゃうと、その、ケイタさんをここに呼べないと思うんですよ。サオリさんを殺せばスッキリするかもしれないけど、それって、絶対後悔しますよ」
チナツが僕の方を向く。
僕は続ける。
「一旦ここは、ケイタさんを召喚しましょう。そして、彼が、あなたとサオリさんどちらを選ぶか選択してもらうんです」
チナツは目を閉じ腕を組んだ。
僕の提案を受け止め、どうするか考えている様だ。
やがて、組んだ腕を解き、意を決する様に頷いた。
つづく
0
お気に入りに追加
185
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
追放された最弱ハンター、最強を目指して本気出す〜実は【伝説の魔獣王】と魔法で【融合】してるので無双はじめたら、元仲間が落ちぶれていきました〜
里海慧
ファンタジー
「カイト、お前さぁ、もういらないわ」
魔力がほぼない最低ランクの最弱ハンターと罵られ、パーティーから追放されてしまったカイト。
実は、唯一使えた魔法で伝説の魔獣王リュカオンと融合していた。カイトの実力はSSSランクだったが、魔獣王と融合してると言っても信じてもらえなくて、サポートに徹していたのだ。
追放の際のあまりにもひどい仕打ちに吹っ切れたカイトは、これからは誰にも何も奪われないように、最強のハンターになると決意する。
魔獣を討伐しまくり、様々な人たちから認められていくカイト。
途中で追放されたり、裏切られたり、そんな同じ境遇の者が仲間になって、ハンターライフをより満喫していた。
一方、カイトを追放したミリオンたちは、Sランクパーティーの座からあっという間に転げ落ちていき、最後には盛大に自滅してゆくのだった。
※ヒロインの登場は遅めです。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる