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十二話 人生イロモノ 中下
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地下牢、というイメージからするとここはひどく乾いている気がした。
そのお陰でカツン、カツンという鉄板入りの軍靴の音がよく響く。
女囚人のための地下牢、そこに淫靡な響きを感じてしまうのは……―――
「この蛆虫、よく聞くんだ! ママの股からひり出された○○○○なお前にも出来るくそったれな仕事を教えてやる!」
「サー! イェッサー!」
「馬鹿野郎、私は女だ! ヘテロポダ軍曹と呼びな!」
「イエスマム!」
「声が小さい! どこに玉落としてきたんだい? そんなへなちんで女は満足しないよ!」
「イェェェェスマァァァァァァァァァァァム!」
「クズの○○から生まれてきた、×××な△△△を犬に×××!」
「イェェェェェェェェスマァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァム!」
淫靡な響きどころか、僕は何だかとんでもない事になっていた。
目の前にいるのは恐らくは人間だ。
しかし、その雄大さすら感じられる肩幅は僕の二倍はあり、きゅっと締まったウェストというか腹筋で見事な逆三角形を描くボディライン。
その豊満というか内から溢れ出る圧力は、軍服を破ろうとでもしているのか全体的にパンパンになっている。
男だ、と紹介されても特に疑いもなく、僕は信じるだろう。
「くそったれな××××でも声が出るじゃないか! よし、いいだろう。 バケツとモップを持て、リョウジ三等兵見習い!」
「イエスマム!」
「駆けあーし!」
「イエスマム!」
段々、楽しくなってきたぞう。
駆け足、と言っても十秒もかからない距離だったが、下っ端は常に駆け足を強いられている。
僕みたいな下っ端の下っ端なら、どんな短い距離でも必ず駆け足をしなければいけない。
だけど、やっていい事と悪い事の区別がはっきりしている軍隊生活は、まだ数日ではあるけど思っていたよりも僕に合っていた。
「止まれ、リョウジ三等兵見習い」
「イエスマム!」
「よーし、お前の担当はここだ! 塵一つ残さずに磨き上げろ!」
「イエスマム!」
「私は別な担当区域を見てくる。 いいか、サボったりしてみろ? その時は泣いたり笑ったり出来なくしてやる!」
「イエスマム! 僕はサボったりしません!」
「口では何とでも言えるんだ、この××××が! まぁいい、結果を出せ、三等兵見習い!」
「イエスマム!」
そういうとガッチガチのヒップというか、尻の筋肉をピクピクとさせながらヘテロポダ軍曹は奥の方に向かって行った。
「よし、やろう!」
軍曹の後ろ姿を見送ると、僕は目の前の鍵がかかっていない牢に入るけど、元々そんなに汚れている気配はない。
女子地下牢担当のヘテロポダ軍曹が毎日、綺麗に磨いているからだ。
口と顔は驚くほど汚いけど、あの人のマメさはかなりの物だ。
そんな軍曹に信頼されている以上、僕も手は抜けない。
モップを水につけて、石畳をごしごしと磨いて行く。
この時、あまり水に浸し過ぎると逆に汚す事になってしまい、余計に手間がかかる。
綺麗に、しかし手早くやらなければ軍曹にまたどやされる事になるだろう。
働くという事は素晴らしい。
誰もが労働の楽しさに目覚めれば、きっと世界は平和になると確信出来る。
そんな気持ちでモップを動かしていた、その時だった。
「しくしくしくしくしくしく……」
女性の泣き声が、聞こえた。
元々、女子牢なんてものは滅多に使われる事はなく、今だって誰もいないはずだ。
なのに、どこからか悲しげな女の子の泣き声が……。
「しくしくしくしくしくしく……」
「え、何それ」
まさか……霊?
軍曹に飲みに連れて行ってもらった時、無実の罪で捕まった女囚の霊がどうこう言っていたような……。
いやいや、まさかまさか。
この今の世の中、科学万能の時代ですよ。
霊なんて非科学的な物があるはず……。
「魔術とかファンタジーな世界だよ、ここ……!」
霊とか普通にいるんじゃないかな、ひょっとして。
「大丈夫、いざという時は軍曹が殴り倒してくれるはず」
霊vs軍曹なら間違いなく軍曹が勝つに決まっている。
そうと決まれば、この声の発信源を探してみようじゃないか。
僕は牢を出ると左右を見渡し、
「……いたよ」
しかも、ドレスを着た女の霊が横の牢に普通にいた。
石畳に顔を伏せ、しくしくと泣く女の霊だ。
縦に巻かれた金髪が石畳に散らばっていて、しかも彼女は周りを気にしていないらしくスカートがめくれて太ももが露になっている。
「これは不味い」
けしからん光景だ、というのもあるけど、それ以上に軍曹に今の状況を見つけられた日には全力で殴られかねない気がした。
この光景を生み出したのは僕ではないけど、非常によろしくない。
泣いている女の子を放っておくような男にはなりたくないし。
「あ、あの……どうしたの?」
意を決して、僕はドレスの霊に話しかけた。
ぴたり、と泣き声は止まり、彼女はしゃくりを上げる。
こういう時、黙って待っているのが正解なんだろうか?と悩んでいると、途切れ途切れに彼女は話し始めた。
「探し人が見つからないのに……こんな牢に押し込められて……」
「そうなんだ……」
それで死んだら、死にきれず自縛霊になっても仕方ない気がする。
あっという間にこの霊に同情してしまった僕は、彼女にせめてもの言葉をかける事にした。
「どんな人なのかな。 よければ僕が探してあげるよ」
「本当ですの……? 彼は優しい人ですわ」
「優しい人……うーん、他には?」
さすがに優しいというだけでは何ともなぁ。
「あとは……誰かのために頑張れる人ですの」
僕とは大違いだなぁ……。
ああ、ルーテシアには本当にひどい事をした……。
でも、まだ彼女に合わせる顔がないんだ。
「あ、そうだ。 名前は?」
名前を知っていれば、相手を探しやすいよね。
しかし、霊の探し人って死んでたりするパターンよくあるし、そうなった時はどうやって成仏してもらえばいいんだろう。
死んでましたって言ったらいいのかな。
「勇……ア……キ」
「え、なんて言ったの?」
「勇者アカツキですわ」
「……………………えっ?」
苛立ったように顔を上げた彼女は、
「ですからっ! 勇者、アカツ……キ」
「や、やあ……」
どこからどう見てもルーテシア・リヴィングストンその人だった。
え、どうすんの、これ。
そのお陰でカツン、カツンという鉄板入りの軍靴の音がよく響く。
女囚人のための地下牢、そこに淫靡な響きを感じてしまうのは……―――
「この蛆虫、よく聞くんだ! ママの股からひり出された○○○○なお前にも出来るくそったれな仕事を教えてやる!」
「サー! イェッサー!」
「馬鹿野郎、私は女だ! ヘテロポダ軍曹と呼びな!」
「イエスマム!」
「声が小さい! どこに玉落としてきたんだい? そんなへなちんで女は満足しないよ!」
「イェェェェスマァァァァァァァァァァァム!」
「クズの○○から生まれてきた、×××な△△△を犬に×××!」
「イェェェェェェェェスマァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァム!」
淫靡な響きどころか、僕は何だかとんでもない事になっていた。
目の前にいるのは恐らくは人間だ。
しかし、その雄大さすら感じられる肩幅は僕の二倍はあり、きゅっと締まったウェストというか腹筋で見事な逆三角形を描くボディライン。
その豊満というか内から溢れ出る圧力は、軍服を破ろうとでもしているのか全体的にパンパンになっている。
男だ、と紹介されても特に疑いもなく、僕は信じるだろう。
「くそったれな××××でも声が出るじゃないか! よし、いいだろう。 バケツとモップを持て、リョウジ三等兵見習い!」
「イエスマム!」
「駆けあーし!」
「イエスマム!」
段々、楽しくなってきたぞう。
駆け足、と言っても十秒もかからない距離だったが、下っ端は常に駆け足を強いられている。
僕みたいな下っ端の下っ端なら、どんな短い距離でも必ず駆け足をしなければいけない。
だけど、やっていい事と悪い事の区別がはっきりしている軍隊生活は、まだ数日ではあるけど思っていたよりも僕に合っていた。
「止まれ、リョウジ三等兵見習い」
「イエスマム!」
「よーし、お前の担当はここだ! 塵一つ残さずに磨き上げろ!」
「イエスマム!」
「私は別な担当区域を見てくる。 いいか、サボったりしてみろ? その時は泣いたり笑ったり出来なくしてやる!」
「イエスマム! 僕はサボったりしません!」
「口では何とでも言えるんだ、この××××が! まぁいい、結果を出せ、三等兵見習い!」
「イエスマム!」
そういうとガッチガチのヒップというか、尻の筋肉をピクピクとさせながらヘテロポダ軍曹は奥の方に向かって行った。
「よし、やろう!」
軍曹の後ろ姿を見送ると、僕は目の前の鍵がかかっていない牢に入るけど、元々そんなに汚れている気配はない。
女子地下牢担当のヘテロポダ軍曹が毎日、綺麗に磨いているからだ。
口と顔は驚くほど汚いけど、あの人のマメさはかなりの物だ。
そんな軍曹に信頼されている以上、僕も手は抜けない。
モップを水につけて、石畳をごしごしと磨いて行く。
この時、あまり水に浸し過ぎると逆に汚す事になってしまい、余計に手間がかかる。
綺麗に、しかし手早くやらなければ軍曹にまたどやされる事になるだろう。
働くという事は素晴らしい。
誰もが労働の楽しさに目覚めれば、きっと世界は平和になると確信出来る。
そんな気持ちでモップを動かしていた、その時だった。
「しくしくしくしくしくしく……」
女性の泣き声が、聞こえた。
元々、女子牢なんてものは滅多に使われる事はなく、今だって誰もいないはずだ。
なのに、どこからか悲しげな女の子の泣き声が……。
「しくしくしくしくしくしく……」
「え、何それ」
まさか……霊?
軍曹に飲みに連れて行ってもらった時、無実の罪で捕まった女囚の霊がどうこう言っていたような……。
いやいや、まさかまさか。
この今の世の中、科学万能の時代ですよ。
霊なんて非科学的な物があるはず……。
「魔術とかファンタジーな世界だよ、ここ……!」
霊とか普通にいるんじゃないかな、ひょっとして。
「大丈夫、いざという時は軍曹が殴り倒してくれるはず」
霊vs軍曹なら間違いなく軍曹が勝つに決まっている。
そうと決まれば、この声の発信源を探してみようじゃないか。
僕は牢を出ると左右を見渡し、
「……いたよ」
しかも、ドレスを着た女の霊が横の牢に普通にいた。
石畳に顔を伏せ、しくしくと泣く女の霊だ。
縦に巻かれた金髪が石畳に散らばっていて、しかも彼女は周りを気にしていないらしくスカートがめくれて太ももが露になっている。
「これは不味い」
けしからん光景だ、というのもあるけど、それ以上に軍曹に今の状況を見つけられた日には全力で殴られかねない気がした。
この光景を生み出したのは僕ではないけど、非常によろしくない。
泣いている女の子を放っておくような男にはなりたくないし。
「あ、あの……どうしたの?」
意を決して、僕はドレスの霊に話しかけた。
ぴたり、と泣き声は止まり、彼女はしゃくりを上げる。
こういう時、黙って待っているのが正解なんだろうか?と悩んでいると、途切れ途切れに彼女は話し始めた。
「探し人が見つからないのに……こんな牢に押し込められて……」
「そうなんだ……」
それで死んだら、死にきれず自縛霊になっても仕方ない気がする。
あっという間にこの霊に同情してしまった僕は、彼女にせめてもの言葉をかける事にした。
「どんな人なのかな。 よければ僕が探してあげるよ」
「本当ですの……? 彼は優しい人ですわ」
「優しい人……うーん、他には?」
さすがに優しいというだけでは何ともなぁ。
「あとは……誰かのために頑張れる人ですの」
僕とは大違いだなぁ……。
ああ、ルーテシアには本当にひどい事をした……。
でも、まだ彼女に合わせる顔がないんだ。
「あ、そうだ。 名前は?」
名前を知っていれば、相手を探しやすいよね。
しかし、霊の探し人って死んでたりするパターンよくあるし、そうなった時はどうやって成仏してもらえばいいんだろう。
死んでましたって言ったらいいのかな。
「勇……ア……キ」
「え、なんて言ったの?」
「勇者アカツキですわ」
「……………………えっ?」
苛立ったように顔を上げた彼女は、
「ですからっ! 勇者、アカツ……キ」
「や、やあ……」
どこからどう見てもルーテシア・リヴィングストンその人だった。
え、どうすんの、これ。
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