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十一話 How much is the price of the life? 中上
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「……うわあ」
そうとしか言えない光景が、僕の目の前に広がっていた。
一塊が約十匹と数えて、それが二十三塊の約二百三十匹。
見える範囲は思ったよりも遠くまで見渡せた。
何故ならゴブリン達は、むしゃむしゃと僅かに残った木の葉を貪っていて、視界を遮る物がほとんどない。
土をかじっている連中までいるくらいだ。
「思ったよりも少ないな」
「……これでですか?」
少し離れた丘の上からしゃがみながら伺う僕達だったけど、ソフィアさんとマゾーガは微妙な表情を作っている。
「ああ……だが、多いよりはマシだろう」
今日のソフィアさんも今から戦いに行く格好には到底、見えない。
薄い緑に染められた絹で出来た服で、身体にぴったりとくっつき、こう……凹凸の激しいラインが非常に目の毒だ。
足の横に入ったスリットはしゃがみこんでいるせいで太ももを露わにしてしまっていて、白い肌がはっきりと根元まで見える。
「というかアオザイだよな」
「さて、考えていても仕方ない」
この世界にアオザイがあったんだな、と思っているとソフィアさんは立ち上がった。
隠れてしまった太ももに、僕の青少年スピリットがしょんぼりするけど、そんな場合じゃない。
「何か考えがある者は? 私はない」
「ない」
「えっ」
「なんだ、何かあるなら遠慮なく言え」
「いや、ないですけど」
と、いうか浮かびません。
「よし、なら」
ソフィアさんはゴブリン達の中心を指差した。
「あそこにある洞窟に突っ込んで、ゴブリンマザーを斬って逃げるぞ」
とにかく斬って斬って、ボスも斬って逃げるって何という脳みそが筋肉なのか……と思わなくもないけど、作戦としてはこれ以外ないのか。
戦力はソフィアさんとマゾーガの二人、お荷物が一人。
僕よりこういう時、役に立ちそうにないGさんは留守番だ。
勝利条件はソフィアさんとマゾーガがゴブリンマザーに到達する事。
せめて僕が魔術を使えて、陽動でも出来ればよかったんだけど、覚醒フラグなんて実際にはやっぱりないらしい。
そう考えればこれ以上はないし、これ以外はなさそうな気がする。
「こういう時、下手な小細工よりも速さが大事だ」
「よ、よし」
「あいつらをよく見ろ、リョウジ。 お前とゴブリンなら、お前の方が、強い」
マゾーガの言葉に従って、ゴブリンを見てみればあいつらの武器は細い木の枝に尖った石をくくりつけている程度で、服すら着ていない。
それに対して村の人から借りた皮鎧は、名前から想像していたよりも硬い。
鉄ほどとは言わないけど、僕がこの皮鎧を斬ろうと思ったら相当に苦労する硬さだ。
マゾーガから借りた短剣、というか鉈のような刃物は、よく手入れされていて、ギラギラと輝いていて、見るからによく斬れそうな感じがする。
借り物だけだけど、装備だけ見れば圧倒的に俺の勝ちだ。
「いけるな」
いける、いける、いける、と自分に思い込ませる。
どうしようもないくらい怖いけど、ソフィアさんとマゾーガの二人を相手にするのと、ゴブリン百匹を一人で相手にするなら、ゴブリン百匹と戦った方がよほど生き残れるだろう。
むしろ、今からこの二人を相手にするゴブリン達が可哀想なくらいだ。
そう思えば、震えも止まる……事はないけど何とかなるはず。
「よし……!」
「覚悟は出来たな。 ならお前はゆっくり着いてこい、リョウジ」
いっそ軽やかに、と言ってもいいくらいソフィアさんは踏み出した。
それに続いて、マゾーガも。
「いきなりっ!?」
飛ぶように走るソフィアさんは、背に羽でも着いているかのように軽やかに宙を舞った。
「ギ、ギイッ!?」
一塊になっていたゴブリン達の真ん中に着地すると、りぃんという鈴が鳴るような音が辺りに響く。
「花を食らい尽くす貴様らでも」
抜刀。
猿に似たゴブリン達は、目を丸く見開いている。
「花を咲かす肥料くらいにはなるだろう」
納刀。
目を見開いたゴブリン達の首が、まとめて地に落ち、思い出したかのように残った身体から血が噴き出す。
「行くぞ、有象無象」
そんなのろまなゴブリン達に汚される事もなく、ソフィアさんは加速する。
「フンッ」
マゾーガの竜巻のような一振りは、ソフィアさんのような華麗さはない。
だけど、ゴブリン達の身体を粉々にして辺りに飛び散らせ、緑の肌を赤く汚しながら突き進む。
「っ!」
わかっていたけど、僕じゃ役に立たない。
追い付くのに精一杯で、短剣を振る余裕なんてありはしなかった。
あっという間にソフィアさん、マゾーガ、少し遅れて僕の順番で洞窟に飛び込む。
後ろを振り返れば、まさに死屍累々といった様子だ。
「案外、何とかなりそうな感じ……?」
そんな事を考えた僕が自分の甘さに気付くまで、大した時間はかからなかった。
洞窟の中は思っていたより明るい。
壁に生えた苔がうっすらと光を発していて、僕が両手を広げても問題ないくらいの幅がある事を教えてくれる。
しかし、
「休む暇も無しか」
「仕方ない」
僕達の侵攻速度は目に見えて落ちていた。
前からはゴブリン、後ろからもゴブリン。
突進力のあるマゾーガが前に進み、ソフィアさんが後ろからの追撃を防いでいる。
だけど、斬っても斬っても後から後から湧いてくるかのようにゴブリンは押し寄せてきた。
足元にはゴブリンの死体が転がっているけど、それを踏むのにすでに抵抗すら感じない。
「リョウジ、水だ」
「はい!」
そんな中で俺が何をしているかと言えば、二人の間で水を渡したり、足元のゴブリンの死体を後ろ向きに移動するソフィアさんの邪魔にならないように退かすくらいだ。
渡した水筒に口をつける間もソフィアさんは足は止まらず、ゴブリン達の粗末な槍を器用に避け続けている。
「ふう、やっぱり女の身は体力がなくていけない」
投げ返される水筒を僕がキャッチするまでの間に、ソフィアさんの刀は再び振るわれ、ゴブリン達を切り裂いていく。
だけどソフィアさんの剣速は目に見えて落ち、僕でも何とか追えるくらいだ。
汗が滴り落ち、絹のアオザイが肌にべったりとくっついている。
死体を片付けているだけで、喋る気力もなくなりそう僕より、遥かに動いているソフィアさんがどれだけ疲れているか何て考えるまでもない。
「それを言うなら、おでも、だ」
「ああ、なら弱音を吐いている場合ではないな」
「それに、そろそろらしい」
「デカブツが来るか」
ずしん、と地面が揺れた。
いきなりの事に振り返れば、通路一杯に広がった巨体。
ゴブリンが子猿だとしたら、奴らはゴリラだ。
背も天井スレスレで、腕は立っていても地面に着きそうなくらいに長く、その両方にマゾーガの腰より太い丸太を握っている。
「ホブゴブリンか」
「本当に同じ種なんですか!?」
「らしいぞ。 学者先生が決めたらしいが」
どう考えても学名ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ、和名ゴリラにしか見えない。
その生臭い息は死臭を乗せて、離れた僕の所まで届き、その巨大な足で小さなゴブリン達を踏みつぶしながら前に進む。
「マザーは任せた、ゾフィア」
「ああ、任された」
そんな巨体を前にしても、二人は揺るがない。
ただマゾーガは足を止め、しっかりと敵を見据えた。
「オークとゴブリン、どっちが強いか、確かめてみるか」
そうとしか言えない光景が、僕の目の前に広がっていた。
一塊が約十匹と数えて、それが二十三塊の約二百三十匹。
見える範囲は思ったよりも遠くまで見渡せた。
何故ならゴブリン達は、むしゃむしゃと僅かに残った木の葉を貪っていて、視界を遮る物がほとんどない。
土をかじっている連中までいるくらいだ。
「思ったよりも少ないな」
「……これでですか?」
少し離れた丘の上からしゃがみながら伺う僕達だったけど、ソフィアさんとマゾーガは微妙な表情を作っている。
「ああ……だが、多いよりはマシだろう」
今日のソフィアさんも今から戦いに行く格好には到底、見えない。
薄い緑に染められた絹で出来た服で、身体にぴったりとくっつき、こう……凹凸の激しいラインが非常に目の毒だ。
足の横に入ったスリットはしゃがみこんでいるせいで太ももを露わにしてしまっていて、白い肌がはっきりと根元まで見える。
「というかアオザイだよな」
「さて、考えていても仕方ない」
この世界にアオザイがあったんだな、と思っているとソフィアさんは立ち上がった。
隠れてしまった太ももに、僕の青少年スピリットがしょんぼりするけど、そんな場合じゃない。
「何か考えがある者は? 私はない」
「ない」
「えっ」
「なんだ、何かあるなら遠慮なく言え」
「いや、ないですけど」
と、いうか浮かびません。
「よし、なら」
ソフィアさんはゴブリン達の中心を指差した。
「あそこにある洞窟に突っ込んで、ゴブリンマザーを斬って逃げるぞ」
とにかく斬って斬って、ボスも斬って逃げるって何という脳みそが筋肉なのか……と思わなくもないけど、作戦としてはこれ以外ないのか。
戦力はソフィアさんとマゾーガの二人、お荷物が一人。
僕よりこういう時、役に立ちそうにないGさんは留守番だ。
勝利条件はソフィアさんとマゾーガがゴブリンマザーに到達する事。
せめて僕が魔術を使えて、陽動でも出来ればよかったんだけど、覚醒フラグなんて実際にはやっぱりないらしい。
そう考えればこれ以上はないし、これ以外はなさそうな気がする。
「こういう時、下手な小細工よりも速さが大事だ」
「よ、よし」
「あいつらをよく見ろ、リョウジ。 お前とゴブリンなら、お前の方が、強い」
マゾーガの言葉に従って、ゴブリンを見てみればあいつらの武器は細い木の枝に尖った石をくくりつけている程度で、服すら着ていない。
それに対して村の人から借りた皮鎧は、名前から想像していたよりも硬い。
鉄ほどとは言わないけど、僕がこの皮鎧を斬ろうと思ったら相当に苦労する硬さだ。
マゾーガから借りた短剣、というか鉈のような刃物は、よく手入れされていて、ギラギラと輝いていて、見るからによく斬れそうな感じがする。
借り物だけだけど、装備だけ見れば圧倒的に俺の勝ちだ。
「いけるな」
いける、いける、いける、と自分に思い込ませる。
どうしようもないくらい怖いけど、ソフィアさんとマゾーガの二人を相手にするのと、ゴブリン百匹を一人で相手にするなら、ゴブリン百匹と戦った方がよほど生き残れるだろう。
むしろ、今からこの二人を相手にするゴブリン達が可哀想なくらいだ。
そう思えば、震えも止まる……事はないけど何とかなるはず。
「よし……!」
「覚悟は出来たな。 ならお前はゆっくり着いてこい、リョウジ」
いっそ軽やかに、と言ってもいいくらいソフィアさんは踏み出した。
それに続いて、マゾーガも。
「いきなりっ!?」
飛ぶように走るソフィアさんは、背に羽でも着いているかのように軽やかに宙を舞った。
「ギ、ギイッ!?」
一塊になっていたゴブリン達の真ん中に着地すると、りぃんという鈴が鳴るような音が辺りに響く。
「花を食らい尽くす貴様らでも」
抜刀。
猿に似たゴブリン達は、目を丸く見開いている。
「花を咲かす肥料くらいにはなるだろう」
納刀。
目を見開いたゴブリン達の首が、まとめて地に落ち、思い出したかのように残った身体から血が噴き出す。
「行くぞ、有象無象」
そんなのろまなゴブリン達に汚される事もなく、ソフィアさんは加速する。
「フンッ」
マゾーガの竜巻のような一振りは、ソフィアさんのような華麗さはない。
だけど、ゴブリン達の身体を粉々にして辺りに飛び散らせ、緑の肌を赤く汚しながら突き進む。
「っ!」
わかっていたけど、僕じゃ役に立たない。
追い付くのに精一杯で、短剣を振る余裕なんてありはしなかった。
あっという間にソフィアさん、マゾーガ、少し遅れて僕の順番で洞窟に飛び込む。
後ろを振り返れば、まさに死屍累々といった様子だ。
「案外、何とかなりそうな感じ……?」
そんな事を考えた僕が自分の甘さに気付くまで、大した時間はかからなかった。
洞窟の中は思っていたより明るい。
壁に生えた苔がうっすらと光を発していて、僕が両手を広げても問題ないくらいの幅がある事を教えてくれる。
しかし、
「休む暇も無しか」
「仕方ない」
僕達の侵攻速度は目に見えて落ちていた。
前からはゴブリン、後ろからもゴブリン。
突進力のあるマゾーガが前に進み、ソフィアさんが後ろからの追撃を防いでいる。
だけど、斬っても斬っても後から後から湧いてくるかのようにゴブリンは押し寄せてきた。
足元にはゴブリンの死体が転がっているけど、それを踏むのにすでに抵抗すら感じない。
「リョウジ、水だ」
「はい!」
そんな中で俺が何をしているかと言えば、二人の間で水を渡したり、足元のゴブリンの死体を後ろ向きに移動するソフィアさんの邪魔にならないように退かすくらいだ。
渡した水筒に口をつける間もソフィアさんは足は止まらず、ゴブリン達の粗末な槍を器用に避け続けている。
「ふう、やっぱり女の身は体力がなくていけない」
投げ返される水筒を僕がキャッチするまでの間に、ソフィアさんの刀は再び振るわれ、ゴブリン達を切り裂いていく。
だけどソフィアさんの剣速は目に見えて落ち、僕でも何とか追えるくらいだ。
汗が滴り落ち、絹のアオザイが肌にべったりとくっついている。
死体を片付けているだけで、喋る気力もなくなりそう僕より、遥かに動いているソフィアさんがどれだけ疲れているか何て考えるまでもない。
「それを言うなら、おでも、だ」
「ああ、なら弱音を吐いている場合ではないな」
「それに、そろそろらしい」
「デカブツが来るか」
ずしん、と地面が揺れた。
いきなりの事に振り返れば、通路一杯に広がった巨体。
ゴブリンが子猿だとしたら、奴らはゴリラだ。
背も天井スレスレで、腕は立っていても地面に着きそうなくらいに長く、その両方にマゾーガの腰より太い丸太を握っている。
「ホブゴブリンか」
「本当に同じ種なんですか!?」
「らしいぞ。 学者先生が決めたらしいが」
どう考えても学名ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ、和名ゴリラにしか見えない。
その生臭い息は死臭を乗せて、離れた僕の所まで届き、その巨大な足で小さなゴブリン達を踏みつぶしながら前に進む。
「マザーは任せた、ゾフィア」
「ああ、任された」
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