65 / 77
前師団長との確執
しおりを挟む
挨拶が終わると、修練が始まった。単純に走り込みなどの基礎体力トレーニングから始まり、剣術の稽古もした。もちろん、アクアミスリルではなく魔法で安全性が強化された剣を使う。思い切り斬っても、魔法が発動して寸前のところで止まってくれるのだ。相手がついて一対一でやるのだが、かなりみんな強かった。当たり前だが、ギルバート帝国学院剣術科の生徒達とはわけが違う。素早いし、バテない。これが親衛隊で培われた体力というものか。
特に、最初に演説した防衛隊長パーレンと、ハドソンとかいう近衛師団所属の男は群を抜いて強かった。ハドソンには多分、普通の剣でやっていたら殺されていたと思う。
「ケッ。新しい師団長は頼りねぇな」
ハドソンは古傷だらけの顔を拭いながら、立ち去っていった。俺より10個くらい上か、だとしても師団の中では割と若い方だと思った。
遠ざかるハドソンを見つめていると、俺の手に肩を置く者があった。
「気にするな。アイツは自分が師団長を罷免されて、不貞腐れてるだけだ」
「パーレン殿」
パーレンは呆れたように頭を掻いた。しかし後で聞いた話だが、師団の中にも、ハドソンを支持する層は一定数いるらしい。みんながみんな俺の師団長就任を歓迎してくれているわけじゃなかったのだ。でも、国の危険が迫っている時にこんな団結力のないことでいいのだろうか。
「バレンシア。お前に馬をやる」
「はっ!」
「特上の雄馬だ。バーンという。光の速さで走るし、魔膜も突破できるぞ」
「ありがとうございます!」
それから、俺は馬のバーンに乗った修練を始めた。
確かに、バーンは普通の馬ではない。魔馬だ。とにかく物凄く速く走る。だからしっかり乗っていること自体が大変だった。最初の方は何回も振り落とされ、その度に仲間達から笑われた。仲間達の乗る馬も相当には速いのだが、みんな訓練が行き届いている。誰ひとり落馬する者はいない。って、当たり前な話なんだけど。
1日汗を流すと、宿舎に戻ることになった。うわー。これからまた、家族と離れ離れの生活になるのか。今度は学校の寮の時とは違って、ミョージャが尋ねてくることもない。俺がきつく念を押しておいたからだ。命懸けの人達の安らぎを邪魔することは、ぜったいに許されない。
仲間達は宿舎で、大きめの部屋に集まってなんかカードゲームみたいなことをしたり、ギャンブルをしたりしている。
「おお! 師団長じゃねえか! おめえもこいよ」
大柄の男が俺の姿を見るなり、話しかけてきた。
「おい、ミューレ、師団長におめえはねえやな!」
「ガハハ!」
何やら盛り上がっているようだ。そんな中、仲間達の輪の中には入らず、隅で剣を研いでいる男がいた。ハドソンだった。
「よう、新しい師団長は気楽なもんだな。初日から娯楽ですかい。先が思いやられますな」
「おい、ハドソン。そんな言い方ねえだろ」
大男ミューレがたしなめるのを相手にもせず、ハドソンは立ち上がり、ゆっくりと俺の前へと歩いてきた。
「どうだ。ひとつ、俺と決闘しないか?」
ハドソンはにやりと笑った。
特に、最初に演説した防衛隊長パーレンと、ハドソンとかいう近衛師団所属の男は群を抜いて強かった。ハドソンには多分、普通の剣でやっていたら殺されていたと思う。
「ケッ。新しい師団長は頼りねぇな」
ハドソンは古傷だらけの顔を拭いながら、立ち去っていった。俺より10個くらい上か、だとしても師団の中では割と若い方だと思った。
遠ざかるハドソンを見つめていると、俺の手に肩を置く者があった。
「気にするな。アイツは自分が師団長を罷免されて、不貞腐れてるだけだ」
「パーレン殿」
パーレンは呆れたように頭を掻いた。しかし後で聞いた話だが、師団の中にも、ハドソンを支持する層は一定数いるらしい。みんながみんな俺の師団長就任を歓迎してくれているわけじゃなかったのだ。でも、国の危険が迫っている時にこんな団結力のないことでいいのだろうか。
「バレンシア。お前に馬をやる」
「はっ!」
「特上の雄馬だ。バーンという。光の速さで走るし、魔膜も突破できるぞ」
「ありがとうございます!」
それから、俺は馬のバーンに乗った修練を始めた。
確かに、バーンは普通の馬ではない。魔馬だ。とにかく物凄く速く走る。だからしっかり乗っていること自体が大変だった。最初の方は何回も振り落とされ、その度に仲間達から笑われた。仲間達の乗る馬も相当には速いのだが、みんな訓練が行き届いている。誰ひとり落馬する者はいない。って、当たり前な話なんだけど。
1日汗を流すと、宿舎に戻ることになった。うわー。これからまた、家族と離れ離れの生活になるのか。今度は学校の寮の時とは違って、ミョージャが尋ねてくることもない。俺がきつく念を押しておいたからだ。命懸けの人達の安らぎを邪魔することは、ぜったいに許されない。
仲間達は宿舎で、大きめの部屋に集まってなんかカードゲームみたいなことをしたり、ギャンブルをしたりしている。
「おお! 師団長じゃねえか! おめえもこいよ」
大柄の男が俺の姿を見るなり、話しかけてきた。
「おい、ミューレ、師団長におめえはねえやな!」
「ガハハ!」
何やら盛り上がっているようだ。そんな中、仲間達の輪の中には入らず、隅で剣を研いでいる男がいた。ハドソンだった。
「よう、新しい師団長は気楽なもんだな。初日から娯楽ですかい。先が思いやられますな」
「おい、ハドソン。そんな言い方ねえだろ」
大男ミューレがたしなめるのを相手にもせず、ハドソンは立ち上がり、ゆっくりと俺の前へと歩いてきた。
「どうだ。ひとつ、俺と決闘しないか?」
ハドソンはにやりと笑った。
10
お気に入りに追加
914
あなたにおすすめの小説
闇ガチャ、異世界を席巻する
白井木蓮
ファンタジー
異世界に転移してしまった……どうせなら今までとは違う人生を送ってみようと思う。
寿司が好きだから寿司職人にでもなってみようか。
いや、せっかく剣と魔法の世界に来たんだ。
リアルガチャ屋でもやってみるか。
ガチャの商品は武器、防具、そして…………。
※小説家になろうでも投稿しております。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
セラルフィの七日間戦争
炭酸吸い
ファンタジー
世界と世界を繋ぐ次元。その空間を渡ることができる数少ない高位生命体、《マヨイビト》は、『世界を滅ぼすほどの力を持つ臓器』を内に秘めていた。各世界にとって彼らは侵入されるべき存在では無い。そんな危険生物を排除する組織《DOS》の一人が、《マヨイビト》である少女、セラルフィの命を狙う。ある日、組織の男シルヴァリーに心臓を抜き取られた彼女は、残り『七日間しか生きられない体』になってしまった。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる