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前師団長との確執

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 挨拶が終わると、修練が始まった。単純に走り込みなどの基礎体力トレーニングから始まり、剣術の稽古もした。もちろん、アクアミスリルではなく魔法で安全性が強化された剣を使う。思い切り斬っても、魔法が発動して寸前のところで止まってくれるのだ。相手がついて一対一でやるのだが、かなりみんな強かった。当たり前だが、ギルバート帝国学院剣術科の生徒達とはわけが違う。素早いし、バテない。これが親衛隊で培われた体力というものか。
 特に、最初に演説した防衛隊長パーレンと、ハドソンとかいう近衛師団所属の男は群を抜いて強かった。ハドソンには多分、普通の剣でやっていたら殺されていたと思う。


「ケッ。新しい師団長は頼りねぇな」


 ハドソンは古傷だらけの顔を拭いながら、立ち去っていった。俺より10個くらい上か、だとしても師団の中では割と若い方だと思った。
 遠ざかるハドソンを見つめていると、俺の手に肩を置く者があった。



「気にするな。アイツは自分が師団長を罷免されて、不貞腐れてるだけだ」


「パーレン殿」


 パーレンは呆れたように頭を掻いた。しかし後で聞いた話だが、師団の中にも、ハドソンを支持する層は一定数いるらしい。みんながみんな俺の師団長就任を歓迎してくれているわけじゃなかったのだ。でも、国の危険が迫っている時にこんな団結力のないことでいいのだろうか。


「バレンシア。お前に馬をやる」


「はっ!」


「特上の雄馬だ。バーンという。光の速さで走るし、魔膜も突破できるぞ」


「ありがとうございます!」


 それから、俺は馬のバーンに乗った修練を始めた。
 確かに、バーンは普通の馬ではない。魔馬だ。とにかく物凄く速く走る。だからしっかり乗っていること自体が大変だった。最初の方は何回も振り落とされ、その度に仲間達から笑われた。仲間達の乗る馬も相当には速いのだが、みんな訓練が行き届いている。誰ひとり落馬する者はいない。って、当たり前な話なんだけど。
 1日汗を流すと、宿舎に戻ることになった。うわー。これからまた、家族と離れ離れの生活になるのか。今度は学校の寮の時とは違って、ミョージャが尋ねてくることもない。俺がきつく念を押しておいたからだ。命懸けの人達の安らぎを邪魔することは、ぜったいに許されない。
 仲間達は宿舎で、大きめの部屋に集まってなんかカードゲームみたいなことをしたり、ギャンブルをしたりしている。


「おお! 師団長じゃねえか! おめえもこいよ」


 大柄の男が俺の姿を見るなり、話しかけてきた。

「おい、ミューレ、師団長におめえはねえやな!」


「ガハハ!」


 何やら盛り上がっているようだ。そんな中、仲間達の輪の中には入らず、隅で剣を研いでいる男がいた。ハドソンだった。


「よう、新しい師団長は気楽なもんだな。初日から娯楽ですかい。先が思いやられますな」


「おい、ハドソン。そんな言い方ねえだろ」


 大男ミューレがたしなめるのを相手にもせず、ハドソンは立ち上がり、ゆっくりと俺の前へと歩いてきた。


「どうだ。ひとつ、俺と決闘しないか?」


 ハドソンはにやりと笑った。
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