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ギルバート15世

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☆ギルバート皇帝☆

 ギルバート帝国第15代皇帝であるギルバート15世は、ギルバート帝国学院剣術科の最大イベントである「魔物サバイバル」を、豪華絢爛な自室にて、モニターを通して鑑賞していた。ギルバートにとって、剣術科の生徒など皆取るに足らない未熟者ばかりで、どの生徒の行動をモニタリングしても、ギルバートの退屈を埋め合わせるような魅力的な者など誰ひとりとしていなかった。
 そんな中、ギルバートはある1人の男に、懐かしき面影を見た。あの男は、幼少期の自分を護ってくれていた、ヘンスリー・ギルバートと瓜二つだった。
 ギルバートは急いで側近のカバジ・ジャコフを部屋に呼びつけた。


「お呼びでしょうか。皇上」


「ジャコフ。モニターを見よ」


「はっ。こちら、バレンシア家当主パオロ・バレンシアでございます」


「やはりそうであったか」


 それ以上、カバジ・ジャコフは何も言わなかった。
 ギルバートは、幼少期のことを思い出した。ドラゴンに襲われた時のことを。

 彼は幼少期、父にして代14第皇帝である、ギルバート14世に厳しく育てられてきた。この世に存在するありとあらゆる学問を、父から直々に教わった。しかしながら、それらはどれも机の上の学問として、であった。
 皇太子であるギルバートは、自由な外出を禁じられていた。外出する時は必ず、カバジ・ジャコフを通して父に請願しなければならなかった。直接頼み込むことすら許されなかった。しかし、ギルバートとて人の子である。ある時魔が刺して、持ち前の極めて優れた魔力によってカバジ・ジャコフの目を盗み、宮殿を抜け出した。

 向かった先は山の中にある、洞窟だった。洞窟というものは、どういうわけか少年の心をくすぐった。
 洞窟の薄暗さや、肌寒さ、湿り具合。どれを取っても、ギルバート少年には新鮮で、面白くて仕方がなかった。

 洞窟の中の、色んな物に触れてみる。心が踊った。ある時、柔らかい物を触ったと思うと、たちまち洞窟内に爆音が響き渡る。


 ギルバート少年は、「死」を覚悟した。何故なら、少年ごときの魔法は、何ひとつ目の前に現れた「ドラゴン」には通用しなかったからである。


「皇子! 今、参りました!」


 颯爽と現れたのは、年老いた騎士団長、ヘンスリー・バレンシアであった。
 綺麗な格好に、ビシッとした背筋。ドラゴンに対して果敢に向かっていくと、手に持っていたミスリルで、ドラゴンに飛びかかっていった。自分よりも何倍も大きな相手にも恐れず向かっていける原動力が何なのか、ギルバート少年にはわからなかった。そしてそれは、ギルバート自身が年老いた今でも同じことだった。

 ギルバート14世は、あの後、ヘンスリーに「アクアミスリル」を授けた。
 あの時、自分の命を守ってくれたヘンスリーが当時の皇帝から賜った「アクアミスリル」。今はヘンスリーの孫が、ギルバート自身が発案した残酷な必須科目の危険から自らの身を守るために使用している。ギルバートにはそれが堪らなかった。

 ギルバートは、バレンシア家の本家であるバルドナード家を事実上、追放した。しかしながらそれは、あの時の恩をバレンシア家に返すためではない。
 
 ギルバートの目的は、他にあったのである。
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