上 下
11 / 77

練習試合の約束

しおりを挟む
「えっ? なんでお…? われ?」



「そんなことはどうだっていい!」



「パオロ様! お疲れなのではないですか?」



「そんなこともどうだっていい! 何故メイドがここにいると聞いているんだ!」



 俺がいきり立つと、メイドは口を窄めた。うわっ。めっちゃ可愛いんですけど。って、そういうことではなくて。



「パオロ様、どうして私をメイド、メイドってお呼びなさるんですかあ~! 私の名前はメイドじゃありません!」



 うわっ。こいつ、めっちゃ生意気だな~。それにしてもたしかに、こいつにもちゃんとした名前はあるよな。知らんけど。実際知らないだけなんだよな~、俺、転生してきたばかりだし。でも説明のしようがないから、ここは押し通すしかない。



「いや! お前はメイド、メイドだ!」



「パオロ様ひどい! いくら私が平民だからって、そんなの人権侵害ですぅ! しかも2回も言わないでくださいよ! 2回も!」



「いいや! 何度だって言ってやる! メイド! メイド! メイド! メイド! メイド!」



「うわ~! パオロ様の人でなし、寮生活寂しいと思ってせっかく来てあげたのに!」



「フッ、何を考えているかと思えば、そんなことだったのか」



 でも実際のところ、図星だった。初めての寮生活で不安なところに不意にメイドの顔が見れて、声が聞けたもんだから、なんだか嬉しくて、ちょっぴり涙が出そうになったくらいだ。



「これから、ちょくちょく来ますから、安心してくださいね、パオロ様!」


「こなくていい!」



「そんなあ! ひっど~い! なんか今日のパオロ様、こっわ~い!」


 実際、メイドは学校が本格的に始まってからも、ちょくちょく寮に顔を出した。これが寮規定に違反していないかもわからないし、少しだけ鬱陶しいけれど、メイドの顔を見ると心安らぐ自分がいるのは確かだった。


 恐らく、初めての俺の寮生活を心配した父ロベルトが、メイドに命じてやらせているのだろう。屋敷から寮なんて遠いのに、メイドも大変だろう。本当は感謝している。だけれど、伝えなければ意味がない。照れくさくてありがとうなんて言えないけれど。



「パオロ様! 寮のビュッフェ、最高ですよ! 絶対一回行った方がいいです! 人生半分損してます!」



「ビュッフェなんかあるのか!? ていうか、お前は手つけたらダメだろ!」



「え~! なんでですか? 料理長と私はもう親友です!」



「なんだよその状況!」



 前言撤回。こいつは食い意地張っているだけだ。馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。


 俺はキンカーと仲良くなり、寮でも一緒に過ごす時間が増えた。そうなると必然的に、メイドとキンカーが接触する機会も増えてくる。
この2人もなかなか仲がいい。

 それはさておき、キンカーがある日、俺と、メイドと3人で遊んでいる時に妙なことを言い出した。



「ねえ、パオロ」


「なんだ?」


「決闘はひと月後にあるじゃん?」


「うん、あるな」


「誰がどんくらい強いのかとか、まだ全然そういうの、わからないじゃん?」



「まあ、そりゃあな。知り合ったばかりだし」



「ちょっとさ、2人で決闘の練習してみない? 死なないようにそれこそ木刀で」



「何言ってんだ」



 俺が断ろうとしたのも束の間、いきなりメイドが会話に割り込んできた。



「はい! はい! はい! 私、大賛成です! やりましょう、決闘! 私、審判やりましょう」



「ね? メイドもそう思うでしょう? ほら、パオロ、一戦よろしく頼むよ」



「仕方ないなあ、わかったよ」



 軽く受けてしまったが、内心はビビりまくっていた。キンカーも可愛い顔して、ギルバート帝国学院剣術科に入学が許されたエリートなのである。相当強いはずだ。負けて、俺が大怪我を負う可能性だってある。そんなの勘弁だっつーの。



 それでも、決闘は1ヶ月後に必ずしなければいけないのだ。ここらで練習試合をしておく必要は、確かにあるかもしれない。



「よし、そうと決まったら明日、寮内の修練場で夕方、やりましょう!」


「よし!」



「なんでお前が仕切ってるんだよ」



「え~、だって、楽しみじゃないですかぁ~、またパオロ様の華麗な剣遣い、ぜひ見たいです!」

 
 そう言って例のごとくメイドは、剣を振り回す真似をした。それを見たキンカーが笑っている。


 やれやれ、調子のいいやつだ。ったく、先が思いやられるわい。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

引きこもりが乙女ゲームに転生したら

おもち
ファンタジー
小中学校で信頼していた人々に裏切られ すっかり引きこもりになってしまった 女子高生マナ ある日目が覚めると大好きだった乙女ゲームの世界に転生していて⁉︎ 心機一転「こんどこそ明るい人生を!」と意気込むものの‥ 転生したキャラが思いもよらぬ人物で-- 「前世であったことに比べればなんとかなる!」前世で培った強すぎるメンタルで 男装して乙女ゲームの物語無視して突き進む これは人を信じることを諦めた少女 の突飛な行動でまわりを巻き込み愛されていく物語

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

一人息子の勇者が可愛すぎるのだが

碧海慧
ファンタジー
魔王であるデイノルトは一人息子である勇者を育てることになった。 デイノルトは息子を可愛がりたいが、なかなか素直になれない。 そんな魔王と勇者の日常開幕!

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

処理中です...