紅黒のアガペー 〜Sequentes dei tenebrarum〜

第一話 夕闇のシスター

　僕は恋をしていた。

　初めて彼女を見た瞬間、僕の心臓ははち切れんばかりに脈打った。
彼女は数年前、村はずれの古い石造りの教会に住み始めたシスターだった。

　彼女の長い髪は太陽の光を束ねたように黄金色に輝き、その蒼い瞳は深い海を思わせた。僕はその瞳に見つめられるたび、吸い込まれそうな感覚を覚えた。
　ピチッとした修道服は彼女の豊かな胸を際立たせ、両側に空いた深いスリットからは瑞々しい太ももを覗かせていた。
　村の若い衆からはその格好から「エロシスター」などと呼ばれていたが、僕はそれが彼女の本質を表していないと感じていた。

　彼女はとても優しく聡明で、心の奥底から温かさが溢れていた。
　村人たちもそんな彼女に好意的だった。
　彼女は外見的には若々しく見えるが、数年前から変わっていないので、実際は見た目よりももっと年上なのかもしれない。
　それでも僕よりずっと年が上と言うことは無いだろう。

　僕は彼女に会うのが楽しみだった。
　彼女の笑顔を見るだけで胸が高鳴った。
　そしてその日、僕は彼女に告白する決意をした

　夕日が沈み、薄暮の静寂に包まれる中、僕は教会の扉を叩いた。
　本当はもっと早い時間に来るはずだったが、途中で決意が揺らぎ、逡巡しているうちにこんな時間になってしまっていた。

　扉を叩くとすぐにシスターがやってきた。

　「あら、あなたは……私にどのようなご用でしょう？」

　僕は一瞬戸惑ったが、ここまで来てしまったのだからもう後戻りはできない。

　「シスター、僕と、交際してください」

　用意していた花束を差し出し、彼女に想いを告げた。

　シスターは、最初びっくりしたような顔をしていたが、やがて目を伏せ口を開く。

　「ごめんなさい。あなたのお気持ちは嬉しいのですが交際はできません」

　「何故ですか？神にその身を捧げているからですか？」

　僕は振られてなお食い下がった。

　「いいえ、我が神は修道女の交際を禁止しておりません」

　「それなら何故？ちゃんとした理由を聞かせてくれないと、僕は諦めきれません！」

　シスターは困り果てた顔をしていたが、やがて何かを覚悟したように息を吐いた。
　その瞬間、どこからともなく昏く低い声が響いた気がした。

　「分かりました。こちらへどうぞ」

　そう言って、彼女は教会の中へと僕を招き入れた。