ぼくらの国防大作戦

坂ノ内 佐吉

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第九章

Chapter.38 永遠の別れ

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 永遠の別れ

「パパ、じゃあ、研究室に戻ろう。心の準備はできた」
「そうだな」
 二人は研究室に戻り、準備を始めた。
「そうだ、友杏、前回会った後もいろいろ考えて調べたんだが、岸部幸来紗には幼いころからの大親友がいるらしい。名前は岩崎美智。彼女はおそらく岸部幸来紗のことを何でも知っていそうだから、その岩崎美智を訪ねて、彼女から岸部幸来紗の情報を聞き出すのがベストだとパパは考えている」
「なるほど。うん、分かった。そうしてみる」
「岩崎美智の居場所は、福岡、博多だ。一緒に確認していこう」
 坂広と華怜は机に置かれたパソコンの前に立つと、行先を設定する。 
「行先は博多に設定」
 パソコンの画面には‟博多”と表示される。
「タイムスリップした瞬間を目撃されたら面倒だ。人目につきにくい場所にしておこう。友杏、入力情報を確認してくれ」
坂広は素早く入力しながら話すと、友杏は画面の情報を確認する。
「そしてタイムスリップする時代だが、2024年の夏ごろでどうだろう。第三次世界大戦勃発まで、2年以上の猶予がある。いいか?」
「仰せの通りに」
「じゃあ、パパとママが出会った記念日、8月9日にしよう。到着時間は、人に見られないように深夜」
「うん、間違いなく入力できてるよ」友杏のアドレナリンは上昇する。
「よしOK。……そうだ、友杏、大事なものを忘れるところだった。このPCタブレットだ。この中は、過去から現在への情報をこれでもかっていうほどに入れておいた。これを活用すれば友杏の言うことを誰かに容易に信じさせることができるだろう。やばい奴と思わせないためにな」
「さすが、パパ。すごく活用できそう」
「次にこの本」
 本には、‟読み始めたら止まらない近代日本史”と書かれている。
「近代日本史の本だ。これも相手を信じさせるために役立つだろう。多くの協力者に渡せるように、10冊は渡しておこう。」
「分かった」
「あと、最後にこれだ。現金4億円。すべて2024年の紙幣で揃えてある」
「そんな大金持ち歩くの緊張するな」
 友杏は4億円の札束を目にすると、大きく深呼吸をする。
 坂広は、タブレットと本、現金を入れたバッグを友杏に手渡すと、友杏はそのバッグをスーツケースにしまった。
「じゃあ、準備はいいかな?」
「うん、大丈夫」友杏は深呼吸をする。
「じゃあ、タイムマシンに入ろうか」坂広は友杏をタイムマシンの中に誘導する。
 友杏がタイムマシンの中に入ろうとすると、地下室への階段を駆け下りる足音が聞こえてきた。二人は振り向くと、華怜が息を切らして研究室に入って来る。
「友杏……」華怜の両眼からは涙が流れ落ちている。
「ママ……」「華怜……」友杏と坂広は声を出す。
「友杏…… 邪魔しちゃいそうだから、会うのはやめようと思ってたのに、来ちゃった」
 華怜は友杏に駆け寄り、強く抱きしめる。
「絶対、成功させるんだよ。分かった!」華怜は泣きながら、抱きしめた友杏の耳元で言う。
「分かってる。……ママ。ごめんね。心配ばっかりかけてきたのに…… 最後の最後まで……」
「それはもう言わないでいいよ。頑張ってね」華怜は抱き寄せていた友杏の身体から離れ、友杏の両肩を掴んで、優しく言う。
「ありがとう。私、やるからね!」
 坂広は、二人の姿を、黙ってハンカチで涙を拭きながら見ていた。
「過去に行ったら、きっとパパとママに会いに行くから」
「うん」
 華怜が頷くと、坂広が割って入る。 
「ごめん、感傷的なところ邪魔して。友杏、せめて赤ちゃんのお前が誕生するまではパパとママに会いに来てはダメだ。友杏がパパとママの前に現れて、影響を与えることによって、友杏の存在が危うくなる可能性が生じてしまう」
「えっ、そうなの?」友杏の表情は寂しくなる。
「……分かったよ。じゃあ、私が無事に産まれたら、会いに行くよ」
 友杏は、寂しさを紛らわすように、二人に言う。
「そうか。分かった。驚くだろうな。……なあ華怜」
「そうだね。気絶しちゃうかもね」
 笑みを浮かべながら言う華怜は冷静になってきた様子だ。
「最後に、タイムスリップ後にお前の安否を確認するために、数枚の電極を体に張る。上半身だけ下着姿になってくれ」
「分かった」友杏は上半身だけ服を脱ぎ、下着姿になる。
 坂広は、少し照れる様子で、友杏の体に電極を一枚ずつ貼り終わると、友杏は服を着た。
「じゃあ、中に入って」
 友杏と坂広はタイムマシンの中に入る。
「じゃあ、ここに立って、もう動かないで。スーツケースは手に持ったままいい」
 坂広は友杏をタイムマシンの中の中央に立たせ、タイムマシンから出ると、華怜とともにタイムマシンの外から友杏を見つめる。
「パパ、ママ、愛してる!」
 友杏は動かず大きな声で二人に伝えると、一筋の涙が流れ落ちた。
「友杏、愛してる」涙を流しながら華怜が伝える。
「お前は、パパとママの誇りだ。きっとできる」坂広はそう言うと、目を閉じ、短い沈黙の後、口を開く。
「じゃあ、ドアを閉めるからな。そのまま動かないでいて」
 坂広は机の前に立つと、パソコンの操作を始める。
「じゃあ、行ってきます」友杏は泣きながら笑みをつくり、二人に別れの言葉を告げる。
「行ってらっしゃい。友杏」華怜も泣きながら笑みをつくる。
「You can do it !」坂広はガッツポーズをとりながら英語で言うと、タイムマシンのドアは閉まり、床全面が白く光った。
「ママ…… パパ……」友杏の目からは涙が止めどなく流れ落ちる。
 華怜は窓の外から、泣きながら微笑み、タイムマシンの中の友杏にゆっくりと手を振った。
 突然、友杏の身体を数十もの光線が包み込み、友杏の身体は消えていった。
 パソコンの画面では2065から2024へと数字が戻っていき、坂広が注意深く数字を目で追うと、数字は2024でピタリと止まった。
「よし、2024年に友杏はタイムスリップしたぞ」
「あなた、友杏は無事?」
 二人は、友杏に貼った電極から送られてくる数値が表示された生体情報モニターを食い入るように見つめる。
「心拍数、体温に酸素濃度、血圧、すべて正常値だ。華怜、友杏は心配ないよ」
「良かった。友杏、頑張ってね……」華怜は安心してつぶやいた。

 友杏は、旅立ち前の2065年の家族の話を伝えた。
 赤ちゃん友杏を抱っこしながら、やるせない表情の坂広の隣で、華怜はハンカチで涙を拭いている。尚喜は友杏の隣で静かに話を聞いていた。
「ママ、これ。その時、ママが私に書いてくれた手紙だよ」
 華怜は手紙を開き、黙って読み始めると、さらに涙があふれだす。
「そんなことがあったんだね。会いに来てくれてありがとう。友杏」
 華怜は、あふれ出す涙をハンカチで拭きながら言う。
「ここまで大変だったね」坂広の目も潤んでいる。
「パパは言ってた。戦争の犠牲者を減らしたいって。たくさんの人を救いたいって。そのためにタイムマシンを活用できるって。……パパのアイデアが発端で、私は2024年にタイムスリップして、仲間を集めてここまで来た。終戦にならないと、まだ成功とは言えないと思うけど、パパのおかげですでに沖縄と九州は救えたんだよ」
「すごいね。すごいことを俺はしたんだね。でもそれ以上いすごいのは友杏だよ」
「友杏さんは冒険をしてきてすでに業績を残してる。そんな方を妻にできたなんて、僕にとっても誇りです。……これから、戦況はどう変わっていくんでしょうかね? 日本に被害がなく戦争が終わるのを祈りましょう」
しばらく黙っていた尚喜は笑顔で口を開いた。
 坂広の腕の中では、スヤスヤと赤ちゃん友杏が眠っていた。
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