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第九章
Chapter.36 坂広のアイデア
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坂広のアイデア
後日、友杏は実家を再び訪れた。
「友杏、パパにアイデアがあるんだが」
いつも通り、三人はバルコニーでお茶を飲むと坂広は話し始める。
「何なの、そのアイデアって? 私、本気でやりたいとか言っておいて、具体的なアイデアぜんぜんないんだよね」
友杏が言う。
「さすがに第三次世界大戦を回避するなんていうことは、絶対にできないだろう。だが、東京へ核ミサイルが落とされるなんていうことは絶対に防ぎたい。あと、その前に起こる、コンチャウによる沖縄と九州への侵攻もできたら防ぎたい。あの頃、第三次世界大戦開戦以前の一番の政府の欠点は、明らかに国防力を強化しなかったことなんだ。だから、開戦以前に国防力を強化すれば、それが抑止力になり、コンチャウからの攻撃を防げていたと思う。強い相手にケンカを売りたいとは思わないだろ。ジャイアンに誰もケンカを売らないのと同じだよ」
真剣に坂広の話を聞く友杏の横で、華怜は静かに聞いている。
「パパは、日本も核保有するべきだったと思っている。核を持っていれば、抑止力で攻撃されないだろう」
友杏は頷きながら真剣だ。
「そのために、一番のキーパーソンになるのは、当時の首相、岸部利蔵だ。岸部政権はリベラル派で国防を強化しようとはしなかった。のちに様々な政治家や専門家から岸部首相は非難を受けることになったけどね。そして、その岸部首相を動かすのに一番影響力を持っているのは誰なのか考えたんだが…… それは彼の一人娘、岸部幸来紗だと俺は見ている。岸部首相は一人娘を溺愛していたらしい。……友杏、過去に行ったら、娘の幸来紗を探し出し、彼女から父の岸部利蔵首相を説得してもらい、国防力を高めてもらう。できたら核保有も視野に入れてな」
「うんうん、なるほど、なるほど。……ママも同意なの?」
「パパは天才だから。友杏のために最小限のリスクで最大限のアイデアだよ。きっと」
「天才なんて、今さら、そんなに持ち上げられるなよ」
華怜が微笑みながら言うと、坂広は年相応になく照れる。
「このアイデアについて、友杏はどう思う?」
「私、何も思いつかないから、パパのアイデアに従うよ」
友杏は尊敬のまなざしで坂広を見る。
「それと、この作戦の遂行に一人の力じゃ無理だろう。仲間の協力を得るために、大金を用意しよう。全部で4億円程度なら用意できる。友杏の過去での生活費も込めてな」
「さすが、天才科学者はお金持ちだね。お金で釣ろうっていうの?」
「ああ、そうだ。聞こえは悪いかもしれないが、手っ取り早いよ。金でできることはすべてやろう。事が事だしな」
「総理に4億円の賄賂を渡したらどうなんだろう? それか娘の方に4億渡しちゃって総理を説得してもらうの ……私、なんか悪いこと思いついちゃってるかな?」
「ハハハハ。友杏もずる賢いな。だが俺が思うに、岸部首相が国防力の強化に反対する意思は相当強いと思う。それに一国のトップだからな。4億で動かすのは難しいだろうな。それか、娘に賄賂を渡して動いてもらうのもどうだろうな……? まあ、それは、お前の判断に任せるよ。出発までに何かベストなアイデアを他に思いついたら、また伝えるから」
「分かった。私も考えておく」
「それじゃあ、決まりだな。作戦決行まで1ヵ月半くらい欲しいが、いいか? 安全のためにタイムマシンのメンテナンスを、これでもかっていうほど完璧にしておくから」
「う、うん。分かった。その間に退職の手続きとかは済ませておくよ」
緊張するおもむきに変わる友杏の隣で、華怜は静かに目を閉じると、口を開く。
「ねえ、あなた、タイムスリップ後の友杏の安否は確認できるんだよね?」
「ああ、タイムスリップする時に、友杏の身体には電極を数枚貼っておく。それを通して、タイムスリップ直後であれば、こっちのモニターで無事であるかどうかを確認できるよ」
「友杏の安全は絶対だからね」華怜は坂広に強く念を押した。
「ああ、分かってる。それが最優先事項だよ」
後日、友杏は実家を再び訪れた。
「友杏、パパにアイデアがあるんだが」
いつも通り、三人はバルコニーでお茶を飲むと坂広は話し始める。
「何なの、そのアイデアって? 私、本気でやりたいとか言っておいて、具体的なアイデアぜんぜんないんだよね」
友杏が言う。
「さすがに第三次世界大戦を回避するなんていうことは、絶対にできないだろう。だが、東京へ核ミサイルが落とされるなんていうことは絶対に防ぎたい。あと、その前に起こる、コンチャウによる沖縄と九州への侵攻もできたら防ぎたい。あの頃、第三次世界大戦開戦以前の一番の政府の欠点は、明らかに国防力を強化しなかったことなんだ。だから、開戦以前に国防力を強化すれば、それが抑止力になり、コンチャウからの攻撃を防げていたと思う。強い相手にケンカを売りたいとは思わないだろ。ジャイアンに誰もケンカを売らないのと同じだよ」
真剣に坂広の話を聞く友杏の横で、華怜は静かに聞いている。
「パパは、日本も核保有するべきだったと思っている。核を持っていれば、抑止力で攻撃されないだろう」
友杏は頷きながら真剣だ。
「そのために、一番のキーパーソンになるのは、当時の首相、岸部利蔵だ。岸部政権はリベラル派で国防を強化しようとはしなかった。のちに様々な政治家や専門家から岸部首相は非難を受けることになったけどね。そして、その岸部首相を動かすのに一番影響力を持っているのは誰なのか考えたんだが…… それは彼の一人娘、岸部幸来紗だと俺は見ている。岸部首相は一人娘を溺愛していたらしい。……友杏、過去に行ったら、娘の幸来紗を探し出し、彼女から父の岸部利蔵首相を説得してもらい、国防力を高めてもらう。できたら核保有も視野に入れてな」
「うんうん、なるほど、なるほど。……ママも同意なの?」
「パパは天才だから。友杏のために最小限のリスクで最大限のアイデアだよ。きっと」
「天才なんて、今さら、そんなに持ち上げられるなよ」
華怜が微笑みながら言うと、坂広は年相応になく照れる。
「このアイデアについて、友杏はどう思う?」
「私、何も思いつかないから、パパのアイデアに従うよ」
友杏は尊敬のまなざしで坂広を見る。
「それと、この作戦の遂行に一人の力じゃ無理だろう。仲間の協力を得るために、大金を用意しよう。全部で4億円程度なら用意できる。友杏の過去での生活費も込めてな」
「さすが、天才科学者はお金持ちだね。お金で釣ろうっていうの?」
「ああ、そうだ。聞こえは悪いかもしれないが、手っ取り早いよ。金でできることはすべてやろう。事が事だしな」
「総理に4億円の賄賂を渡したらどうなんだろう? それか娘の方に4億渡しちゃって総理を説得してもらうの ……私、なんか悪いこと思いついちゃってるかな?」
「ハハハハ。友杏もずる賢いな。だが俺が思うに、岸部首相が国防力の強化に反対する意思は相当強いと思う。それに一国のトップだからな。4億で動かすのは難しいだろうな。それか、娘に賄賂を渡して動いてもらうのもどうだろうな……? まあ、それは、お前の判断に任せるよ。出発までに何かベストなアイデアを他に思いついたら、また伝えるから」
「分かった。私も考えておく」
「それじゃあ、決まりだな。作戦決行まで1ヵ月半くらい欲しいが、いいか? 安全のためにタイムマシンのメンテナンスを、これでもかっていうほど完璧にしておくから」
「う、うん。分かった。その間に退職の手続きとかは済ませておくよ」
緊張するおもむきに変わる友杏の隣で、華怜は静かに目を閉じると、口を開く。
「ねえ、あなた、タイムスリップ後の友杏の安否は確認できるんだよね?」
「ああ、タイムスリップする時に、友杏の身体には電極を数枚貼っておく。それを通して、タイムスリップ直後であれば、こっちのモニターで無事であるかどうかを確認できるよ」
「友杏の安全は絶対だからね」華怜は坂広に強く念を押した。
「ああ、分かってる。それが最優先事項だよ」
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