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第八章
Chapter.33 誕生
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誕生
2031年、8月16日 横浜
智成と美智は、5月からマンションで同棲を始めていた。
智成のスマホが坂広からのメールを受信する。
『お久しぶりです。赤ちゃんが産まれました。元気な女のです! 名前は友杏と名付けました』
メールには、産まれたての友杏赤ちゃんの写真が添付されている。
「マジか! 美智―! 坂広くん。赤ちゃん産まれたって! 友杏ベイビーだよ!」
「嘘!」美智が速足で智成に駆け寄り、食い入るようにスマホを見る。
「よかったー! ゆってぃだよね! ちゃんと生まれたじゃん。あ~ん、かわゆいー!」
美智は写メを見ると興奮を隠しきれない。
「興奮しすぎだろ。とにかく良かった! こっちから友杏さんの名前を知らせてないのに、ちゃんと友杏って命名されてるじゃん」
「智、幸来紗と周人くん誘ってさ。みんなで会いに行こうよ!」
会うのを待ちきれないといった様子の美智が提案する。
「そうだな。会いに行こう」
「じゃあ、さっそくメール」
美智は幸来紗と周人、そして友杏にメールで吉報を伝えた。
8月24日 静岡
周人と幸来紗、美智と智成の四人は静岡に足を運んだ。
産婦人科病院を訪ねると、坂広が入口で出迎えた。坂広の伸ばしっぱなしだったロン毛はカットされ、さわやかなマッシュヘアーに変わっている。
「お久しぶりです。わざわざ静岡までありがとうございます」
「久しぶり、元気してた? 赤ちゃんおめでとう! なんか、ずいぶんイメージ変わったじゃん」
智成は言うと、坂広の肩をたたく。
「おめでとう。髪型似合うじゃん!」
美智が言うと、幸来紗と周人も笑顔で頷き、
「おめでとう」と、二人は坂広を祝福する。
「ありがとうございます。じゃあ、ついてきてください」
「いよいよだね。ドキドキだよ」美智は、幸来紗の耳元で囁く。
坂広は四人を個室の病室に案内すると、赤ちゃんが坂広の妻に抱っこされている。
「紹介しますね。妻の華怜と娘の友杏です。元気な女の子です。華怜、右から日坂智成さん、岩崎美智さん、岸部幸来紗さん、野島周人さん。」
「初めまして」四人は順にあいさつする。
「初めまして。わざわざありがとうございます。その節は主人から聞いています」友杏をだいた華怜は会釈する。
「わぁ、ちっちゃい。ゆってぃだよ。かわゆい。会いたかったよ……」
すでに目には涙がにじんでいる美智の両肩を智成がつかんで言う。
「かわいいな」
「周人、すごいよ友杏さんだよ。かわいいね」
「そうだね。本当に不思議な感覚だ。無事に産まれてよかった」
美智からの吉報を受けた友杏は、夫の尚喜と子供を連れて、富山から静岡に車で向かっていた。運転する尚喜の横で助手席に座る友杏は無口だ。
「友杏、緊張する?」尚喜が心配して訊く。
「なんか、言葉では言い表せない不思議な感覚でね。だって世界中探したってさ、私みたいな立場の人間どこにもいないでしょ。ドキドキだよ」友杏が一点を見つめ口を開く。
「本当にその通りだね。俺みたいに、同一人物の二人の妻を同時に見れるなんて夫も世界中どこを探してもいないよな」
「赤ちゃんの私に対面したら、私、どういうリアクションとるんだろ。あと、若き日のママにも初対面だよ。……静岡県に入ったね。あと少し」いつになくセンシティブな友杏は深く深呼吸をする。
後部座席では、チャイルドシートに座った巧がジュースを飲んでいた。
「ゆってぃ、可愛いでちゅね~」美智は、友杏を抱っこしてあやす。
美智と幸来紗は、順番に友杏ベイビーを抱っこさせてもらっていた。
「美智も赤ちゃん欲しくなっちゃうんじゃない?」
「そうだね。母性本能がくすぶられちゃうよ」
幸来紗の問いに、美智は友杏を見つめながら答えると、美智のスマホがメールを受信する。
『みっちー。今、静岡インター降りたよー。あと、20分くらいで着くからね』
美智たちは、友杏が病院に来ることを、坂広と華怜には知らせていなかった。
美智は坂広たちに気付かれないように、メールを智成に見せると、智成は周人の耳元で囁いた。「いよいよだな」
20分後、
「ちょっと、暑いからさ、私、飲み物買ってくよ。みんな何飲みたい?」
美智はわざとらしく言い、5人のリクエストを聞いて病院の駐車場に行くと、杉浦一家が待っていた。
「ゆってぃ、来てくれてありがとう。尚喜さんも遠くからはるばるありがとうございます。巧くんも遠路はるばるありがとう」
「いやー、遠かった。久しぶりの静岡だよ。暑いけど、2065年の静岡の暑さに比べたらマシだわ」
友杏は扇子を仰ぎながら言う。
「今日は声をかけてくれてありがとうございます。本当に信じられない日ですよ。赤ちゃんの頃の友杏に会えるなんてね。夢でも見ているようですよ」
「きっとこれは夢だよ。やっば緊張するねぇ」
尚喜は興奮しているが、友杏はナーバスにも見受けられる。
「じゃあ、ゆってぃ、ついてきて」
美智は、自動販売機で人数分の飲み物を買うと、杉浦家族を病室に案内した。杉浦家族は病室の外で待たせ、美智だけ病室に入る。
「みんな、はい、これ」美智は5人に飲み物を渡す。
「ねぇ、坂広くんに華怜さん。今日はビッグサプライズがあるよ」
「えっ、何ですか?」坂広は顔をしかめる。
「何ですか?」華怜は目を見開き美智の顔を見る。
2031年、8月16日 横浜
智成と美智は、5月からマンションで同棲を始めていた。
智成のスマホが坂広からのメールを受信する。
『お久しぶりです。赤ちゃんが産まれました。元気な女のです! 名前は友杏と名付けました』
メールには、産まれたての友杏赤ちゃんの写真が添付されている。
「マジか! 美智―! 坂広くん。赤ちゃん産まれたって! 友杏ベイビーだよ!」
「嘘!」美智が速足で智成に駆け寄り、食い入るようにスマホを見る。
「よかったー! ゆってぃだよね! ちゃんと生まれたじゃん。あ~ん、かわゆいー!」
美智は写メを見ると興奮を隠しきれない。
「興奮しすぎだろ。とにかく良かった! こっちから友杏さんの名前を知らせてないのに、ちゃんと友杏って命名されてるじゃん」
「智、幸来紗と周人くん誘ってさ。みんなで会いに行こうよ!」
会うのを待ちきれないといった様子の美智が提案する。
「そうだな。会いに行こう」
「じゃあ、さっそくメール」
美智は幸来紗と周人、そして友杏にメールで吉報を伝えた。
8月24日 静岡
周人と幸来紗、美智と智成の四人は静岡に足を運んだ。
産婦人科病院を訪ねると、坂広が入口で出迎えた。坂広の伸ばしっぱなしだったロン毛はカットされ、さわやかなマッシュヘアーに変わっている。
「お久しぶりです。わざわざ静岡までありがとうございます」
「久しぶり、元気してた? 赤ちゃんおめでとう! なんか、ずいぶんイメージ変わったじゃん」
智成は言うと、坂広の肩をたたく。
「おめでとう。髪型似合うじゃん!」
美智が言うと、幸来紗と周人も笑顔で頷き、
「おめでとう」と、二人は坂広を祝福する。
「ありがとうございます。じゃあ、ついてきてください」
「いよいよだね。ドキドキだよ」美智は、幸来紗の耳元で囁く。
坂広は四人を個室の病室に案内すると、赤ちゃんが坂広の妻に抱っこされている。
「紹介しますね。妻の華怜と娘の友杏です。元気な女の子です。華怜、右から日坂智成さん、岩崎美智さん、岸部幸来紗さん、野島周人さん。」
「初めまして」四人は順にあいさつする。
「初めまして。わざわざありがとうございます。その節は主人から聞いています」友杏をだいた華怜は会釈する。
「わぁ、ちっちゃい。ゆってぃだよ。かわゆい。会いたかったよ……」
すでに目には涙がにじんでいる美智の両肩を智成がつかんで言う。
「かわいいな」
「周人、すごいよ友杏さんだよ。かわいいね」
「そうだね。本当に不思議な感覚だ。無事に産まれてよかった」
美智からの吉報を受けた友杏は、夫の尚喜と子供を連れて、富山から静岡に車で向かっていた。運転する尚喜の横で助手席に座る友杏は無口だ。
「友杏、緊張する?」尚喜が心配して訊く。
「なんか、言葉では言い表せない不思議な感覚でね。だって世界中探したってさ、私みたいな立場の人間どこにもいないでしょ。ドキドキだよ」友杏が一点を見つめ口を開く。
「本当にその通りだね。俺みたいに、同一人物の二人の妻を同時に見れるなんて夫も世界中どこを探してもいないよな」
「赤ちゃんの私に対面したら、私、どういうリアクションとるんだろ。あと、若き日のママにも初対面だよ。……静岡県に入ったね。あと少し」いつになくセンシティブな友杏は深く深呼吸をする。
後部座席では、チャイルドシートに座った巧がジュースを飲んでいた。
「ゆってぃ、可愛いでちゅね~」美智は、友杏を抱っこしてあやす。
美智と幸来紗は、順番に友杏ベイビーを抱っこさせてもらっていた。
「美智も赤ちゃん欲しくなっちゃうんじゃない?」
「そうだね。母性本能がくすぶられちゃうよ」
幸来紗の問いに、美智は友杏を見つめながら答えると、美智のスマホがメールを受信する。
『みっちー。今、静岡インター降りたよー。あと、20分くらいで着くからね』
美智たちは、友杏が病院に来ることを、坂広と華怜には知らせていなかった。
美智は坂広たちに気付かれないように、メールを智成に見せると、智成は周人の耳元で囁いた。「いよいよだな」
20分後、
「ちょっと、暑いからさ、私、飲み物買ってくよ。みんな何飲みたい?」
美智はわざとらしく言い、5人のリクエストを聞いて病院の駐車場に行くと、杉浦一家が待っていた。
「ゆってぃ、来てくれてありがとう。尚喜さんも遠くからはるばるありがとうございます。巧くんも遠路はるばるありがとう」
「いやー、遠かった。久しぶりの静岡だよ。暑いけど、2065年の静岡の暑さに比べたらマシだわ」
友杏は扇子を仰ぎながら言う。
「今日は声をかけてくれてありがとうございます。本当に信じられない日ですよ。赤ちゃんの頃の友杏に会えるなんてね。夢でも見ているようですよ」
「きっとこれは夢だよ。やっば緊張するねぇ」
尚喜は興奮しているが、友杏はナーバスにも見受けられる。
「じゃあ、ゆってぃ、ついてきて」
美智は、自動販売機で人数分の飲み物を買うと、杉浦家族を病室に案内した。杉浦家族は病室の外で待たせ、美智だけ病室に入る。
「みんな、はい、これ」美智は5人に飲み物を渡す。
「ねぇ、坂広くんに華怜さん。今日はビッグサプライズがあるよ」
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