ぼくらの国防大作戦

坂ノ内 佐吉

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第六章

Chapter.27 金谷教授の証明

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 金谷教授の証明

 2025年 1月7日
 月川は、金谷教授にアポをとり、東大の教授の部屋を訪ねた。
「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします」
 月川は手土産を金谷に渡す。
「明けましておめでとう。本年もよろしくお願いします。すまないね。気を遣っていただいて。いただきます。今日はどうしたんですか? 岸部総理からまた何か伝言でも?」
「実は、今日は私個人として教授と話がしたくて訪問させていただきました」
 月川は、真剣な表情で話す。
「はあ、何ですか?」
「総理が、教授にタイムマシンの発明が可能であるかの意見を求めた理由を説明させていただきたく存じます」
「まあ、私はそのことに関しては、何も聞かされてはなかったからね。理由は何なんですか?」
「教授はタイムマシンの発明は可能であると思っているのですよね?」
「ああ、まだ時間はかかりそうだが、松田くんの論文を拝見した限り、発明できそうだね」
「それなら、これから私が話すことも容易に信じられると思います。普通に聞いたら、とても信じられないようなことですので」
「まあ、いいから、話してください」教授は常に冷静に耳を貸す。
「今日は、ある資料を数点持ってきました」
 月川はビジネスバッグの中から、資料を取り出し、テーブルの上に並べる。
「まず、この本ですが、未来の歴史書で近代の日本史です。この本は2065年に出版されたものです」
「ちょっと待ってくれ。この本は未来からタイムスリップしてきたというのか?」
「はい、その通りです。タイムマシンに乗って運ばれてきたものです」
 金谷は呆れるような様子も見せずに、真剣な表情をしている。
「ふたつめが、未来の写真の数々です。それぞれの写真の右下に、未来の歴史書のぺージに該当する数字を書いておきました。そのページで起こった歴史の写真になります」
「なるほど」金谷は真剣に写真を見る。
「そして、このプリントですが、今年の10月26日から11月25日に起こった事件や出来事のリストになります。しかしこのリストをもらったのは、10月25日なのです。このリストにある事件や出来事が本当に起こるのか、1ヵ月間、毎日確認しましたが、すべて当たっていました。そして、このUSBですが、リストの内容と現実が合致しているか、その日の総理と私の会話を録音した音声が入っています。ダウンロードした日時がのこっているので、後から録音したものではないと証明できるでしょう。この歴史書とこの写真集は、未来人が2065年から持ってきたもので、その未来人とは松田坂広さんの娘なのです」
「確かに、とても信じられるような話ではないな」金谷の眉間にしわが入る。
「分かった。それで、なぜ君は私にそれを証明したいんだ?」
「それは、第3次世界大戦が来年勃発して、大量の犠牲者が出るのを防ぐために、教授に協力していただきたいからです。その歴史書には、2030年に東京に核ミサイルが落ちて、150万人以上の死者が出ると記されています。幸来紗お嬢様は、その大惨事を回避しようとしているのです」
 月川は真剣に金谷の目を見て話す。
「すごいスケールの話だな」
 常に冷静に淡々と話していた、金谷の表情に初めて驚きの様子が窺える。
「まるでSF映画だ…… 分かった、今日は特に予定がない。今からこの資料に目を通してみよう。今は10時20分か。夕方4時にまた来ることはできますか?」
「はい、今日はフリーですので」
「じゃあ、また来てください。その時、また話しましょう。……実に面白そうだな。こういった類の話は私も関心があってね」
 未来の歴史書をパラパラめくりながら、あっさりと信じてくれそうな金谷に、月川は手ごたえを感じる。
「理解してくださり、ありがとうございます」
「まだ、理解したわけではない。先に資料を確認しないとな」

 午後4時、月川は再度金谷の部屋を訪ねる。
「月川くん。拝見させてもらったよ。面白かった。とりあえず、信じることにしよう」
「ありがとうございます!」月川は、心の中でガッツポーズをとる。
「それで、君は私にどうしてほしい?」
 月川は、岸部総理の娘、幸来紗が総理に懇願した話を詳細に説明する。
「実に面白い話だな」金谷はニコニコしながらリアクションをとる。
「教授は先日、タイムマシンの発明までは、まだ不十分であると総理に説明をしていただきました。そのため、総理はこの件に関して協力する気持ちになっていません。そこで、教授には、松田さんの論文を読み直した結果、やっぱり可能であったと、総理に提言していただきたく存じます」月川は頭を下げる。
「それで、総理は日本がコンチャウからの攻撃を回避するための対策を講じるということか?」
「はい、おっしゃっる通りです」
「ハハハハハ、そんなことでいいなら、全然かまわないよ。お安い御用だ。君の話を信じるにせよ信じないにせよ、私の提言で、私が損することはひとつもないだろう。未来がどのように変わるのか、とくと拝見させてもらおう。協力しないと、私も核ミサイルで死ぬかもしれないしな」
 金谷は、まるで、ゲームを楽しむかのように話す。
「あっ、ありがとうございます」月川は普段にも増して、深々と頭を下げる。
「明日にでも、総理に連絡しよう。タイムマシンの発明が可能であるかどうかなんて、説明したところで天才クラスの科学者じゃないと理解することはできないよ。私が可能であると言えば総理も信じるだろう」

 4日後、岸部総理は幸来紗に電話をかけた。
「もしもし」
「父さんだ。あの件だが、金谷教授の意見も交えてな、よく考えたんだが…… 協力しよう。幸来紗の頼みだしな」
「ありがとう。お父さん」幸来紗の瞼には涙が潤む。
「核は持たないが、国防の強化には憲法改正も視野に入れて、徹底的に取り組んでいくことにするよ」
  
 後で、帰宅した周人に幸来紗は伝える。
「周人! やったよ! お父さんが協力してくれるって!」
「よっしゃー!」
 普段、そんなに気道哀楽を表に出すことが周人も、大声とともにガッツポーズをして、二人は抱き合った。
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