ぼくらの国防大作戦

坂ノ内 佐吉

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第六章

Chapter.26  意外な協力者

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 意外な協力者 

 12月28日 東京
「はい、着きましたよ。私はここで待ってますからね」
「ありがとうございました。」 
 月川の送迎で、坂広はひとりで、再度東大の金谷教授の部屋を訪ねた。
「松田くん、論文を細かく拝見させてもらったよ。まず、最初に言いたいのは、君は天才だな。よくここまでまとめたものだ。将来、十分偉大な発明家になるだろう」
 金谷の発言に、坂広の表情は晴れる。
「ありがとうございます。それで、どう思いましたか?」
「結論から言うと、発明にはまだ不十分だと思う。しかし、まあ、君の論理は理解できたよ。あと少しだけ詰めれば、タイムマシンの発明は可能だろう」
「現時点の理論では、まだ不可能であると? ……どのあたりが不十分なのでしょうか?」坂広の表情には疑問が現れる。
「話は長くなるぞ」
 金谷は、2時間かけて坂広に説明する。
「教授、分かりました。鋭いご指摘、ありがとうございます。今後、その問題の解決に取り組んでいきます」
 坂広は謙虚にお礼を言う。
「ちなみに、3日前に岸部総理に直接、私の意見は総理に伝えてあるからね。夢のある話ができて、有意義な時間だったよ。ありがとう。頑張ってください」
 金谷はにこやかに坂広を応援する。
「はい、ありがとうございました」

 坂広は東大を後にすると、月川の車に乗り込む。
「松田さん。お疲れさまでした。ちょっと、食事をおごるのでお話をしませんか?」月川が坂広を誘う。
「えっ、はい、わかりました」
 月川と坂広は東京大学からほど近い、高級な料亭に入る。
「こんなに高そうなお店、いいんですか?」坂広が腰を低くして言う。
「ぜんぜん気にしないで、たくさん食べてください」
 二人は食事を食べ終わると、月川は本題に入ろうとする。
「美味しかったでしょ?」月川は笑顔で喋る。
「はい。めちゃめちゃ美味しいです。僕は貧乏学生で、普段たいしたものを食べていないので、泣きそうなくらい美味しかったです! 本当に質が違いすぎますよ。ごちそうさまでした」坂広はにこやかに頭を下げる。
「実は、松田さんにお話ししたいことがありましてね。教授から聞いたかもしれませんが、教授の意見は、既に総理の方には伝わっています」
「はい、そのようですね。教授から聞きました。それで、総理の反応はどうでした?」
「ちょっと、あの様子じゃ無理だと思いますね」月川の顔は真剣になる。
 坂広は自分の頬肉が下がる感覚を覚えた。
「実は私はね、総理の側近の立場ということもあり、そちら側の事情も、未来に何が起きるのか、また、幸来紗お嬢様が行おうとしていることも、すべて知っています。そして、私はすべてを信じていて、幸来紗お嬢様の考えにもすべて同意しています」
「本当ですか? 信じてくれているんですね」坂広は予想外の発言に驚く。
「もともとは、2065年のあなた自身のアイデアなのじゃないですか?」
「そ、そうかもしれないですね。なんか不思議な感覚です」
「総理自身が、娘さんの幸来紗さんの意見を聞いてあげたいという気持ちは非常に強い。それは確かです。しかし、根本的な総理の思想として、国防力を強化するという考え方に対して反対しています。その気持ちを変えることは本当に困難なことなんです」
「そんなに、頭が固い方なんですか?」
「軍事力を増強するとか、そういった類の話になると、非常に頑固ですね。……でもね、松田さんがタイムマシンを完全に発明できると、金谷教授に証明できれば総理も動いてくれると思ったんです。しかし、それができなかった」
「すみません。力不足で…… でも、現時点での話です。僕がタイムマシンを発明するのは、2060年くらいだと思うんです。まだ、35年くらい先の話じゃないですか。それを考えれば、完璧じゃなくても十分なくらいに理論は出来上がってると思いますよ」坂広の口調に焦りが生じてくる。
「確かに、そのとおりですね。しかし、今、総理を動かすには不十分なんです。第3次世界大戦は、2026年の11月に勃発します。日本もすぐに巻き込まれます。それを防ぐためには、すぐにでも国防を強化した方がいい。タイムマシンの発明は可能だと、すぐに証明できそうですか?」
「いいえ、教授の指摘だと、正直、何年かかるか分かりません」坂広は自信なさげにつぶやく。
「総理をすぐに動かすのに、一番有効なのは金谷教授の絶対的な証明です。……私は、幸来紗お嬢様の考えに大賛成です。そこで、私に協力させていただきたい」
「えっ?」坂広は言葉を呑む。
「金谷教授から総理に、タイムマシンの発明は可能であると、再度言ってもらうんです。私が教授を説得します」   
 月川の表情はいつになく真剣で、言葉には重みがかかった。

 坂広は、周人と幸来紗に会う約束をしていたので、静岡には戻らずに、横浜の二人のマンションまで月川に送ってもらった。
「坂広くん、どうだった?」周人が訊く。幸来紗も坂広を見る。
「まあ、嬉しかったのは、すごく褒められました。天才で偉大な発明家になれるって。めっちゃ嬉しかったー」
「凄い。良かったね」幸来紗が褒める。
「……ただ、タイムマシンの発明を証明できるまでは到達しませんでした。……いい線までいってたみたいなんですけどね」   
 坂広はため息をつく。
「あとは、お父さんがどう判断するか? だね」幸来紗が静かに言う。
「そのことなんですけど、金谷教授は僕を呼ぶ前に、既に総理に話したみたいで、総理秘書官の月川さんの話だと、総理は動いてくれなそうだって言うんです」
「マジか……」周人が落胆する。 
「待ってください。でもね、希望はまだありそうです」
 坂広は、周人と幸来紗に、料亭での月川との会話のやりとりを詳細に話した。
「あの人、本当にスパイやりたいんだね。周人はどう思う?」
 幸来紗は、周人を見上げる。
「信用できるとは言えないけど…… 任せちゃっていいんじゃないかな。こっちにデメリットはないでしょ。もし、総理にたくらみがあって、月川さんに何かやらせるにせよ、愛する娘の幸来紗に害を与えるようなことは絶対ないだろうし、問題ないでしょ。坂広くんはどう思った?」
「僕は、単純に信じて、ありがたく思っちゃいましたけど」坂広は、何の疑いもないかのように話す。
「そうだよね。私も、あの人は信じて大丈夫だと思うよ」
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