ぼくらの国防大作戦

坂ノ内 佐吉

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第五章

Chapter.18 幸来紗の決意

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 幸来紗の決意

 翌朝、周人は前日になかなか寝つくことができず、9時になり目を覚ました。
 部屋には、幸来紗の姿はない。焦った周人は、すぐさま、部屋を飛び出し、ゲストハウス周辺を走って探した。1時間ほど探し回ると、建物が密集する通りで50メートルくらい先に、幸来紗とインド人男性が話しているのが見えた。すると、幸来紗とインド人は建物と建物の間の細い路地に姿を消した。
 周人は、全速力で駆け寄り路地に入ると、インド人男性二人が前後で、幸来紗の両脇と両膝を持ち上げ、路地の先の更に細い路地に入って行くのが見えた。
「Wait !(待て!)」
 周人は、大声で呼び止めると、二人は幸来紗を抱えたまま速足になる。更に細い路地に周人が入り追いつくと、インド人二人は観念した様子で、幸来紗を地面に下ろした。幸来紗は気を失っている。すると、インド人二人はファイティングポーズをとり、周人に殴りかかってきた。周人は物怖じせず構えをとる。
 一人が殴りかかってくるのを交わすと、周人は相手のみぞおちに横蹴りを入れる。その直後、もう一人が殴りかかってきて、左頬にパンチをくらった。すぐさま、そのインド人の顔面に振り打ちをくらわすと。殴られたインド人の両方の鼻の穴から、勢いよく鼻血が流れる。そのインド人は鼻をおさえ、みぞおちを蹴られ地面にうずくまっているもう一人のインド人を立たせると、しっぽを巻いて退散した。
 周人は緊張から解放され一息つくと、地面に横たわっている幸来紗を抱き寄せ、体を揺らす。
「幸来紗! 幸来紗! 大丈夫か?」
 周人の声で幸来紗はゆっくりと目を覚ます。
「幸来紗、大丈夫か?」
「周人!」幸来紗は、きつく周人を抱きしめる。
「何があったの!?」
「インド人二人組が、気を失ってる幸来紗を運んで行ったから、呼び止めたら、殴り合いになってさ。まぁ、なんとか撃退したよ」
「助けてくれたんだね。ありがとう。……周人、左頬に痣ができている。殴られたの?」
 幸来紗は周人の頬を撫でる。
「ああ、大丈夫だよ。一発くらっただけだから」
「二人相手に勝つなんてすごいよ」
「実は俺、空手習ってたんだよね。一応黒帯」
「そうだったんだ。私、格闘家好きなんだよ。バンコクでも私のリクエストでムエタイ観に行ったでしょ」
「懐かしいね、そういえば観に行ったね」二人の表情が笑顔に変わっていく。
「ところで幸来紗、何があったの?」
「夜中、寝てたら蚊がいたからさ、朝一で虫よけを買おうと思って出かけたの。マラリアとか怖いじゃん。そしたら、観光ガイドを名乗るインド人に話しかけられてさ、効率よく見どころをガイドしてくれるって言うから、話を聞こうとついていっちゃったんだよね。路地の奥に旅行代理店があるっていうからさ、一緒に路地に入って行ったら、急に薬品を染み込ませたハンカチを口に当てられてね、意識を失ったみたい」
「そうか、朝、目覚めたら幸来紗がいないから町を探してさ、インド人と路地に入って行く姿を見たんだよ。追いかけて路地に入ったら、インド人二人で幸来紗を運んでた」
「ごめんね。心配かけて。バカだね、私。インドって、そういう被害があるって知ってたのにインドに慣れちゃったせいか、警戒心がおろそかになってた。周人、本当にありがとう」幸来紗がそう言うと、二人はキスをした。

 薬局で軟膏と虫よけを買い、ベンチに座ると、幸来紗は周人の左頬に軟膏を塗る。
「ちょっと、痛いな」と周人は笑った。
「周人、ジャイプールの観光地を回るためのツアーに参加したいから、旅行代理店に行って申し込もうよ」
「そうだね。声をかけてくるガイドは信じちゃだめだよ」
 二人は、旅行代理店を訪ねると、翌日、10時間かけて見どころを回るツアーを申し込んだ。
 街歩きをしながら、幸来紗は未来を変える計画について口を開いた。
「周人、昨日の話さ、なるべくポジティブに考えるようにしているからさ。まだ、気持がまとまらなくて」
「分かった、返事を待ってるよ。決してスパイ行為として接近したわけじゃないから。純粋に幸来紗が好きで告白したんだよ。それは信じて」
 周人が言うと、幸来紗に少し笑みが戻る。
 
 夜、周人は先に眠りに落ち、幸来紗はスマホで、東南アジアを旅した時の写真を見ていた。何枚もの楽しそうな写真を眺めながら懐かしさに浸っていると、その中の一枚に、手紙を撮った写真が入っていた。バンコクの空港で周人が幸来紗と美智に渡した、ミサンガが入っていた袋に一緒に入っていた手紙だ。幸来紗は改めて読み直す。
『幸来紗ちゃんへ。この旅で、僕達二人に付き合ってくれて、ありがとう。とても楽しかったです。幸来紗ちゃんの戦争の悲惨な歴史、平和、平等への関心にとても感銘を受けました。いつか、その思いを生かして、もし、未来で戦争なんかが起こった時、幸来紗ちゃんの行動で犠牲者を減らせるようなことがあるといいね。じゃあ、またいつか機会があったら、会いましょう。元気でね。野島周人』
 幸来紗の右眼から、涙が頬を伝う。

 翌日は早朝から二人はツアーに参加し、ジャイプールの見どころを5ヵ所、ガイドは回ってくれた。
 アンベール城を自由行動で歩いていると、幸来紗は決心して口を開く。
「周人、あの件、私協力するよ。なんだかSF小説みたいで、現実的にはまだ気持ちが完全にまとまってないけど、本当にこのままだとあの歴史書通りの未来になっちゃうんだよね?」
「そのはずだよ」
「じゃあ、人類のため、あの未来を信じて協力する」
 幸来紗の言葉に強い意志が込められていることを周人は感じる。
「ありがとう。一緒に日本を救おう」二人は沈みゆく夕日に照らされ、見つめ合い抱き合った。
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