ぼくらの国防大作戦

坂ノ内 佐吉

文字の大きさ
上 下
4 / 44
第一章

Chapter.4 友杏の決意

しおりを挟む
 2024年 8月9日 博多
 深夜、博多ポートタワー近くの公園の茂みの中、250センチメートルほどの長さの楕円形で、ダークブルーの半透明な物体が、突如出現した。中にはひとりの女性が入っている。友杏だ。友杏はラージサイズのスーツケースを持っている。ダークブルーの半透明な物体は、音もたてずに消えていくと、友杏は、2024年の日本の地を踏みしめた。
父、松田坂広が発明したタイムマシンによって、タイムスリップしたのだ。
 ―本当にこのミッションを遂行することになるのね。
 真剣な趣の友杏は覚悟を決めていた。
 
 翌日、友杏は、前もって調べておいた美智の職場で、彼女が退勤するところを待ち伏せした。
 美智は、大型ショッピングモールでショップ店員として働いていた。午後8時半、美智は仕事を終えた。屋上の従業員専用の駐車場に向かい車の前に立ったとき、友杏が声をかけると美智は振り返る。
「すみません。岩崎美智さんで間違えないですか?」
「えっ? はい」
「私はこういうものです」
 友杏は、父の坂広が作った偽造の警察手帳を見せると、美智は目を見開く。
「岸部幸来紗さんのことで、お話をお伺いしたいのですか、時間をいただけますか?」
「幸来紗に何かあったんですか」
 美智は緊張した様子で訊く。
「とりあえず、落ち着ける場所に移動してから話しましょう。私の車に乗っていただけますか」
 友杏は、借りたレンタカーに美智を乗せ、近くのファミレスに向かった。

 ショッピングモール近くのファミレスで、二人は腰を下ろした。
「夕飯を済ませえてないようだったら、私が払いますので遠慮なく食べてください」
 友杏は言うが、美智は緊張して、食欲がなくなっていた。
「いいえ、大丈夫です。飲み物だけあれば」
 友杏はドリンクバーをふたつ注文する。お互い飲み物を入れ席に着くと、本題に入る。
「幸来紗さんなのですが、現在、行方不明になっていて、お父様の岸部総理から捜索願の依頼を受けています。お父様からの情報だと、美智さんは、幸来紗さんと小学生の時からの親友だと聞いています。美智さんなら、幸来紗さんのことについて何か知っているのではないかと思い、訪ねさせていただきました」
 友杏は深刻なおもむきで話す。
「本当ですか?」美智は少し驚いた様子で心配そうに続ける。
「幸来紗とは長い付き合いですが、3ヵ月ほど連絡は取っていなくて、今どこにいるかは知りません」
「なんでも、ストーカーに付けられていた気配があったとも聞いています。美智さんは、幸来紗さんの異性との交流関係は何かご存じないですか?」
「ストーカー? 本当に? それはあんまり信じられえません。幸来紗との付き合いは長いですけど、彼女、まったく異性に関心のない子なんですよ。いい歳して綺麗な顔してるのに、ファッションにも興味がなく、ぜんぜん垢抜けないんですよね。だから、彼女から異性の話なんて聞いたことないですよ」
「過去に男性との交際経験はありませんでしたか?」 
「そういえば、高校2年の時、一度だけ彼氏がいたことはありましたけど、半年も続かなかったと思います」
 友杏は思い出しながら、ゆっくりと話す。
「ストーカーがその時の彼氏ってことは考えられませんか?」
「それはありえないと思います。幸来紗って、今じゃ異性にぜんぜん関心がないけど、当時、付き合ってた彼をものすごく束縛しちゃってたみたいなんです。それと、本人いわく、本当に好きになっちゃうと、とことん尽くすタイプみたいで。彼のためなら何でもしてあげたくなっちゃうって、言っていました。付き合ってた彼からしたら、そういうのが重くて、彼女振られちゃったんです」
「その他に男性との交流関係を聞いたことは?」
 美智は少し間をおいて話し出す。
「……その後、彼女から異性の話題を聞くことはなかったのですが、一度だけ関心を示している人がいました……」
「その人のことをご存じでしたら教えていただけますか?」
「大学の卒業旅行で、私と幸来紗は東南アジアを旅したんです。その時、ベトナムで、同じく卒業旅行で来ていた大学生二人に私たちはナンパされました。その後、彼らと行動を共にして、幸来紗はその一人に気があったみたいです。まったく男の子に関心のない子だったからびっくりしたのを覚えています」
「彼の連絡先を知っていますか?」
 友杏は、打開案のヒントになりそうだと感じたが、興味を押し付けるように冷静に訊く。
「いいえ、知りません。でも、もう一人なら分かるかも…」
「教えていただけますか?」
「でも、彼らに迷惑がかかりませんか?」
 美智は心配そうに訊く。
「迷惑をかける気はありません。そんなことより、これは幸来紗さんの命に関わる問題かもしれないし、総理大臣の娘が行方不明なんてマスコミが嗅ぎつけたら面倒くさいから、早く見つけ出さなくてはなりません。二人のことを教えていただけませんか?」
 友杏は真剣な眼差しで美智を見つめる。
「分かりました。幸来紗は野島周人くんという人に気があったみたいです。もう一人が日坂智成くん。彼の連絡先なら聞きました」
 美智はスマホを取り出し、探し始める。
「あっ、ありました。これです」
「教えてください」
 美智は、友杏に智成の住所と電話番号が表示されたスマホを差し出すと、友杏はメモ帳に書き写す。
「ありがとうございます。もしかしたら何かの手掛かりになるかもしれません。
他に何でもいいので、彼女を見つけるために情報はありませんか?」
 少し間をおいて美智は答える。
「いえ、思い当たることは何もありません。ただ、とにかく幸来紗が心配です。......幸来紗のお父さんもとても心配しているんじゃないですか? あのお父さん異常なほど幸来紗のこと愛してるから」
「そうなのですか?」
「ええ、特にお母さんが亡くなってから、家族は幸来紗だけだから。幸来紗のためならなんでもするんじゃなかな......    
 幸来紗が行方不明なんて…...    お父さんのメンタルも心配です。幸来紗は一人娘で、すごく愛されて育てられたんです。総理大臣だから強い人だとは思うけど、幸来紗のこととなると居ても立ってもいられないと思います。刑事さん幸来紗を見つけ出してください」美智は切実に頼む。
「分かりました。ご協力ありがとうございました」
 友杏は頭を下げる。
 
 美智は、友杏にショッピングモールの屋上駐車場まで送ってもらい、別れたあと、何かを思い出したように急にスマホを取り出し、幸来紗に電話をかけてみる。5回着信音が聞こえたあと繋がった。
「もしもし」いつも通りの声のトーンで幸来紗の声が聞こえた。
 ―えっ!? 普通に電話繋がるじゃん! もしかしたダマされた? 偽物刑事? 
 美智は瞬時に友杏を疑った。
「もっ、もしもし! 幸来紗! あんた大丈夫なの!? どこにいるの?」
「えっ、大丈夫なのって何が? 別に何もないよ? 美智こそ大丈夫? なんだか焦ってる様子だけど。……そうそう、まだ美智に伝えてなかったけど、実は私ね、今、インドでボランティアしてるの」
 電話の後ろでは、絶え間ないクラクションの音が聞こえる。
「えっ、インド⁉ ……それって、幸来紗のお父さんは知ってるの? いつから?」
「もちろん、知ってるよ。 ちょうど、1ヵ月経つかな」
「もー、なんなの! 騙されたー! さっき、女性刑事が来てさ、幸来紗が行方不明で、お父さんが捜索願出してるって私んとこに来て、何か知ってることないかって訪ねてきたんだよー!」
 美智の声は焦っていたが、少しずつ安堵の口調に切り替わっていく。
「そうだ、それと、あんたストーカー被害にあったりしてた?」
「えっ? 今度は何? ストーカー? そんな被害にはあってないけど」
「はぁ~、それも嘘か…...    その女刑事が幸来紗がストーカー被害にあっているって言うんだよ。もー、なんなの本当に! じゃあ、大丈夫なんだね本当に?」
「大丈夫だよ」幸来紗は少し呆れたように返す。  
「じゃあ、あの刑事の狙いは何なのよ? 気味悪い」
「そーだね。気味悪いね… 何か名刺とかもらってないの?」幸来紗は、不気味に感じる。
「そういえば、もらってない。ダメだな、私…...」美智の声のトーンが下がる。
「その女刑事のこと、何か分かったら連絡して」
「分かった」
「それで、インドでどんなボランティアしてるの?」
「小学校で教育支援、半年間」 
 幸来紗は気持ちが切り替わったように、嬉しそうに話した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」 そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。 明日は来る 誰もが、そう思っていた。 ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。 風は時の流れに身を任せていた。 時は風の音の中に流れていた。 空は青く、どこまでも広かった。 それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで 世界が滅ぶのは、運命だった。 それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。 未来。 ——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。 けれども、その「時間」は来なかった。 秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。 明日へと流れる「空」を、越えて。 あの日から、決して止むことがない雨が降った。 隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。 その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。 明けることのない夜を、もたらしたのだ。 もう、空を飛ぶ鳥はいない。 翼を広げられる場所はない。 「未来」は、手の届かないところまで消え去った。 ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。 …けれども「今日」は、まだ残されていた。 それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。 1995年、——1月。 世界の運命が揺らいだ、あの場所で。

白雪姫症候群-スノーホワイト・シンドロームー

しらす丼
ファンタジー
20年ほど前。この世界に『白雪姫症候群-スノーホワイト・シンドロームー』という能力が出現した。 その能力は様々だったが、能力を宿すことができるのは、思春期の少年少女のみ。 そしてのちにその力は、当たり前のように世界に存在することとなる。 —―しかし当たり前になったその力は、世界の至る場所で事件や事故を引き起こしていった。 ある時には、大切な家族を傷つけ、またある時には、大事なものを失う…。 事件の度に、傷つく人間が数多く存在していたことが報告された。 そんな人々を救うために、能力者を管理する施設が誕生することとなった。 これは、この施設を中心に送る、一人の男性教師・三谷暁と能力に人生を狂わされた子供たちとの成長と絆を描いた青春物語である。

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

CREATED WORLD

猫手水晶
SF
 惑星アケラは、大気汚染や森林伐採により、いずれ人類が住み続けることができなくなってしまう事がわかった。  惑星アケラに住む人類は絶滅を免れる為に、安全に生活を送れる場所を探す事が必要となった。  宇宙に人間が住める惑星を探そうという提案もあったが、惑星アケラの周りに人が住めるような環境の星はなく、見つける前に人類が絶滅してしまうだろうという理由で、現実性に欠けるものだった。  「人間が住めるような場所を自分で作ろう」という提案もあったが、資材や重力の方向の問題により、それも現実性に欠ける。  そこで科学者は「自分達で世界を構築するのなら、世界をそのまま宇宙に作るのではなく、自分達で『宇宙』にあたる空間を新たに作り出し、その空間で人間が生活できるようにすれば良いのではないか。」と。

「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)

あおっち
SF
 港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。  遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。  その第1次上陸先が苫小牧市だった。  これは、現実なのだ!  その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。  それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。  同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。  台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。  新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。  目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。  昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。  そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。  SF大河小説の前章譚、第4部作。  是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

ヒトの世界にて

ぽぽたむ
SF
「Astronaut Peace Hope Seek……それが貴方(お主)の名前なのよ?(なんじゃろ?)」 西暦2132年、人々は道徳のタガが外れた戦争をしていた。 その時代の技術を全て集めたロボットが作られたがそのロボットは戦争に出ること無く封印された。 そのロボットが目覚めると世界は中世時代の様なファンタジーの世界になっており…… SFとファンタジー、その他諸々をごった煮にした冒険物語になります。 ありきたりだけどあまりに混ぜすぎた世界観でのお話です。 どうぞお楽しみ下さい。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...