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百花繚乱
「鬼灯」十一
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鬼灯兄弟は僕たちを船と車で家まで送ってくれるそうなので、僕たちはありがたく送ってもらうことにした。
あれだけの熾烈な戦いを繰り広げたにも関わらず、意外にも和やかな雰囲気で帰ることができた。
帰りの道中で、鬼灯兄弟は僕たちに色々な事を語ってくれた。
彼ら鬼灯家は、元々鬼と人間のハーフの一族で、近年は以前の悪名を払拭すべく無償で怪異の解決を請け負っているそうだ。
また、今回の「鬼退治」を提案したのは、鬼灯六郎だそうだ。
彼は、以前から僕のことを少し気に留めていたようで、僕が椿と共に市場にいる時に椿に不信感を抱き、今回の「鬼退治」を行うことを決めたようだ。
ちなみに、「鬼退治」を行うにあたって椿について色々と調べたのも鬼灯六郎らしい。
「僕の勝手で、君たちに多大なる迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ない…。謝って済むことではないけど、謝罪させてほしい」
鬼灯六郎はそう言うと頭を下げ、床に頭を勢いよく擦り付けた。
「いいよいいよ、大丈夫だから。頭を上げてよ」
「すまない、俺からも謝罪させてくれ…」
そういって深々と頭を下げたのは、鬼灯四郎だった。どうやら随分と頭が冷えたようで、神妙な顔つきで謝罪してくれた。
「さっき君たちが提示した条件は勿論の事、他にも条件があれば何なりと受け入れる。いつでも声をかけてくれ」
「そんな…、ありがとうございます」
椿は、鬼灯兄弟に二つの条件を突き出した。
一つは、鬼灯兄弟は今後一切僕達に攻撃しないこと。
もう一つは、鬼灯家が所有する「霊装」の金棒を椿に渡すこと。
本当はもっとキツい条件もあったんだけど、僕は「そこまでしなくても」と思ったので、この条件にしてもらった。
無事に島から那智姫港まで着いた後に、僕と椿を鬼灯一郎がレンタカーで家まで送り、他の兄弟達は彼らの車で帰ることになったので、それぞれ別行動をすることになった。
「また、何かあればいつでも連絡してきてね。あと、…その、……えっと、うん、鬼退治を計画した僕が言えることじゃないんだけど…、今後とも、よろしく」
彼が差し出した手を取り、僕らは固い握手を交わした。
「こちらこそよろしく。ありがとう」
僕は、鬼灯一郎が運転する車の後部座席で横になって、
「…これでよかったのかい?もっと重い制裁を受けることも俺は覚悟していたんだが…」
「大丈夫ですよ。…それより、怪我は大丈夫ですか?結構、強く当たってたような気がしましたけど…」
「いや、これぐらいの傷ならまだ車は運転できるよ。それより、君の風邪の方が俺は心配だね。…今日はすまなかったね。本当に病院行かなくて大丈夫?」
「…ありがとうございます、多分大丈夫だと思います」
「…そっか、わかった」
鬼灯一郎の言う通り、家を出るまでは軽い微熱程度だった風邪が、今は悪化して鼻水と咳がかなり出ているし、熱もある。
「…すまなかったな」
しばらく車の中で横になっていると、今までずっと沈黙を貫いていた椿が、口を開いた。
「…何が?」
「…俺が君を、戦いに巻き込んでしまった。自分から用心棒を買って出てこのザマだ。申し訳ない」
「…別にいいよ、心強い味方もできたことだし」
「…そうだな、特にあの鬼灯三郎なんかはかなりの強者だしな」
「コラコラ、あんまりあいつのことをその名前で呼ぶなよ、今はあいつは月島美香って名乗ってんだからな。…あいつはウチの家族の中でも一番強いし怖えからな。名前呼ぶ時は『ミカ』って呼んどいた方がいいぜ」
椿の刃を受け止めた人物が、実は鬼灯三郎という男性だったと知った時は驚いた。「彼女」は「月島美香」という名前を名乗っていて、普段は滅多なことでは鬼灯家と関わりを持とうとしないらしいのだが、今回は他の兄弟が「暴走」しないように監視役を買って出たのだという。
「まあ、結局あまり意味なかったけどね。ごめんね」と、帰り際に彼女は少し目線を落としながら語っていた。
「まあ何にせよ戦いは終わった。ゆっくり休むといい」
助手席に座っている椿がこちらを振り向いて声をかけた。
「…ありがとう。…そういえば、取り憑いた時に血から剣を作ったのって、あれって名前を知らないとできないとか、そんな感じなの?」
「まあ、そんなとこだな、あれは俺特有の技術らしいが。そもそも、俺のような存在の中には、名前を知れば相手の事を支配できる者も少なくない。…無闇に名前を他者に教えるなよ、最も君には言う必要のないことだろうけど」
椿のその言葉で、僕は島での醜態を思い出し、意図せずに「ごめん」と口に出していた。
「……何が?」
「…名前、教えてなくて」
「…得体の知れない奴に名前を教えるのを渋るのは当然だろう。そこまで気を病まなくとも」
「違う」
僕は、彼の言葉に割って入り、こう続けた。
「君が本当に邪な思いを持ってるのなら、とっくの昔に僕の体に憑いて乗っ取ってるはずだ。…僕はあの時、君を信頼していたし、今でもその信頼は揺るがない。…君を信頼した上で、僕は、君に拗ねたんだよ、あんな命のやり取りをしかねない場で。…本当にごめん」
「…気にするな、桜。あれは、素性を隠そうとしていた俺にも非がある」
そう言うと、彼は後ろを振り返るのやめて前を向き、助手席にもたれて少し息を吐いた。
「…それに、悪い事ばかりじゃないさ」
「…え?」
「…いや、何でもない」
「え、何、何が悪い事ばかりじゃないって、」
その先の言葉が出る前に、猛烈な咳が溢れ出た。
「…今は休みな」
「…ゴホッ、…そう、するっ、ゴホッ」
その後のことは、体調がかなり悪かったのであまりよく覚えてないのだが、無事に家に帰ることができ、それから一日ほど寝込んだ。
寝込んだ日の翌日が祝日だったこともあり、結局二日間学校に行かなかった。
その二日の間に学校であんなことが起こっているなんて、この時の僕は露知らなかった。
あれだけの熾烈な戦いを繰り広げたにも関わらず、意外にも和やかな雰囲気で帰ることができた。
帰りの道中で、鬼灯兄弟は僕たちに色々な事を語ってくれた。
彼ら鬼灯家は、元々鬼と人間のハーフの一族で、近年は以前の悪名を払拭すべく無償で怪異の解決を請け負っているそうだ。
また、今回の「鬼退治」を提案したのは、鬼灯六郎だそうだ。
彼は、以前から僕のことを少し気に留めていたようで、僕が椿と共に市場にいる時に椿に不信感を抱き、今回の「鬼退治」を行うことを決めたようだ。
ちなみに、「鬼退治」を行うにあたって椿について色々と調べたのも鬼灯六郎らしい。
「僕の勝手で、君たちに多大なる迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ない…。謝って済むことではないけど、謝罪させてほしい」
鬼灯六郎はそう言うと頭を下げ、床に頭を勢いよく擦り付けた。
「いいよいいよ、大丈夫だから。頭を上げてよ」
「すまない、俺からも謝罪させてくれ…」
そういって深々と頭を下げたのは、鬼灯四郎だった。どうやら随分と頭が冷えたようで、神妙な顔つきで謝罪してくれた。
「さっき君たちが提示した条件は勿論の事、他にも条件があれば何なりと受け入れる。いつでも声をかけてくれ」
「そんな…、ありがとうございます」
椿は、鬼灯兄弟に二つの条件を突き出した。
一つは、鬼灯兄弟は今後一切僕達に攻撃しないこと。
もう一つは、鬼灯家が所有する「霊装」の金棒を椿に渡すこと。
本当はもっとキツい条件もあったんだけど、僕は「そこまでしなくても」と思ったので、この条件にしてもらった。
無事に島から那智姫港まで着いた後に、僕と椿を鬼灯一郎がレンタカーで家まで送り、他の兄弟達は彼らの車で帰ることになったので、それぞれ別行動をすることになった。
「また、何かあればいつでも連絡してきてね。あと、…その、……えっと、うん、鬼退治を計画した僕が言えることじゃないんだけど…、今後とも、よろしく」
彼が差し出した手を取り、僕らは固い握手を交わした。
「こちらこそよろしく。ありがとう」
僕は、鬼灯一郎が運転する車の後部座席で横になって、
「…これでよかったのかい?もっと重い制裁を受けることも俺は覚悟していたんだが…」
「大丈夫ですよ。…それより、怪我は大丈夫ですか?結構、強く当たってたような気がしましたけど…」
「いや、これぐらいの傷ならまだ車は運転できるよ。それより、君の風邪の方が俺は心配だね。…今日はすまなかったね。本当に病院行かなくて大丈夫?」
「…ありがとうございます、多分大丈夫だと思います」
「…そっか、わかった」
鬼灯一郎の言う通り、家を出るまでは軽い微熱程度だった風邪が、今は悪化して鼻水と咳がかなり出ているし、熱もある。
「…すまなかったな」
しばらく車の中で横になっていると、今までずっと沈黙を貫いていた椿が、口を開いた。
「…何が?」
「…俺が君を、戦いに巻き込んでしまった。自分から用心棒を買って出てこのザマだ。申し訳ない」
「…別にいいよ、心強い味方もできたことだし」
「…そうだな、特にあの鬼灯三郎なんかはかなりの強者だしな」
「コラコラ、あんまりあいつのことをその名前で呼ぶなよ、今はあいつは月島美香って名乗ってんだからな。…あいつはウチの家族の中でも一番強いし怖えからな。名前呼ぶ時は『ミカ』って呼んどいた方がいいぜ」
椿の刃を受け止めた人物が、実は鬼灯三郎という男性だったと知った時は驚いた。「彼女」は「月島美香」という名前を名乗っていて、普段は滅多なことでは鬼灯家と関わりを持とうとしないらしいのだが、今回は他の兄弟が「暴走」しないように監視役を買って出たのだという。
「まあ、結局あまり意味なかったけどね。ごめんね」と、帰り際に彼女は少し目線を落としながら語っていた。
「まあ何にせよ戦いは終わった。ゆっくり休むといい」
助手席に座っている椿がこちらを振り向いて声をかけた。
「…ありがとう。…そういえば、取り憑いた時に血から剣を作ったのって、あれって名前を知らないとできないとか、そんな感じなの?」
「まあ、そんなとこだな、あれは俺特有の技術らしいが。そもそも、俺のような存在の中には、名前を知れば相手の事を支配できる者も少なくない。…無闇に名前を他者に教えるなよ、最も君には言う必要のないことだろうけど」
椿のその言葉で、僕は島での醜態を思い出し、意図せずに「ごめん」と口に出していた。
「……何が?」
「…名前、教えてなくて」
「…得体の知れない奴に名前を教えるのを渋るのは当然だろう。そこまで気を病まなくとも」
「違う」
僕は、彼の言葉に割って入り、こう続けた。
「君が本当に邪な思いを持ってるのなら、とっくの昔に僕の体に憑いて乗っ取ってるはずだ。…僕はあの時、君を信頼していたし、今でもその信頼は揺るがない。…君を信頼した上で、僕は、君に拗ねたんだよ、あんな命のやり取りをしかねない場で。…本当にごめん」
「…気にするな、桜。あれは、素性を隠そうとしていた俺にも非がある」
そう言うと、彼は後ろを振り返るのやめて前を向き、助手席にもたれて少し息を吐いた。
「…それに、悪い事ばかりじゃないさ」
「…え?」
「…いや、何でもない」
「え、何、何が悪い事ばかりじゃないって、」
その先の言葉が出る前に、猛烈な咳が溢れ出た。
「…今は休みな」
「…ゴホッ、…そう、するっ、ゴホッ」
その後のことは、体調がかなり悪かったのであまりよく覚えてないのだが、無事に家に帰ることができ、それから一日ほど寝込んだ。
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