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百花繚乱
「鬼灯」五
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鬼灯六郎は、鬼退治の当日、那智姫(なちひめ)港という港の小型船乗り場に来るように僕らに伝えた。
那智姫港から、小型のチャーター船に乗って、鬼達が拠点としている無人島まで行くのだという。
少し調べたら、那智姫港の近くには那智姫駅という名前の鉄道の駅があり、そこまで鉄道を利用して行くことにした。
だが、彼と一緒に電車に乗るということは、想像以上に難儀だった。
自転車に乗った時に既に分かっていたことだが、彼は、乗り物に乗る際に、僕の体の一部に常に触れていないと乗れないようであった。また、少しでも彼の手が僕から離れると、その場に「置いていかれる」らしい。自分はその場にいるままで、周りだけ動いていってしまうようだ。
僕は、彼の手が離れないように注意を配っていた。
立ったまま車両の壁にもたれかかっている様子が気にかかったのか、見知らぬ年配の女性が「席、空いてますよ」と声を掛けてくれた。
僕は、「大丈夫です」と答えて、ポケットの中からのど飴を取り出し口に含んだ。
だけど、普段飴を滅多に舐めることがないせいで、条件反射で飴を飲み込んでしまい、軽くむせた。
「…大丈夫か」
「いいって、大丈夫」
僕は車窓から、停車中の駅の風景を見つめた。
微かに聞こえる蝉の鳴き声に、僕は耳をすませた。
結局、電車の接続待ちだかで、15分ほど予定の時間に遅れてしまった。
那智姫駅に着くと、改札口で鬼灯六郎が待っていた。
「おはよう、お二人さん。来てくれてくれてありがとう、船着き場はあっちだよ」
鬼灯六郎に着いていくとそこには、小型船が停まっていて、その中に案内された。
船室の中は、四人程の人が集まって、音楽を聞いたり本を読んだりと皆思い思いのことをしていた。小型船ではあるものの、あまり狭さは感じなかった。
「ここの全員、生きてる人間みたいだな…、それも『見える』奴らだ」
彼がそう呟くと、本を読んでいた人物が彼の方に穏やかな目を向け、微笑した。
僕は、船室に揃っている人達の顔ぶりを、仰ぎ見た。
大半は、男性ばかりで、女性は一人だけのようだ。
「皆さん、全員お揃いのようですので、そろそろ出航致します。また、これより鬼退治の説明をさせていただきます」
船室の扉を開いて、鬼灯六郎が顔を出した。
「皆さんには、これから御人ヶ島(おにがしま)という無人島に渡ってもらい、そこを拠点としている鬼を討伐していただきます。この鬼なのですが、彼らは御人ヶ島の周辺を通過する漁業者の船を転覆させたり、島周辺の海域の魚を根こそぎさらっていくなどの悪行をおかしています。彼らの横暴は見るに堪えません。…しかし、彼らは悪行こそ見るに堪えないものの、討伐することは条件が整えばさほど難しくないと思われます。…ですが、」
鬼灯六郎は、船室内に揃っている人々を見つめ、口を開いた。
「彼らの討伐は、僕らのような、霊的存在が見える人間でなければ不可能なのです。そのため僕は、この那智姫市から要請を受けて、皆さんを招集しました。また、鬼の討伐において、今回頼もしい助っ人として鬼と戦ってくださる人物を紹介します。県北の石田市の石田神社にお勤めされている神主の佐藤さんです」
「どうも、佐藤です、よろしくお願いします」
佐藤と呼ばれた、紺色の作務衣を纏ったスキンヘッドの人物が立ち上がってお辞儀すると、船内の人々が拍手をした。
「もちろん皆さんにも、重要な戦力として鬼と戦ってくださることを期待しています。…どうか皆さん、存分に腕をふるって、彼らを討伐してください。質問などはございませんでしょうか」
誰からも質問が挙がることはなく、皆十分に納得したような様子だった。
「では、まもなく出発致します。もう少々お待ちください」
那智姫港から、小型のチャーター船に乗って、鬼達が拠点としている無人島まで行くのだという。
少し調べたら、那智姫港の近くには那智姫駅という名前の鉄道の駅があり、そこまで鉄道を利用して行くことにした。
だが、彼と一緒に電車に乗るということは、想像以上に難儀だった。
自転車に乗った時に既に分かっていたことだが、彼は、乗り物に乗る際に、僕の体の一部に常に触れていないと乗れないようであった。また、少しでも彼の手が僕から離れると、その場に「置いていかれる」らしい。自分はその場にいるままで、周りだけ動いていってしまうようだ。
僕は、彼の手が離れないように注意を配っていた。
立ったまま車両の壁にもたれかかっている様子が気にかかったのか、見知らぬ年配の女性が「席、空いてますよ」と声を掛けてくれた。
僕は、「大丈夫です」と答えて、ポケットの中からのど飴を取り出し口に含んだ。
だけど、普段飴を滅多に舐めることがないせいで、条件反射で飴を飲み込んでしまい、軽くむせた。
「…大丈夫か」
「いいって、大丈夫」
僕は車窓から、停車中の駅の風景を見つめた。
微かに聞こえる蝉の鳴き声に、僕は耳をすませた。
結局、電車の接続待ちだかで、15分ほど予定の時間に遅れてしまった。
那智姫駅に着くと、改札口で鬼灯六郎が待っていた。
「おはよう、お二人さん。来てくれてくれてありがとう、船着き場はあっちだよ」
鬼灯六郎に着いていくとそこには、小型船が停まっていて、その中に案内された。
船室の中は、四人程の人が集まって、音楽を聞いたり本を読んだりと皆思い思いのことをしていた。小型船ではあるものの、あまり狭さは感じなかった。
「ここの全員、生きてる人間みたいだな…、それも『見える』奴らだ」
彼がそう呟くと、本を読んでいた人物が彼の方に穏やかな目を向け、微笑した。
僕は、船室に揃っている人達の顔ぶりを、仰ぎ見た。
大半は、男性ばかりで、女性は一人だけのようだ。
「皆さん、全員お揃いのようですので、そろそろ出航致します。また、これより鬼退治の説明をさせていただきます」
船室の扉を開いて、鬼灯六郎が顔を出した。
「皆さんには、これから御人ヶ島(おにがしま)という無人島に渡ってもらい、そこを拠点としている鬼を討伐していただきます。この鬼なのですが、彼らは御人ヶ島の周辺を通過する漁業者の船を転覆させたり、島周辺の海域の魚を根こそぎさらっていくなどの悪行をおかしています。彼らの横暴は見るに堪えません。…しかし、彼らは悪行こそ見るに堪えないものの、討伐することは条件が整えばさほど難しくないと思われます。…ですが、」
鬼灯六郎は、船室内に揃っている人々を見つめ、口を開いた。
「彼らの討伐は、僕らのような、霊的存在が見える人間でなければ不可能なのです。そのため僕は、この那智姫市から要請を受けて、皆さんを招集しました。また、鬼の討伐において、今回頼もしい助っ人として鬼と戦ってくださる人物を紹介します。県北の石田市の石田神社にお勤めされている神主の佐藤さんです」
「どうも、佐藤です、よろしくお願いします」
佐藤と呼ばれた、紺色の作務衣を纏ったスキンヘッドの人物が立ち上がってお辞儀すると、船内の人々が拍手をした。
「もちろん皆さんにも、重要な戦力として鬼と戦ってくださることを期待しています。…どうか皆さん、存分に腕をふるって、彼らを討伐してください。質問などはございませんでしょうか」
誰からも質問が挙がることはなく、皆十分に納得したような様子だった。
「では、まもなく出発致します。もう少々お待ちください」
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