桜と椿

星野恵

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百花繚乱

「鬼灯」一

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僕は、知り合いを滅多に自分の家に呼ぶことがない。
別に友達がいないわけではないけど、そもそも自分のテリトリーに人をそこまで入れたくない。
うっかり霊的な何かが見えて、変なリアクションをとって、人に見られたら嫌だからだ。

だから、ついさっき知り合ったばかりの者が、部屋の中をうろちょろしている今みたいなシチュエーションでは、見てる僕までつられてそわそわしそうになる。

部屋をうろちょろしている客人は、僕の部屋の物に興味津々で、これはどういう本だとか、これは何に使うものなのかといったことを事細かに質問してくる。
「なあ、これは何の写真なんだ?」
「これはね、『なまはげ』といってな、この写真みたいな格好した人が『わるいこはいねがー』って言って家に押し入る行事だよ…、もういいか、質問に答えなくても。面倒くさくなってきた」
「…じゃあ、最後に一つ聞いていいか」
「いいよ」
「…君は、なんであんな奴らによく狙われるんだ?」
「…僕の体は、霊が乗り移ってコントロールするには一番適しているらしい」
「…らしい、と言っている所を見るに、それは誰かから聞いたのか?」
「うん、そうなんだ、薬売りが…」

そうだ。
肝心なことを思い出した。

「なぁ、ちょっと、今から行くところがあるんだが一緒に来るかい?」
「どうしたんだ藪から棒に。…まあ、俺は君の用心棒をやってやるんだからどこでもついていってやるけど」
「ありがたい。じゃあ行こう」
「ちょっと待て、いったいどこへ行く気なんだ」
「…さっき言った、薬売りの所だよ」


僕は、家の裏から、自転車を取り出した。庭と呼べるものがないほど、面積の狭い僕の家では、いつも自転車を家の裏に立てかけている。
「なんだいそれは」
彼は、自転車を指さしてそう言った。
「自転車っていう、乗り物だよ。…ちょっと考えたんだけど、君はこれに乗れるのかな?」
「乗り物なら、君の体に触れてたら乗れると思う」
「そうなのか…」
彼は、僕がサドルに腰を掛けるのを見ると、僕の肩に手をかけて後ろに飛び乗った。問題なく乗れているようだ。
「…なんだろう、君たちについては、僕が知らないことが未だにいっぱいあるんだな」
僕は自転車を漕ぎながら、後ろにいる侍に話しかけた。
「…俺があんたらについて知らないこともいっぱいあるぜ」
「…そんなに知らないこといっぱいあるかい?」
「あるよ。例えば、ついさっきまで俺が縛られてた鎖を、なんで君が今持っているのかとかな」
「…いい事を聞いてくれたね。今からそのわけを話すよ。と、思ったけど」
僕は自転車を止めて、夕陽を浴びて赤く染まった山を見つめた。
「説明する手間が省けた。目的地に着いたよ」
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