【完結】まつりくんはオメガの自覚が無い

りちょ

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24話 最後

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「あれ……ひかる来てたんだ」

「びっっっくりした………………ごめん、荷物取りに来てた、もう帰るから」

「そう。ちょっと上がってきなよ、もう遅いし」

「もう上がってるし僕の家すぐ隣だから帰る…………うわ酒くさ、は?どんだけ飲んだの」

「別に~」


橙色のライトに照らされた茉理は、赤い顔をしていた。酷い酒の臭いに珍しく酔っているんだとわかった。僕ほどじゃ無いけど茉理はかなり酒には強い方だったはずだ。酔い潰れる手前まで飲むなんて、どうしたんだろうと思った。


「今日友達の家泊まるんじゃなかったのかよ」

「帰りたくなったから帰ってきた。つかひかるんち行こうと思ってたんだよ、たまたまお前いたからラッキーて感じ」

「フラフラじゃん、よく1人で帰ってきたなお前…」

「そんなことないよぉ。あはは、心配?」


ゆるい口調で言いながら茉理が振り返いて、そのまま僕の首に腕を回して抱きついてきた。
キッチンが詰め込まれた狭い間取りの中で、壁側に追い詰められる。こつん、と額同士がくっついた。
勝手だと思った。気分屋なところは友人としては好きだが、こういう時は腹が立って言葉が自然とキツくなった。まあこんなに酔ってるし、ちょっとくらい良いだろうとも思って、八つ当たりみたいに冷たく接する。


「酒くさい」

「ごめんって。ねーチューしたい」

「やだよ、風呂行ってこいバカ」

「一緒に入ろ」

「狭いからやだ」

「この前は一緒にいったのに」

「…………あれは本当にシャワー浴びるだけだったじゃん」


僕の言葉なんて気にするそぶりも見せずに茉理は甘えてくる。多分本当に何も気にしていないんだろうからタチが悪い。じっと見つめられると落ち着かなくて視線を落として目を逸らすと、首元が目に入った。
僕が散々に噛み付いた日から、茉理はずっと噛み跡を隠すために襟が立った服を着ている。今日もシャツのボタンを1番上まで留めていた。

苦しそうに見えたので二つ目までボタンを外してやる。
茉理はされるがままだったから、まだほんの少し残る痕を指先でそっとなぞった。これだけで小さく茉理が息を呑んだのが分かった。


「………一緒に入ろうよひかる」

「粘るね今日は」

「シャンプーやって」

「自分でやれ」

「ひかるのも洗ってあげる」

「なんで?じゃあ自分のこと自分でやれよ」

「いちゃいちゃしたいの。分かれよばーか」


それでも僕は茉理が好きだった。だからこんな事を言われてしまうと、どうしてもやっぱり断れない。


-----


髪を乾かし終わっても、茉理はまだフワフワしていた。疲れていたのかひどい飲み方をしたのか、ずっとだらけた顔をしている。


「珍しいね、茉理がそこまで酔うの」

「酔ってないよぉ」

「顔赤しあんまり呂律回ってない」

「えー」


適当につけたテレビにはバラエティ番組が映っている。芸人の騒がしい声と笑い声が静かな部屋に響いていた。
今日はやたらと茉理が距離を詰めてくる。今も僕の隣にぴったりくっついて、肩に頭をもたれて時々テレビに釣られて笑っていた。


「茉理重い」

「おもくないし。失礼だな」

「いや流石に重いって、もうちょっと自立して」

「やだ」

「じゃあもうちょっとそっち行って、僕もうクッションから落ちてるんだって」

「やだ。うるさいなーもう、うりゃ」


そう言って茉理が僕に抱きつく。そのまま強く片方の肩を押されて、呆気なく押し倒された。
ゴツ、と僕が床に頭を打った鈍い音が響く。狭い場所で無理にこんな事をするから、身動きが取れないしところどころ身体をぶつけていて痛んだ。

急な行動に驚きと苛立ちが湧いた。
普段だったら嬉しかったかもしれないが、今日は何をされても茉理の身勝手さが気に障ってしまって、言葉に棘が立つ。シャワーを浴びれば酔いも覚めてまともに話せるようになるだろうとも思っていたから、まだふわふわしているところも気に入らない。
一応これが恋人としては最後かもしれないのに、僕はどうしても優しくも甘くもできなかった。


「いった………………なんなんだよ馬鹿」


冷たくそう言った。机にぶつけた肘がずきずきと痛む。ちょうど照明の真下にいるせいで、うまく茉理の表情は見えなかった。


「……だってお前が」

「はあ?僕がなに」

「お前が別れるとかいうから」

「…………なにが」

「恋人。……なんでやめるとか言うんだよ」


茉理の声のトーンが、少し下がったのが分かった。影を作っているせいなのか、なんだか表情も暗く見える。

騒がしかったはずのバラエティの声が遠ざかった。
茉理がゆっくり手を伸ばして、僕の唇に指先で触る。下唇をふにふにと軽く押して、それから下に引いて口を開かされた。
なんとなく、こうやって女の子のことも抱いてきたんだろうなと思った。真剣な表情からは、いつもの柔らかい雰囲気やかわいげのある印象が消えている。


「……茉理だろ、全部保留にしてんのは」

「今答えるよ」

「は?やだ、聞かない」

「……………なんで?」

「お前今酔ってるじゃん。酒の勢いで言ってくんな馬鹿、今は聞かない」 

「酔ってないって。お前が思うより飲んでないよ」

「騙されないから。何年一緒にいると思って………………ッ、!!」


僕の言葉を遮るように茉理がキスをした。口も空いたままだったから、ぬるりと簡単に舌が侵入してくる。
絶対に応えてやらないと思った。舌を奥にしまって顔を背けようとする。一瞬唇が離れたが、すぐに茉理が頬を両手で押さえ込んでまたキスをしてきた。
遠慮無しに口内を掻き回される。ほぼほぼ力の差が無い僕たちだから、馬乗りの状態で押さえ込まれてしまうと流石に抵抗できなかった。

こんな時でも、茉理は強引な事はしないみたいだった。しつこいから軽く絡めてそれからすぐに噛みついて、一瞬茉理が怯んだのを見計らって肩を突き飛ばす。案外簡単に退かすことに成功した。


「………っは、急になんなんだよ!」


僕が声を荒げても、茉理は動揺はしなかった。舌が痛むのか口元を抑えたまま、じとっと僕を見つめる。



「……急じゃない。今日、ひかるに言いに行くつもりだった。うちにいなければお前んち行ってた」

「…………はぁ、」

「俺もすきだよ」

「…………………………………………」

「すき。ひかるのこと。大好き」



まっすぐ僕の目を見たまま、馬鹿正直に茉理がそう言った。

あんまりにもストレートな言い方をされたせいで、勢いを削がれてしまった。アルコールに逃げているやつの話なんて耳に入れるつもりも無かったのに、単純な言葉はあっさり突き刺さってしまったのだった。



「………………なんで、そういうのをさ、酔った状態で言うのお前は」



そう言うのがやっとだった。なんて言ったらいいのか分からないまま、思った通りのことをぽつりと呟くことしかできなかった。
少しだけ茉理は目を逸らして、それから僕に抱きついてくる。肩に顔を埋めて隠してしまったから、表情が見えなくなった。



「……………だって、こんだけ逃げ回って、うだうだしておいて、やっぱ好きでしたなんて。だっさくて、情けなくて、……どう言ったらいいのかわかんなくて」

「………………なんだそれ」

「ごめん、でも早く言わなきゃお前どっか行っちゃうし、ちょっとでも恋人解消してるあいだに取られちゃったらいやだし。……どーすればいいか分かんなくなって、それで」



茉理ごと身体を起こす。

酔っ払ったまま告白して今度はうじうじし始めた、どこまでも自分勝手な男がどんな顔してるのか気になって、無理に顔を上げさせた。
茉理は泣いていた。さっきまでよりもっと赤い顔してぼろぼろ涙を溢していた。


「……なんでお前が泣いてんの」

「離せよ、見ないで」

「……好きって、僕のこと?」

「決まってんじゃん。俺も好き。多分俺は、ずっと好きだった。ひかるが好き、恋人になってください」

「…………本気にするけど。酔った勢いとか明日言ったら、マジで許せなくなるけど」

「俺どんだけ酔ったってそんな嘘つかない。絶対つかない、記憶飛ばしたこともない。好きなんだよお前のこと。本当にずっと好きだったんだよ」


ごしごし乱暴に目元を擦りながら茉理が続ける。
僕が最初に恋人(仮)になろうって切り出した時より、その後最近になって好きだってちゃんと伝えた時より、ずっとずっとひどい告白だった。
僕らは今まで、もう少し器用でスマートだったはずだ。ちゃんと素敵なシチュエーション用意して、綺麗な言葉で伝えて、そうやってムードを作って恋人を作ってきたはずなのに、おそらくお互い今までで1番に最低なやり方をしている。

黙って茉理の事を見つめた。擦った目元が一段と赤くなっていた。下唇を軽く噛むのは、どうしようもなく緊張して落ち着かない時に出る癖だった。ベロベロになって告白してきたのは本当に最悪だが、その癖でふざけて言ってるんじゃ無いってことは、なんとなく分かった。


「………………………………」



それだけで、まあいっかと思ってしまうんだから僕だってどうしようもない。

取り繕わないかっこわるい告白が、嬉しかった。
どうしようもなく嬉しくて、本当に嬉しくって、どう怒っていいのか分からなくなった。



「すき。好きです。……なー、なんか言えよ」

「…………え?あー……、ごめん」

「何それ、ごめんって何、嫌だ別れないから」

「あー違う違う、そっちじゃないから」

「なんだよ、てかなんでずっと黙って聞いてんの、俺のこと好きって言えよ」

「横暴だなぁ、今まで散々逃げ回っておいて」

「………身体ごと変わっちゃったの、ちょっと怖かったんだよ。知らないことばっかになっていくのも、知らない自分がいたことも」

「………………うん、そうだね」

「でも多分おれはさ、お前のこと好きなのは変わってなかったんだよ。いつもなんか目で追ってて、気になって、近くにいるのが嬉しかった。最初からきっと、友達よりもっと親密に好きだった」

「ありがとね、僕も好きだよ」

「………………………………嬉しいです」

「そうですか」


言い終わってすぐ、両頬を手のひらで包むように抱えられて茉理がキスをしてきた。
かっこいいところを持ってかれたなと思った。あたり前のように舌が入ってきたから、今度は素直に絡め合う。

茉理が甘えるように何度も舌を吸って甘噛みしてくる。いつの間にか首に腕を回してしがみついて、必死に僕のことを求めるようにキスを続けていた。

お互い息が上がった頃、やっと茉理が唇を離した。飲み込みきれなかった唾液が口の端から溢れて落ちていく。



「………しませんか」



顔を近づけたまま、茉理が小さくそう言った。
上気した頬が赤い。興奮しきった苦しそうな顔をしている。


「…できる?酔ってるには酔ってるでしょ」

「したい。する。…どうせもうムラムラしてて眠れない」


目の奥をぎらつかせて茉理がそう言って、ちゅ、と軽いキスをしてくる。
また無理に押し倒されて痛い思いをする前に、仕返しの意図も込めつつ今度は茉理を押し倒した。
ろくに抵抗もせず、あっさり倒れたのがかわいい。

告白してすぐセックスなんて、今までだったらあり得なかったのにと思う。
もっと段階を踏んでゆっくり進みたい。これじゃあんまりにも情緒がない。
だけど自分の下で真っ赤な顔をして、必死に僕を求める茉理を見てるとどうでもよくなってしまう。
まあ、3ヶ月も付き合ったし。それよりずっと前からの仲だったし。

じゃあいいかと思い直して、まだふわふわした気持ちのまま服の裾にそっと手を差し込んだ。
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