【完結】まつりくんはオメガの自覚が無い

りちょ

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21話 俺の気持ち

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「…ヒート、結局いつからなの?」

「予測だとあと1週間後とかかな。まあ、前後したりするから数日前からいつも薬は飲んでる」

「じゃあ飲み始めるタイミングまでだね。ちゃんと言えよ」

「………………うん」


講義が終わってバイトも無かった俺たちは、2人でいつも通り帰ってきてひかるの家でだらだらていた。

仮の恋人期間が終わるまでがこうやって少しずつちゃんと決まっていくところ以外は、俺たちは特に変わらず過ごしている。
暇な時はお互いの部屋に行き来したり、同じ布団で寝たり、キスをしたり。…ほんの少し、ひかるが寂しそうな顔や好きでたまんないって顔をする時があることくらいは、今まで通りだった。


「………あーそうだ。僕もだけどさ、下着とか服とかは必要なもんだしなるべく自分の家持って帰ろっか」

「……置きっぱじゃダメ?また泊まり来るし」

「………一旦ダメ。てかお前のヒート中は僕友達の家泊まってる予定だし、一回持ち帰った方がいいよ」

「えっそうなの?なんで……」

「………………まあ、念のため一応」


ふいっとひかるが目を逸らす。
気がついているのかは知らないけど、こんな風にあからさまに寂しそうな顔をする癖に、こうやって線を引こうとするのはいつもひかるからだった。
俺からしたら、仮とは言え恋人同士の関係だったのに急に別れを告げられたようなもんだから、正直納得が行かない。そんな顔するなら解消しなくていいじゃん、と思ってしまっている。ヒート中何かあったって、もうお前と俺なら別に良いじゃん。俺のこと好きなら、手放なすなよ。

文句が喉元まで出かかって、ひかるの腕を掴んでぶつけてやろうと手を伸ばす。

掴みかけたところで、あの日のひかるの声が頭の中に響く。

僕のこと好きなんでしょ。
好きなんだよ。
茉理は、ちゃんと考えたいんだろ。

あの日初めて、何度もしつこいくらいにひかるは、俺に好きだって言わせようとしたり確かめようとしたり迫った。今思うと、何だか必死にも思えるくらいだった。

俺は何も言えなかった。何も言わず終わりにしてしまった。

ひかるにだけ告白させておいて、自分は楽な方に逃げたことへの罪悪感が、手元を重く締め付ける。

ウェブ漫画を読むひかるが気が付かないうちに、伸ばしかけた手を引っ込めて黙った。
ここ最近いつも、俺はこれを繰り返してばかりだった。


「………なに、ずっと僕のこと見てた?」

「別に。……今目が合っただけだよ」

「あっそう」


ひかるがスマホに視線を戻す前に、顔を寄せてキスをする。触れ合って、それからすぐにひかるが身体を引いてあっさり離れてしまう。


「遅いし風呂先行くね」

「あーうん……いってらっしゃい」


俺たちの部屋は間取りが狭くて、とても男2人で入れるような浴室では無い。よほどのことがない限り、別々に入るのが普通だった。


片付いた部屋に1人取り残される。
何となく、目についた本棚に近づいて眺めた。
背の順に背表紙が並べてあり、意外とマメでこだわりがあるひかるらしくて笑いそうになった。
きっちりした性格で、シェルフに収納されたカゴもサイズぴったりで色も統一されている。充電コードもわざわざ見えないようカバーをつけていた。

好きなバンドのグッズや貰ったフィギュア、映画のパンフレットなんかも、好きなものは何でも飾る俺の部屋と、ひかるの部屋はずいぶん印象が違う。
とにかく部屋には好きなものをたくさん置いて飾って眺めて楽しむ俺とは違って、ひかるは一つ一つ、何から何まで丁寧に片付けていくタイプだ。ここにこれを入れて、ここにはこれをしまう。小さなルールが沢山あることに、恋人になってすぐの時は驚いた。


だからこそ、俺との関係もきっちり整理しようとしてるのかなと思った。


ずっと俺はぐるぐる悩んでいる。

ひかるのことは好きだ。大好きだ。誰よりも大切だし、独占したいとも思ってるし、ずっと一緒がいいとも思っている。つまりはまあ、ひかるが俺に言っているような『好き』とは、大差ないのだ。

じゃあそれを伝えてしまえば終わるんだけど。
だけど俺は、何も言えていなかった。 

俺にとってひかるは特別だ。
こんな風に仲が良くて、恋愛や肉体関係を抜きにしてずっと関係を続けてきた、人生で1人しかいない幼馴染がひかるだった。

ずっと2人で育ててきた関係が、変わってしまうことが純粋に怖かった。それにいまいち、突然起きた身体の変化にもついていけていないのだ。
いろんなことが変わるかもしれないことが怖かった。

だから中途半端な関係が良かった。何も考えずだらだら、なんとなく近くにいてお互いを独占して過ごす今の状態から抜け出したくなかった。
そんな女々しい理由で、上手くひかるには話せないでいる。

ただ、それでもきっとヒートが始まったら、理性的に考えられる自分じゃ無くなってしまうかもしれない。
また前みたいに暴走して、ひかるを求めて呼び戻して、衝動のままに動物のように交わってしまうかもしれない。

だからこそ冷静に考えられるうちに、決着はつけないと行けないなとは思う。

1人になった部屋で、ひかるが集めている本をぼんやり眺めた。一つだけ、下巻が抜けた小説がある。俺が高校生の頃に借りて、そのまま読まないでずっと持っている本だ。一応今の家に持ってきてあるけど、それはまだ返さなくても良いかなと思った。



----------



「茉理さん、俺ほんと気にしてないんで奢ったりとかもういいですよ」

「いや……これで最後にするから奢らせて…思ったより痛々しくて………」

「俺の自業自得みたいなとこあるし、良く転んであざとか作りまくるタイプだし、マジで気にしないでください」

「お前酒入ってないと本当にかわいいね…一生飲まないでほしい」


たまたま、学食に行くと溜口が並んでいるのが見えて声をかけた。飲み会以来会っていなかった溜口の頬はアザのような色になっていて、たまらず奢って2人で食べることにしたのだった。


「てか俺ゼミ室入っていいんですか?誰もいないけど」

「この時間基本うちが取ってるから大丈夫。まあそれに教授は来ないし平気だよ。食堂パンパンだったもんね」

「はい、助かりました……ひかるさんは今日いないすね」

「ひかるは午後無いから帰ったんだよ。休講になったんだってさ」


軽く話しながら味噌汁に手をつける。少し薄味の給食を思い出す味のこれが、俺はなんだかんだ好きだったりした。


「溜ちゃん、恋バナしていい?」

「恋バナって……珍しいっすね、俺でよければ」

「あはは。俺さ、割とモテるじゃない」

「そうなんだ……知らないですよ」

「モテるっていうか仲良くなるの早いの。だから大体いつも何となく仲がいい子が何人かいて、そのうちの1人とキッカケがあって遊んで、大体それが発展して付き合うような流れが多くて…」

「へえ~いいじゃ無いですか」

「それが普通だったから、それ以外がさ、よく分かんなくて。溜ちゃんずっっっと仲良かった子と付き合ったことある?」

「ありますよ、俺高校の頃幼馴染と付き合ってました。まあ…上京して別れちゃったけど」

「えっ………別れちゃったの?」

「はい。お互いあんまり余裕なくて、すれ違った末に向こうが浮気しちゃって。今思えばお互い知り尽くしてた分、あんまり歩み寄れなかったんです。ずっと友達の延長みたいで、楽しかったんですけどね」

「へえー…そうだったんだ。難しいね」

「うん。基本ずっと関係性は変わらなくて楽で良かったんです。そりゃ恋人らしいこともしたけど、あんまりガラッとは変わらなかったかな。……もしかしたら、ガラッと変えなくちゃいけなかったのかもしれないですけど」


伏し目がちにそう言っている姿が、溜口はサマになる。


「ずっと仲良かった子のこと好きになったの?茉理さん」

「…………まあそんな感じ。好きって言われた」

「えっそうなんですか!?じゃあ今保留にしてる感じ?」

「うんそう。俺も好きなんだけどね……でも今までの関係も居心地良かったから」

「でもここで振ったらその子別の人に盗られちゃうじゃん、それはいいんですか」

「やだ」

「じゃあさっさと付き合った方が良く無い?」

「そっかあ…まあそうだよな……」

「なんでそんな悩むんですか?めっちゃ嬉しいじゃん」

「今まで下心持ったことなかったから。めちゃくちゃ友達なんだよ、だから…付き合ったあとが心配というか、その、別れたくなくて」

「急に中学生みたいな悩みに」

「俺あんまり続かないんだもん~相手はもっと続かないタイプだからさーーそれ嫌なんだよーー………」

「なら尚更見知った相手の方がお互いいいんじゃないんすか?」

「そうかな~」


ダラダラと話しているうちに、日替わりのハンバーグ定食も食べ終えてしまった。食器を片付けるため移動しつつ、もう少し話しながら歩く。


「茉理さん続かないの?意外、マメそうなのに」

「一年くらいで別れちゃう事が多いかも。餌あげないタイプみたいで愛想尽かされたり、自然消滅したり……」

「それは茉理さんが悪いじゃないすか、頑張ってくださいよ」

「それはそう」

「てか、悩んでるのもめっちゃ好きだからでしょ?保留にするくらいならそのまま言ったらどうすか?」

「あー、それいいね。そうしよっかな」

「軽いなあ」


食器を返却し終えると、午後の講義があるからと、ご馳走様でしたと頭を下げてから溜口は去っていってしまった。
次の講義まで中途半端に空き時間のあった俺は、教授に渡された資料でも読み込もうと、校舎の隅っこにあるゼミ室に戻った。
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