【完結】振られてばかりの幼馴染を寝取って絶対に幸せにします

りちょ

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10話

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それからも夏樹は変わらず、暇な時は僕の家に居座ってだらだら過ごした。
今までと何も変わらない顔して、時々僕より先に家に到着しておいて居眠りをしていたり漫画を読んでたり自由に過ごしていた。

僕は僕で今まで通り、夏樹の好きなオムライスを作ったり2人で鍋を作ったり、今日みたいに映画鑑賞のためにピザを頼んだりして、幼馴染らしく2人で過ごした。


「俺あれ観たい、今度新作でるやつの」

「あー…僕も前のあんまし内容覚えてないや。1作目は覚えてるんだけどね」

「分かるわーちょっと失速したよな、俺もちゃんと覚えてないもん」


家で映画館を作って映画を観るのは、中学の頃から2人でずっとやっていた事だった。

一人暮らしをする前は大抵、両親の居ない僕の家のリビングで、レンタルショップで借りてきた映画を観ていた。カーテンを閉め切ってソファに並んで、ポップコーンのキャラメル味と塩味2袋を同時に開けてハーフ&ハーフにして食べるのが決まりだった。
だいたいいつも夏樹がキャラメルをほとんど食べて、僕が塩味を食べていて、「楓の家のテレビは大っきいから楽しい」と夏樹がよく笑っていた。
僕はこの大きな液晶の前に1人で座るのが苦手だったから、しょっちゅう夏樹が遊びにきてくれるのが本当に嬉しかった。

テレビのサイズが小さくなったのと、ビデオショップに行かずにサブスクで映画を探すようになった事意外は、ほとんどその頃と変わらない。

帰り道で夏樹が買ってきたポップコーンを皿に移してテーブルに並べて準備する。
フライングで夏樹が一つつまみ食いをしてきたから、むにっとほっぺたをつねった。もちもちでよく伸びる。痛い痛いと夏樹が笑っていた。

注文していたピザを受け取って、電気を消してすぐに映画を見始めた。

今観ているのは中学生くらいの頃から夏樹とずっと追っている、シリーズモノのアクション映画だった。
確かこれも上映が決まってすぐに、夏樹と2人で映画館に見に行った気がする。
30分くらい経ったころには記憶がぼんやり蘇ってきて、内容も思い出してきた。

……そうだ、絵だけ華やかで、いまいちパッとしなかったんだった。

大体いつも2作目はダレるなあと思ってポップコーンを口に運ぶ。
1作目は綺麗にまとまっていたのに、今作は設定を急に詰め込みすぎているから軸がブレている。
これ次回作でどうやって回収するんだと思って飲み物に手を伸ばした時に、夏樹と手がぶつかった。


今まで通りのこともあれば、今まで通りじゃなくなった事もある。


薄暗い部屋で目が合う。さっきより夏樹が近い位置に座っていた。目を離さないでじっと夏樹が見つめてきて、そんなんで僕は簡単に心臓が脈打ってしまう。
目を逸らして無理にテレビの画面に視線を送った。最悪だ、ちょうど主人公がヒロインとキスをしている。夏樹が僕の唇を指でなぞった。


「……映画、夏樹が観たいって言ったんだよ」

「もう内容思い出したもん。ていうか好きじゃなかった事思い出した。楓も同じでしょ」


下唇をふにふに押してくる夏樹の指先がざらざらしている。つまんでいたポップコーンの塩が多分そのままついてる。…雑じゃない?女の子とか恋人にはこんな事しなくない?僕が言うのもなんだけど色気無いなあと思った。 

手首を掴んで添えられた指先を甘噛みする。
いたっと小さく夏樹が呟く。
呟いただけで、振り払いはしなかった。


「夏樹、期待した顔してる」

「……してないし。何それ」


ほんの少しむっとした顔をして、それから夏樹が顔を寄せた。もう当たり前のように夏樹が目を閉じて唇を押し当ててくる。珍しく唇が乾燥していてざらざらした。かえって興奮して、夏樹の肩を掴んで唇を甘噛みした。


「映画いいの?」

「いい。ねー、楓…」


するっと夏樹が僕の首に腕を回す。
あんまりに慣れた様子で誘ってくるから、いつもちょっとだけ複雑だった。
こんな事女の子にしないでしょ。じゃあそっか、彼氏にやって覚えたのか。見ないふりをしている恋人の影がチラついてしまって苦しかった。
ちょっとだけどころか、かなり複雑だ。


一回きりしか関係を持たないでいれば、お互いなかった事にできたかもしれないし、もしかしたら良い方にも悪い方にも、関係が変わったのかもしれない。
僕も夏樹も、何も本心は言わないままなあなあに2回目のセックスをしてしまったせいで、今までの友達同士の関係のままセックスがくっついた、なんて呼んだら分からない歪な関係になってしまった。


夏樹を押し倒して、またキスをする。舌を絡めて吸って唇を離すと、もう蕩けた顔をしていた。

この顔を見るたび、気持ちがぐちゃぐちゃになった。
僕に全部を明け渡した、緩みきった表情。受け入れられてるって勘違いしそうになる。愛しくてたまんないって表情をされてると思い込みそうになる。

夏樹が欲しいのは都合のいい快感の方なのか、……それとも僕なのか、分からないままだった。
奪ってやる、なんて息巻いてたのがバカらしい。僕はなんだかんだ女々しくていくじなしで、夏樹の気持ちを確認するのも、自分の気持ちを伝えるのも、全部全部怖くてできない。

十数年も思い続けてひたすら夏樹一筋で、友達の枠にギリギリ納めた歪なアプローチだけをバレないようにずっと続けてきたんだ。
ねちっこい性格だ。多分僕だからこんな荒技ができた。こんな僕だから、夏樹が好きなセックスはする癖に、肝心なところに潜り込めないでいた。



「……彼氏の家、最近いつ行ったの」

「………なに急に。あんまり、最近会ってないけど」

「なんで?…てか映画も、僕と観に行ってないでさ、彼氏と行けば。デートすればいいじゃん」

「趣味合わないんだよ。楓と言った方が楽しいの」 


夏樹が目を逸らした。僕と違って夏樹はじっと人の目を見て話すタイプだ。
何か後ろめたい事があったり、考え事をして上の空でいる時だけこうやって目を逸らす。

本当はこれで夏樹から、別れたよって言ってくれればなあといつも思っていた。
けれどまあそこまで上手くはいかないようで、いつも夏樹はもごもごそう言うだけ。

いつも聴くたびに何度も心の中で思った言葉があった。
今日は一際、強く思った。もう言っちゃおうかなと思って、カラカラに乾いた喉で、どうにかそれを口に出す。



「………………じゃあ僕にすれば?」



これが精一杯だった。これで精一杯だったから、夏樹の目は見れなかった。


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