7 / 16
7話
しおりを挟む
「あっはは……俺初めて見た、セックスで熱出すやつ」
「うるっさい…マジでうるさい、情けなくて死にそうなんだから笑わないでって………」
翌朝、やたらと身体が重くて起き上がれなかった。
体力を使ったし疲れているのかな、と思って無理に起きて朝食の準備をしようとして、足元がフラフラして僕はぶっ倒れた。
その音で夏樹が起きてきて、ベッドに引きずり戻されて、なんかお前熱くない?と体温計を渡され、熱を出していたことが発覚したのだ。
ちなみに他の不調は一切なし、どこも痛くないし咳も出ないし食欲もある。
お前これ知恵熱じゃん!童貞捨てたから!?と夏樹が大笑いしていた。
「…風邪かもしれないし、夏樹帰っていいよ。移したくないし」
「遠慮しないでいいよ。風邪だったら多分、昨日のでもう移ってると思うし。楓も食欲あるならなんか朝飯作るけど」
「作れるの?夏樹」
「作れるよ…一応一人暮らししてるからね俺だって」
そう言って、ちょっと楽しそうに夏樹がキッチンに向かっていった。
いつもご飯は僕が用意していて、夏樹もそれが当たり前みたいに過ごしていたから意外だった。
扉の向こうからじゅうじゅう火を使う音がする。多分卵を焼いているな。ちゃんと奥の賞味期限が近いものから使ってくれているかな。
やたらとご機嫌な夏樹の鼻歌が聞こえてくる。
知っている曲だった。高校生の時に2人で夏フェスに行った時に僕が観に行ったバンドの曲だ。
確か夏樹はそのバンドのことは別に好きじゃなくて、ただ僕に連れられていただけだった。鼻歌で歌えるくらい聴くようになっていたことは知らなかった。
うとうと微睡みながら聴いていたら、いつのまにか出来上がっていたらしい。
夏樹がテーブルに料理を並べていた。
ウィンナーと卵焼き、インスタントの味噌汁とパックのご飯だった。
冷凍してあるご飯はあったんだけど、夏樹が用意してくれたのだからもうなんでもよかった。
「さすがに、楓の卵焼きほど綺麗にはできないや」
「いや充分綺麗じゃん、よく作るの?」
「全然!見様見真似でやった」
ほんの少し焦げた卵焼きは、確かに僕が作る卵焼きより一層が厚くて隙間があって不恰好だったけど、十分綺麗な見た目だった。
夏樹は何をやっても最初から70点くらい出来るタイプで、料理も同じみたいだった。嬉しかったけど、悔しいなあと思った。
手を伸ばして、まだ温かい卵焼きを取る。持ち上げるとほんのちょっと形が崩れた。
ぼろぼろになる前に口に運ぶ。
「…あれ、甘くないんだ」
「うん、楓ん家の卵焼きってしょっぱかったじゃん。そっちのが好きでしょ」
「そうだったけど、…よく覚えてるね」
「まあね。味どう?」
「美味いよ。普通に美味い」
「よかった~楓に言われると安心する!」
焼き目のついた卵焼きは、本音を言えばちょっと塩辛い。僕が本当に好きなのは、塩はひとつまみより少ないくらいの薄味の卵焼きだった。
でも、夏樹が僕の好みを覚えていたのが嬉しかった。
…じゃあ僕が夏樹に合わせて味付けしていたことも、こいつはもしかしたら気が付いていたのかもしれないんだ。
「ウインナー脂っこい、失敗したかも」
「あはは、これ焼くなら油しかない方がいいんだよ、ギトギトになっちゃうから」
「へえー。いろいろ考えて料理してんだね、楓って」
「別に…慣れだよ」
食べ終えた食器を片付けようとしたが、俺がやると言って夏樹に寝かされた。また鼻歌が遠くから聞こえる。なんだからやけに機嫌が良いようだった。
身体も頭も重たくて、ベッドに入ってぼーっとしていた。
夏樹とあんなことをしたのに、いつも通りでいられたのは、熱で思考が散漫になっているからかもしれないなと思った。あとで熱が下がったら、シーツも洗わないといけない。
しばらくして夏樹が部屋に戻ってきた。
手にタオルを持っていて、どうするんだろうと思って見ていたら額に乗せられる。濡らしたタオルは冷たくて気持ちよかった。
「俺冷えピタよりこっちのが好きなんだよね。なんか気持ちよくない?」
「気持ちいい。あは、今日は色々やってくれるね」
「…そりゃ、弱ってるところ見たらさ」
夏樹が端に腰をかけて、その重みでベッドが軋んだ。
そのまま退屈そうにスマホを触り出す。
「帰っても大丈夫だよ、別に」
「いいよ。お前体調悪い時1人になるのすごい嫌がってたじゃん。帰らないでって泣かれたことあったし」
「いつの話?それ」
「中学くらい?…リエちゃんが仕事忙しくて全然帰ってこなかった時期だよ」
リエとは僕の母親のことだった。
夏樹は僕の母親とも何故か仲が良くて、いつの間にか名前で呼んでいた。
バイトでもやたらと主婦層の社員に可愛がられていたので、年上と距離を詰めるのが上手いのかもしれない。
僕の家は、海外出張の多い父親はほとんど家にいなくて、母親も仕事人間で家を空けることが多かった。
家族仲が悪いわけでは無かったが、いわゆる鍵っ子だった僕は夏樹にも、夏樹の家族にもよく世話をしてもらっていた。
「それにまあ…俺のせいみたいなところあるし。お前すごいよ、普通友達とヤったらその後結構気まずくなるのに、先手打って熱出しちゃうんだもんな。面白くてどうでもよくなっちゃったじゃん」
「おもしろって言ったなお前」
「おもしろいだろ初エッチでその後熱出すって…あはは、俺が相手で良かったね。あっ添い寝してあげよっか?」
「添い寝って……まあ、嬉しいけど」
「嬉しいのかよ」
けらけら笑いながら夏樹がベッドに潜りこんできた。
一気に狭くなったかわりに、すぐに布団の中が温まる。多分夏樹は体温が高いんだと思う。すごいなあと思ったら、一気にまた眠気が襲ってきた。
しばらく隣でスマホゲームをしていた夏樹が、手を止めて寝返りを打つ。僕の方を向いてきたから少し驚いた。
「……なに、どうしたの」
「別に、なんとなく」
近い距離から視線を感じて少し緊張したけど、それより今は眠気の方が勝るみたいで、瞼が落ちていく。
目を瞑っていても、夏樹がずり落ちたタオルを戻すのが分かった。優しくされるのが心地よくて、いつのまにか眠っていた。
「うるっさい…マジでうるさい、情けなくて死にそうなんだから笑わないでって………」
翌朝、やたらと身体が重くて起き上がれなかった。
体力を使ったし疲れているのかな、と思って無理に起きて朝食の準備をしようとして、足元がフラフラして僕はぶっ倒れた。
その音で夏樹が起きてきて、ベッドに引きずり戻されて、なんかお前熱くない?と体温計を渡され、熱を出していたことが発覚したのだ。
ちなみに他の不調は一切なし、どこも痛くないし咳も出ないし食欲もある。
お前これ知恵熱じゃん!童貞捨てたから!?と夏樹が大笑いしていた。
「…風邪かもしれないし、夏樹帰っていいよ。移したくないし」
「遠慮しないでいいよ。風邪だったら多分、昨日のでもう移ってると思うし。楓も食欲あるならなんか朝飯作るけど」
「作れるの?夏樹」
「作れるよ…一応一人暮らししてるからね俺だって」
そう言って、ちょっと楽しそうに夏樹がキッチンに向かっていった。
いつもご飯は僕が用意していて、夏樹もそれが当たり前みたいに過ごしていたから意外だった。
扉の向こうからじゅうじゅう火を使う音がする。多分卵を焼いているな。ちゃんと奥の賞味期限が近いものから使ってくれているかな。
やたらとご機嫌な夏樹の鼻歌が聞こえてくる。
知っている曲だった。高校生の時に2人で夏フェスに行った時に僕が観に行ったバンドの曲だ。
確か夏樹はそのバンドのことは別に好きじゃなくて、ただ僕に連れられていただけだった。鼻歌で歌えるくらい聴くようになっていたことは知らなかった。
うとうと微睡みながら聴いていたら、いつのまにか出来上がっていたらしい。
夏樹がテーブルに料理を並べていた。
ウィンナーと卵焼き、インスタントの味噌汁とパックのご飯だった。
冷凍してあるご飯はあったんだけど、夏樹が用意してくれたのだからもうなんでもよかった。
「さすがに、楓の卵焼きほど綺麗にはできないや」
「いや充分綺麗じゃん、よく作るの?」
「全然!見様見真似でやった」
ほんの少し焦げた卵焼きは、確かに僕が作る卵焼きより一層が厚くて隙間があって不恰好だったけど、十分綺麗な見た目だった。
夏樹は何をやっても最初から70点くらい出来るタイプで、料理も同じみたいだった。嬉しかったけど、悔しいなあと思った。
手を伸ばして、まだ温かい卵焼きを取る。持ち上げるとほんのちょっと形が崩れた。
ぼろぼろになる前に口に運ぶ。
「…あれ、甘くないんだ」
「うん、楓ん家の卵焼きってしょっぱかったじゃん。そっちのが好きでしょ」
「そうだったけど、…よく覚えてるね」
「まあね。味どう?」
「美味いよ。普通に美味い」
「よかった~楓に言われると安心する!」
焼き目のついた卵焼きは、本音を言えばちょっと塩辛い。僕が本当に好きなのは、塩はひとつまみより少ないくらいの薄味の卵焼きだった。
でも、夏樹が僕の好みを覚えていたのが嬉しかった。
…じゃあ僕が夏樹に合わせて味付けしていたことも、こいつはもしかしたら気が付いていたのかもしれないんだ。
「ウインナー脂っこい、失敗したかも」
「あはは、これ焼くなら油しかない方がいいんだよ、ギトギトになっちゃうから」
「へえー。いろいろ考えて料理してんだね、楓って」
「別に…慣れだよ」
食べ終えた食器を片付けようとしたが、俺がやると言って夏樹に寝かされた。また鼻歌が遠くから聞こえる。なんだからやけに機嫌が良いようだった。
身体も頭も重たくて、ベッドに入ってぼーっとしていた。
夏樹とあんなことをしたのに、いつも通りでいられたのは、熱で思考が散漫になっているからかもしれないなと思った。あとで熱が下がったら、シーツも洗わないといけない。
しばらくして夏樹が部屋に戻ってきた。
手にタオルを持っていて、どうするんだろうと思って見ていたら額に乗せられる。濡らしたタオルは冷たくて気持ちよかった。
「俺冷えピタよりこっちのが好きなんだよね。なんか気持ちよくない?」
「気持ちいい。あは、今日は色々やってくれるね」
「…そりゃ、弱ってるところ見たらさ」
夏樹が端に腰をかけて、その重みでベッドが軋んだ。
そのまま退屈そうにスマホを触り出す。
「帰っても大丈夫だよ、別に」
「いいよ。お前体調悪い時1人になるのすごい嫌がってたじゃん。帰らないでって泣かれたことあったし」
「いつの話?それ」
「中学くらい?…リエちゃんが仕事忙しくて全然帰ってこなかった時期だよ」
リエとは僕の母親のことだった。
夏樹は僕の母親とも何故か仲が良くて、いつの間にか名前で呼んでいた。
バイトでもやたらと主婦層の社員に可愛がられていたので、年上と距離を詰めるのが上手いのかもしれない。
僕の家は、海外出張の多い父親はほとんど家にいなくて、母親も仕事人間で家を空けることが多かった。
家族仲が悪いわけでは無かったが、いわゆる鍵っ子だった僕は夏樹にも、夏樹の家族にもよく世話をしてもらっていた。
「それにまあ…俺のせいみたいなところあるし。お前すごいよ、普通友達とヤったらその後結構気まずくなるのに、先手打って熱出しちゃうんだもんな。面白くてどうでもよくなっちゃったじゃん」
「おもしろって言ったなお前」
「おもしろいだろ初エッチでその後熱出すって…あはは、俺が相手で良かったね。あっ添い寝してあげよっか?」
「添い寝って……まあ、嬉しいけど」
「嬉しいのかよ」
けらけら笑いながら夏樹がベッドに潜りこんできた。
一気に狭くなったかわりに、すぐに布団の中が温まる。多分夏樹は体温が高いんだと思う。すごいなあと思ったら、一気にまた眠気が襲ってきた。
しばらく隣でスマホゲームをしていた夏樹が、手を止めて寝返りを打つ。僕の方を向いてきたから少し驚いた。
「……なに、どうしたの」
「別に、なんとなく」
近い距離から視線を感じて少し緊張したけど、それより今は眠気の方が勝るみたいで、瞼が落ちていく。
目を瞑っていても、夏樹がずり落ちたタオルを戻すのが分かった。優しくされるのが心地よくて、いつのまにか眠っていた。
6
お気に入りに追加
208
あなたにおすすめの小説

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!



周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)
ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに
ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子
天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。
可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている
天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。
水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。
イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする
好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた
自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い
そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語


言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる