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アニスの不満
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やって来た公爵家は物語に出てくるお城のように広く、とても美しかった。
とてもじゃないが一個人の家とは思えない。
ここに住む人から見たら、アニスがこれまで住んでいた家などトイレと同じ位の大きさなのではないかとすら思えた。
アニスは少し悔しくなった。
自分がつらい生活を送っていた間、こんな夢のような世界で贅沢三昧をしている人間がいるんだと嫌でも理解させられて。
案内された部屋は一つ一つが豪華で、アニスの目を釘付けにした。
これからはここが自分の家になるのだ。
まるで夢のようだと吐息が漏れるのを止められない。
見ているだけで時間はあっという間に過ぎ、母と再婚した新しい父であるダンテルが入ってきた。
美丈夫な男性は、挨拶のために何度か会ったが、その度に惚れ惚れとした。
よくこんな男性を惚れさせたと、心の中で母に拍手を送る。
そんなダンテルと一緒に入ってきたのは同じ年頃の少女。
ティアという少女が母と挨拶しているのを、アニスはぽかんとした顔で見る。
アニスはそれなりに自分の容姿に自信があった。
近所でもよく可愛いと言われ、常に彼氏が尽きることはなかった。
それはアニスの自信となり、よく彼氏に貢がせていたものだ。
今アニスが着ているのも、そんな彼氏の一人に貢がせたワンピースで、アニスが持っている服の中では一番上等な物だった。
だが、目の前の少女はアニスを嘲笑うように、比べものにならない美しいドレスを着ていた。
その容姿もまた目を見張るもので。
絹糸のように艶やかな金糸の髪と、エメラルドグリーンの瞳。
まるで花の妖精と言われても納得してしてしまうほどに、可憐で可愛らしい子だった。
途端に湧き上がる感情。
ずるい、ずるい、ずるい。
こんなに可愛くて、ドレスまで綺麗で、公爵家のご令嬢。
何もかもがアニスと違っていた。
アニスのないものをたくさん持っていた。
自分と違わない年の少女だというのに、自分とのこの差はなんなのか。
自信満々で着てきたワンピースがとてもみすぼらしく、恥ずかしく思えて仕方がなかった。
悔しい、悔しい。
そんな感情がアニスの心を占める。
様子のおかしいアニスを、ティアは心配してくれたが、それすらうっとうしく思わず手を叩いてしまった。
母に怒られるが、とても謝る気にならなかった。
彼女が悪い。
まるで見せつけるかのようにそんな豪華なドレスを着てくるなんて。
まるでアニスを嘲笑っているかのように感じた。
それからなあなあで終わらせ、部屋に案内されたアニスは再度驚く。
以前の家など比べるべくもない綺麗な部屋。
調度品の一つ一つがとても可愛らしく、年頃の女性を意識して揃えられていた。
「こちらはアニス様のお部屋になります」
そう侍女が言ったことで、自分一人だけの部屋だと理解する。
今までは母と雑魚寝で、自分の部屋などなかった。
念願の自分だけの部屋。
先程の不機嫌が嘘のように昇華されていく。
「これも、これも、これも、全部? 全部私が使って良いの?」
今までは使うことなどできなかった化粧品。
クローゼットには新品の服が何着も入っていた。
「そちらは旦那様がご用意なさった物です。どうぞ、お好きになさってください」
この時、部屋を用意したのはティアとダンテルのはずなのに、侍女が服を用意したのはダンテルと、ダンテルの名前だけを告げたのは、公爵の人間ではないレジーやアニスの物は父になったダンテルの私財からまかなわれたからだ。
あくまで、ダンテルの再婚相手の連れ子でしかないのだが、大喜びしているアニスにその言葉の裏を読む力はなかった。
とてもじゃないが一個人の家とは思えない。
ここに住む人から見たら、アニスがこれまで住んでいた家などトイレと同じ位の大きさなのではないかとすら思えた。
アニスは少し悔しくなった。
自分がつらい生活を送っていた間、こんな夢のような世界で贅沢三昧をしている人間がいるんだと嫌でも理解させられて。
案内された部屋は一つ一つが豪華で、アニスの目を釘付けにした。
これからはここが自分の家になるのだ。
まるで夢のようだと吐息が漏れるのを止められない。
見ているだけで時間はあっという間に過ぎ、母と再婚した新しい父であるダンテルが入ってきた。
美丈夫な男性は、挨拶のために何度か会ったが、その度に惚れ惚れとした。
よくこんな男性を惚れさせたと、心の中で母に拍手を送る。
そんなダンテルと一緒に入ってきたのは同じ年頃の少女。
ティアという少女が母と挨拶しているのを、アニスはぽかんとした顔で見る。
アニスはそれなりに自分の容姿に自信があった。
近所でもよく可愛いと言われ、常に彼氏が尽きることはなかった。
それはアニスの自信となり、よく彼氏に貢がせていたものだ。
今アニスが着ているのも、そんな彼氏の一人に貢がせたワンピースで、アニスが持っている服の中では一番上等な物だった。
だが、目の前の少女はアニスを嘲笑うように、比べものにならない美しいドレスを着ていた。
その容姿もまた目を見張るもので。
絹糸のように艶やかな金糸の髪と、エメラルドグリーンの瞳。
まるで花の妖精と言われても納得してしてしまうほどに、可憐で可愛らしい子だった。
途端に湧き上がる感情。
ずるい、ずるい、ずるい。
こんなに可愛くて、ドレスまで綺麗で、公爵家のご令嬢。
何もかもがアニスと違っていた。
アニスのないものをたくさん持っていた。
自分と違わない年の少女だというのに、自分とのこの差はなんなのか。
自信満々で着てきたワンピースがとてもみすぼらしく、恥ずかしく思えて仕方がなかった。
悔しい、悔しい。
そんな感情がアニスの心を占める。
様子のおかしいアニスを、ティアは心配してくれたが、それすらうっとうしく思わず手を叩いてしまった。
母に怒られるが、とても謝る気にならなかった。
彼女が悪い。
まるで見せつけるかのようにそんな豪華なドレスを着てくるなんて。
まるでアニスを嘲笑っているかのように感じた。
それからなあなあで終わらせ、部屋に案内されたアニスは再度驚く。
以前の家など比べるべくもない綺麗な部屋。
調度品の一つ一つがとても可愛らしく、年頃の女性を意識して揃えられていた。
「こちらはアニス様のお部屋になります」
そう侍女が言ったことで、自分一人だけの部屋だと理解する。
今までは母と雑魚寝で、自分の部屋などなかった。
念願の自分だけの部屋。
先程の不機嫌が嘘のように昇華されていく。
「これも、これも、これも、全部? 全部私が使って良いの?」
今までは使うことなどできなかった化粧品。
クローゼットには新品の服が何着も入っていた。
「そちらは旦那様がご用意なさった物です。どうぞ、お好きになさってください」
この時、部屋を用意したのはティアとダンテルのはずなのに、侍女が服を用意したのはダンテルと、ダンテルの名前だけを告げたのは、公爵の人間ではないレジーやアニスの物は父になったダンテルの私財からまかなわれたからだ。
あくまで、ダンテルの再婚相手の連れ子でしかないのだが、大喜びしているアニスにその言葉の裏を読む力はなかった。
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