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無意味な話し合い

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 場所を噴水のある庭に移した。
 ここは昼食を取る人の目もあるので、二人きりという状況を避けられる。
 さらには、ジュードがなにかしてきても周囲に助けを求めることが可能だ。

 ユウナがそんな計算をしているとは思っていないだろうジュードは、チラチラとユウナの顔色を窺ってくる。
 言いたいことがあるならさっさとしろと怒鳴りつけたくなる仕草に、ユウナはどうしてもしっかりしているリオとを比べてしまう。
 リオの方が年上なのでそう思うのは仕方ないのかもしれないが、年齢だけで解決できるようなものではない気がした。

「なに? 話すことがあるなら早くして。お昼ご飯食べる時間がなくなるから」

「なあ、場所変えないか? ここは人が多すぎるし」

 多いところをあえて選んでいると何故分からないのか。

「私には婚約者がいるの。あなただってアリアさんと結婚したんだし、疑われるような行動は慎むべきでしょう」

 ましてやジュードとアリアの結婚はどうしてもジュードが下の立場になってしまう。
 今はもう平民となったアリアだが、多少なりとも父親である男爵の援助はあるのだろうし、アリアの機嫌を損ねるような行動はすべきではないと分かりそうなものだが、そこまで頭が働いていないらしい。

「話をしないなら戻るわ」

 ジュードに割く時間が惜しいと踵を返そうとするユウナに、「話すから!」と、ジュードが慌てて声をかける。
 体勢を戻し、真っすぐとジュードを見据えるユウナに、ジュードは驚くべき言葉を放った。

「やっぱりさ、結婚するならユウナとがいいと思うんだ!」

「…………」

 絶句するユウナは我が耳を疑った。
 空耳か、幻聴か。
 しかし……。

「アリアは幼馴染みとして付き合うのはいいけど、やっぱり結婚相手としては駄目だ。我儘だし、自分の思う通りに俺が動かないとすぐに癇癪を起すんだ。昔はそうじゃなかったのに」

 つらつらと不満を訴えるジュードにユウナは呆れる。
 アリアが我儘なことなどユウナはとっくの昔に知っている。歴代のジュードの元恋人達も。
 今さら驚くような内容ではない。

「へー。で?」

 ユウナの感情を捨てた無の状態の眼差しがジュードに向けられる。

「あんな女だなんて思わなかった。最初から知っていたら結婚なんて断固拒否してユウナを選んだのに」

 自分が選ばれる側だと思っていること自体、脳内に花が咲いている。

「そんなこと言われても私には関係ないから、夫婦の話し合いならそっちで勝手にしてちょうだい」

 もはやなんの関りもない他人の自分を巻き込まないでいただきたいと、ユウナは急速に興味を失っていく。

「関係はある!」

「どこが?」

「そ、それが……」

 ジュードは視線を彷徨わせてから、言いづらそうに話し始めた。

「ユウナと結婚して伯爵になるつもりだったんだ。それを周りにも話していて、けどそれは結果的に嘘を吐いたことになったから、仲間から責められてるんだよ」

「ふーん」

 もはやユウナはジュードとの話に飽きてきている。
 それに気づいているのかいないのか、ジュードは続けた。

「仲間からいくらか借金してるんだ。あいつら俺が伯爵になるから貸してくれただけで、伯爵にならないと分かるや途端に手のひら返しやがってさ。今、そいつらに酷い取り立てに遭ってて困ってて……」

「借金したなら返すのは当然でしょう。さっさと返してあげなさいよ。かわいそうじゃない」

「そんな簡単に返せる金額じゃないんだ!」

 ジュードが声を大きくして反論してくる。
 だったら最初から借りるなよというのは、今さら言っても仕方ないだろう。

「自業自得じゃない。仲間ならちゃんと真摯に謝って待ってもらったらいいわよ」

 もう関係ない相手。
 これだけ助言すれば十分である。





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