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マウントを取らないと気がすまないらしい

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 グチグチと周りに聞かせるかのように不満を垂れ流すリエッタが、ふとユウナに気がついた。
 遊ぶおもちゃを見つけたとでも思っているのかもしれない。
 その瞬間に浮かべたニヤリとした意地の悪い笑みは、ノアやリオの真っ黒な笑みに比べたらまったく怖くはなかった。
 むしろ微笑ましさすら感じる、かわいいものだ。

 ユウナを見下して萎縮させたり圧倒したいならば、ノアにでも弟子入りして悪魔のような笑顔を作る練習を教授してもらうべきである。
 そうすれば、確実にユウナを怯えさせるのに成功するだろうに。

「あら、ユウナ、ごきげんよう」

 表情はにこやかなものの、リエッタの声色からはユウナを見下すような雰囲気が込められていた。
 いったいどこにユウナを下に見る要素があるのか分からない。
 もはや爵位が上となったユウナにこれまでのような態度が許されるはずはないというのに。
 どうして自分の方が優位に立っていると思っているのかユウナには理解不能だった。
 爵位を理解できていないはずだが。

「いらっしゃい、リエッタ。まさかあなたから声をかけられるとは思わなかったわ。なにせ、前回会った時は身分が下の者から話しかけるなと文句を言っていたのにね」

 ユウナは邪気のないほんわかした微笑みで毒を吐く。
 言外に、もうお前の方が身分が下なのだからわきまえろよ、ということである。
 言葉の裏に隠された意味はきちんと伝わったようで、リエッタは頬を引きつらせた。

「やだもう。私たちはとこじゃない。身分なんて関係ないでしょう?」

 どの口が言うのかと、ユウナの目は冷ややかだ。これまでを思い返してみろとツッコみたくなった。
 すると、ノアが横から口を挟む。

「それなら僕が話しても問題ないね。なにせ、はとこだから」

 と、上げ足を取るようにして、ノアは寒々とした眼差しでリエッタを見下ろす。
 思わず「ひえっ」とユウナが怯えた声を出しそうになるほど、ノアの迫力は満点だった。
 しかし、リエッタにはノアの綺麗すぎる容姿にしか意識が向けられていないようで、ノアの圧に動じていない。
 ぽーっとノアの顔に見とれている。
 それはそれであっぱれと拍手を送りたくなる鈍感さだ。
 ユウナならば即座に裸足で逃げ出している。

「リエッタはこのパーティーの装飾が気に入らないみたいだね?」

「え、ええ。だって、たかだか伯爵のパーティーにこんなにお金をかけるなんて無駄じゃない? しかもセンスも悪いし。まあ、平民出なら貴族の品のあるパーティーに劣るのは仕方ないけれど」

 ふふっと、まるで勝者のように不敵な笑みをユウナに向ける。
 もうそれ以上は口にしないでくれと、ユウナは内心ヒヤヒヤだ。

「へえ」

 ゆるりと口角を上げて笑うノアが怖くてならない。
 リエッタの兄と姉ならばすぐに異変に気がついただろうが、リエッタはまったく気がつく様子はない。

「貴族のパーティーはただお金をかければいいってものじゃないのよ。そういうところがやっぱり分かっていないといけないわ」

 得意げになって語るリエッタを、ユウナはじとっとした目で見る。
 だったらお前は分かっているのかと言わんばかりの目だ。
 国内の影響力も特にない子爵家の二女ならパーティーを主催した経験もないだろうに。
 誕生日ですも内々にひっそりと行うぐらいだ。

「それは悪かったね」

 ノアが謝ると、リエッタは不思議そうな顔をする。

「どうしてノアが謝るのよ」

 ユウナと同い年のリエッタは、当然ながらノアより年下である。
 なのに、リエッタはノアをいつも呼び捨てにしていた。
 まあ、身分的には平民と貴族なので文句は言えないが、リエッタからは優越感のようなものがいつも伝わってくる。

 国内有数の資産を持つシャロン商会の跡継ぎより立場が上にいるという自慢。
 そして、貴族、平民にかかわらず人気の高いノアを親しく呼ぶ関係であると周囲に示せる愉悦感は、さぞ気分がいいことだろう。

 だが、それがいかに危ういものか本人だけが気づいていない。
 平民であるユウナが爵位を継ぐように、貴族の子が平民になることもあるのだと。

 特にリエッタは長子ではなく三子だ。
 結婚相手が跡を継ぐ貴族ではなかったら、その瞬間に平民になってしまう。

 裕福ではないが子煩悩な子爵は、リエッタが貴族になるために結婚相手を探していた。けれど、今回リエッタの起こした過去のやらかしが露呈し、公爵家を敵に回したも同然だ。
 さらにこれ以上の問題を起こせば貴族と縁を繋ぐのは難しいだろう。

 それをノアとリオは衆人環視の中でさらそうとしている。
 ユウナは心の中で強く生きろと、この後のことを思いリエッタに密かにエールを送った。
 ユウナにはやる気満々のノアとリオを止められない。



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