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ガーデンパーティー

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 気持ちよく晴れた青空の下、ホーエンツ伯爵家ではガーデンパーティーが行われていた。

 正式にこのホーエンツ伯爵家を継ぐことが決まったユウナは朝からバタバタと忙しく準備に追われていたので、パーティーが始まる時点ですでに疲れてしまった。
 しかし、今日の主役同然のユウナがそれを表情に出すことはなく、花が咲いたかのような綺麗な笑顔で招待客をホストする。

 こうしてユウナが主だって招待客をもてなせるのも、これまでのシャロン商会の娘ではなく、きちんと伯爵家に籍を移した伯爵令嬢だからだ。
 そうでなかったら、いくら国一番の商会の娘だからといっても貴族は見下し、ユウナを軽んじた態度を取る者が出ただろう。

 とはいえ、そんな貴族が現れようものなら、冗談ではなくノアが即座にその貴族との取引を中止して追い込みそうなのが笑えない。

 今日はユウナのお披露目も含んでいるので、ノアや他の家族も出席している。
 元貴族だった母親は、まるで平民落ちしたのが嘘のようにドレスを着こなして、昔の友人達と楽しそうに話をしている。
 貴族とい地位をなくしてもなお輝いている母親に、ユウナは感心しきりだ。

 誰一人平民に地位を落とした母親を蔑む者がいないのは、それだけの輝きを見せて一切落ちぶれた様子を感じさせない。
 それに母親は両親ともに貴族。それは貴族社会においてかなり重要だ。
 果たして生まれも育ちも平民の自分は母親のように上手くやっていけるのか、ユウナは母親を見ていると逆に不安になってくる。

 それでも貴族として生きる選択をしたのはユウナ自身なので、もう腹をくくるしかない。
 それに今日はただのお披露目ではないのだ。
 リオとの婚約発表が一番の目的である。
 リオもまた認知されたとはいえ、正妻の息子というわけではない。
 庶子であることは、これから何度となくネチネチと嫌みを言われ続けるだろう。
 しかし、二人一緒ならなんとかなると思えるのがなんとも不思議な気持ちだった。

「ユウナ」

「あ、兄様」

 ユウナと同じく挨拶回りに奔走していたノアが、飲み物の入ったグラスを手に近づいてくる。
 そして片方のグラスをユウナに差し出す。

「少し休憩した方がいいよ。本番はこれからなんだから」

「うん。ありがとう」

 ニコリと微笑みかければ、ノアの目が途端に潤んでくる。

「くっ……。あのクズと縁が切れたのは嬉しが、こんなに早くユウナを取られるなんて思ってなかった……」

 周囲に気取られぬよう、自然に涙を拭うノアに、ユウナは苦笑する。

「別に結婚するわけじゃないんだし。それにたとえ結婚したとしても頻繁に兄様に会いに行くわ」

「絶対だよっ」

 いやに声に力が込められていて、ユウナはやれやれという顔だ。
 その時。

「ずいぶんと金をかけたパーティーなんかして、成金はこれだから嫌よね」

 そんな嫌悪感たっぷりの声が聞こえてきた。
 ユウナとノアはそろって眉間にしわを寄せる。
 しかし、表情に出したのはその一瞬だけで、すぐに表情を取り繕う。
 声のした方に目を向けると、天敵とも言えるリエッタの姿があった。

「リエッタ……」

 貴族教育を受けているにもかかわらず、不機嫌さを露わにして、会場の装飾に一つ一つ文句をつけていくリエッタ。
 金をかけていると言ったかと思えば、皿を見て。

「伯爵家のくせにしょっぼい食器」

 などと難癖をつける。
 大事な婚約発表のパーティーだからといって、シャロン商会と公爵家のあらゆるつてを使い、会場の物は最高級の物で取り揃えられている。
 それができる財力がこの家にはあるぞ伝えるためでもある。
 実際に招待客は、カトラリー一つですら手を抜いていない品々に感嘆しているというのに、リエッタは相変わらず目利きができないようだ。
 それは、いまだブローチがすり替わっているのに気がついていないようだという子爵からの報告からも察せられる。

 いったいいつ気がつくのだろうか。
 怖いような、その場面を見てみたいような好奇心が渦巻く。
 だが、その前に、周りを気にすることなく悪意をばらまいていく姿に嫌悪感が湧いた。

「兄様。リエッタを呼んだのはやっぱりやめておいた方がよかったんじゃないですか?」

 ユウナとしてはリエッタがいるだけで気分が落ちるので来てほしくはなかったのだが、一応は血縁関係のある子爵家に招待状を送らないわけにはいかなかった。
 先の一件があるので、てっきり子爵は欠席の返事を送ってくるかと思いきや、帰ってきたのは出席の返事。

 子爵のまともな性格からして、あのような問題があった後で顔を出そうとは思わないだろうと考えていたので驚いていたら、どうやら出席の返事はリエッタが出したらしいことが判明。
 子爵はすぐに欠席にしてほしい旨と謝罪の手紙を送って来ていたが、ノアとリオが出席しても構わないと返事をしたのだ

 その時二人そろってあくどい笑みを浮かべていたので、善意や優しさから出ないことは明らかだった。
 
 
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