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変わる関係

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 ユウナとリオの婚約が内々にだが正式なものとなった。
 公表するのは少し先になるが、リオが婚約者となったことに変わりはない。
 両家の間で合意して以降、リオはユウナの屋敷を毎日のように訪れるようになる。
 しかし、ユウナはそのことを少し心配していた。

「あの、リオ様。こんなに頻繁に我が家に来て大丈夫ですか?」

 兄の友人であり、公爵家の次男として受け入れられた庶子だったこと以外、まだよく知らないリオを知れる貴重な時間はユウナにとっても、これからの生活を考えても大事なものである。
 しかし、一応はまだ婚約を発表していないのだ。

 それなのに、こう毎日会いに来ていては、秘密にしていてもどこからか婚約の話が漏れてもおかしくない。
 どこぞの男爵家の使用人のように、自身の屋敷の使用人がぺろりと内情を話すなどとユウナは疑っていないが、使用人以外でも屋敷を出入りする者はいる。
 そこから噂になる可能性だってあった。

 けれど、リオは変わらずニコニコと笑って、ユウナの向かいに座ってお茶を飲んでいる。

「大丈夫だよ、ユウナ。対外的には、留学で知り合って友人になったノアに会いに来たってことにしているから。ユウナの評判を落とすようなことにはならないよ」

「兄様はいませんけどねぇ」

 ノアは父親のやらかしを今後防ぐためにも、大急ぎで引き継ぎを行っていて忙しい。
 それに加え、隣国への留学で掴んだ販路拡大の仕事もある。
 とてもではないが、ユウナ達と一緒にお茶をするどころではない。
 ユウナも手伝えればいいのだが、ユウナはユウナですることがあった。

「そうだね。だけどそれはこの屋敷の人間しか知らないよ。噂が流れたとしたら、誰が犯人かはすぐに分かると思うから大丈夫だよ」

 リオはあっけらかんとした様子で、まったく動じていない。
 ユウナを安心させるためだろう『大丈夫』の言葉は、何故か聞いていて背筋がひやりとする。
 さすが敵対する者には情け容赦なしの兄の友人だなと、ユウナは感心した。
 最初こそユウナはリオのことを優しい紳士のように思っていたが、毎日お茶をしながら話をするようになり、彼の性格が見た目とは大きく違うことを知る。

 もちろん、ユウナに対しては優しく紳士的であるのは間違いないのだが、優しく接する相手をちゃんと選んでいるという。

 留学していた時、リオはかなり優秀な成績を収めており、それによる嫉妬や、庶子であることへの偏見で嫌がらせを受けていたりしたようだが、その者達にはことごとく報復をして、リオの顔を見るだけで逃げていく程度にはお仕置きしておいた経験談を聞かされた。
 敵対する相手には三倍返しが基本だと、まるで天使のように悪意のない笑顔で毒を吐くのである。
 ユウナが最初に抱いていたリオへの印象は早々に崩れ去っていた。

 だが、そんなリオの裏の顔を目の当たりにしても、あまり悪感情は生まれなかった。
 表と裏のギャップが激しい、ノアという免疫があるせいかもしれないが……。
 決して隠さず、己の悪いところまで見せてくれるリオに、これは気を許してくれているということなのだろうかと好意的に捉えたためとも言える。
 けれど、どうやら少し違うよう。

「ユウナには本当の僕を知った上で好きになってもらいたいんだ。そりゃあ、ユウナに好意を持ってもらうために猫を被っていた方がいいんだろうけど、取り繕った僕じゃなく、ありのままの僕を好きになってほしいからね」

 などと、理由を知らされる。
 これから先の人生を一緒に生きていくのに、嘘の自分のまま好意を持たれたくないようだ。
 その気持ちはユウナにもなんとなく分かる。

 そして、正直な自分を見せてくれたからこそ、ユウナは余計にリオに好意を抱いた。
 恋愛方面かと聞かれると、まだ……。と答えるしかないが、毎日会う度に心の距離が縮まっていくのを感じていた。


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