上 下
12 / 68

父の言い分

しおりを挟む
「どうして婚約の約束なんてしてきたの?」

「いやあ、実は……」


 父親は背後にいるノアに怯えながら真実を吐いた。


「事業をホテル業界にも拡大したくてさ。とっても良い場所を見つけたんだ。王都の一等地。人通りも多い賑やかなところでぇ。でもそこはクエンティン商会の土地らしくてさ。頼んだけど売ってくれなかったから、ユウナの婚約をちらつかせて、もしあっちの有責で婚約破棄になったらそこを慰謝料にもらうって言いくるめたんだよぉ。なんか向こうはユウナと婚約したら伯爵と縁づけるって勘違いしてるっぽかったから、とんとん拍子に話がまとまってさ。後はあっちの有責で婚約破棄になれば、か・ん・ぺ・き」


 えへっと笑う父親に殺意が湧いた。
 クズがここにいる。


 てっきり父親が騙された方かと思えば、こっちが騙していた方だった。


「証文はどこにある? 当然契約を交わしているだろう?」


 ノアが後ろから、父親の両こめかみを拳でグリグリしながら問う。


「ぎゃあぁぁ! 机の引き出しの中ですぅぅ!」


 父親をポイッと投げ捨てて、父親の机の中を漁る。

 すると、それらしき契約書が出てきた。

 ざっと目を通したノアが、父親をゴミでも見るかのような目で見る。


「兄様、どう?」

「確かに、あちら有責での婚約破棄の場合は、王都の土地を譲ると書かれている。あちらのサインも一緒に」

「くっ……。父様! 私を利用したわね! このクズ親父!」

「だって、欲しかったんだもん」

「私がジュードとそのまま結婚したらどうするのよ!?」

「ないない。だってジュード君は幼馴染みの子にお熱だし。実際にそういう関係じゃなかったとしても、あれだけべったりで噂もあるから、じゅうぶん向こう有責で婚約破棄できるよ」


 勝ち目のない戦はしない主義だ、としたり顔で言う父親に、ノアはドロップキックをおみまいする。


「ぎゃうん!」

「いっそ、土に還すか。馬鹿は死ななきゃ治らないって言うし」

「兄様、さすがにそれはマズいです!」


 ノアが父親を見る目は確実に殺る者の目つきだ。


 気持ちは分かるが、さすがに止めなければ。
 

「と、とりあえず、婚約を破棄するのが先かと」

「それもそうだね。ユウナの方が大事だ。……それが終わったら覚えておけよ、クソが」


 シクシク泣く父親をその場に放置して、ユウナとノアは部屋から出た。

 これから対策会議だ。




しおりを挟む
感想 196

あなたにおすすめの小説

戦いから帰ってきた騎士なら、愛人を持ってもいいとでも?

新野乃花(大舟)
恋愛
健気に、一途に、戦いに向かった騎士であるトリガーの事を待ち続けていたフローラル。彼女はトリガーの婚約者として、この上ないほどの思いを抱きながらその帰りを願っていた。そしてそんなある日の事、戦いを終えたトリガーはフローラルのもとに帰還する。その時、その隣に親密そうな関係の一人の女性を伴って…。

困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?

柚木ゆず
恋愛
「アン! お前の礼儀がなっていないから夜会で恥をかいたじゃないか! そんな女となんて一緒に居られない! この婚約は破棄する!!」 「アン君、婚約の際にわが家が借りた金は全て返す。速やかにこの屋敷から出ていってくれ」  新興貴族である我がフェリルーザ男爵家は『地位』を求め、多額の借金を抱えるハーニエル伯爵家は『財』を目当てとして、各当主の命により長女であるわたしアンと嫡男であるイブライム様は婚約を交わす。そうしてわたしは両家当主の打算により、婚約後すぐハーニエル邸で暮らすようになりました。  わたしの待遇を良くしていれば、フェリルーザ家は喜んでより好条件で支援をしてくれるかもしれない。  こんな理由でわたしは手厚く迎えられましたが、そんな日常はハーニエル家が投資の成功により大金を手にしたことで一変してしまいます。  イブライム様は男爵令嬢如きと婚約したくはなく、当主様は格下貴族と深い関係を築きたくはなかった。それらの理由で様々な暴言や冷遇を受けることとなり、最終的には根も葉もない非を理由として婚約を破棄されることになってしまったのでした。  ですが――。  やがて不意に、とても不思議なことが起きるのでした。 「アンっ、今まで酷いことをしてごめんっ。心から反省しています! これからは仲良く一緒に暮らしていこうねっ!」  わたしをゴミのように扱っていたイブライム様が、涙ながらに謝罪をしてきたのです。  …………あのような真似を平然する人が、突然反省をするはずはありません。  なにか、裏がありますね。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

【完結】高嶺の花がいなくなった日。

恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。 清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。 婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。 ※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。

【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。

華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。 王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。 王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。

はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。 周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。 婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。 ただ、美しいのはその見た目だけ。 心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。 本来の私の姿で…… 前編、中編、後編の短編です。

【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。

❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。 それは、婚約破棄&女の戦い?

処理中です...