幼馴染みを優先する婚約者にはうんざりだ

クレハ

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真実

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 ユウナがお茶を淹れて部屋に戻ると、父親はノアに人間椅子をさせられていた。

 ここはツッコミを入れるべきか。
 いや、藪から蛇が出てはかなわない。
 ユウナは無視をすることにした。


「兄様、どうぞ」

「嬉しいなぁ。隣国にいる間、ユウナの淹れるお茶が恋しくて仕方なかったよ」
 

 この兄はべらぼうに優秀で、誰よりも母親に似ていて男女問わず魅了するほどすこぶる顔が良い。
 更に物腰は柔らかで、その微笑みは天使の微笑み。
 だが、ユウナ達家族は知っている。
 家族の中で母親以上に怒らせたらヤバいのは彼であると。

 そんなノアは妹であるユウナを溺愛している。
 それはもうシスコンをこじらせているのだ。

 そんな彼にユウナが婚約したなんてことを言ったらどうなるか。
 相手の生命のために、しばらく黙っていることになったのだが、いったい誰が知らせたのか……。

 父親のはずがない。
 酔って婚約の約束しちゃった。
 などと言おうものなら、先に父の命が危ないのは明白。

 ならば、誰なのか。


「兄様は隣国で忙しいのではなかったですか?」

「ああ、勿論忙しかったよ。だけど、お祖母さまから手紙をいただいてね。どこぞのアホがアホなことをやらかしたって」


 未だ人間椅子の父親を見下ろす目は、とても実の父を見る目ではなかった。


「よりによってユウナの婚約の約束だと? いつから貴様にそんな権限が与えられたんだ、ああん? 何様だと思ってるんだ?」


 いや一応父親なのでその権限はあるのだが、今それを口に出すほどユウナも馬鹿ではない。

 父親はただただ、シクシク泣きながら無言を貫いている。
 兄の前では父親の威厳は皆無だ。


「しかも酒に酔った上での約束だったと? ふざけてるのか? そんなことあるはずないだろ」

「で、でも兄様。さすがに酔ってたら仕方ないかもだし。もしかしたら、婚約目的でジュードの父親に無理やり飲まされて、判断能力鈍らされたのかも」


 ジュードの父親ならやりかねないとユウナは思っている。
 だが……。



「ユウナ、騙されてる。このくそ親父はザルだ。酔って向こうに有利な約束なんぞするはずがない。こいつは素面でこの婚約をまとめて来やがったんだよ」

「え!? でも、たまに家でお酒に酔って、母様に介抱されてるし」

「ただ、母様に甘えてるだけだよ。くそ親父の分際で厚かましい。そのまま酒に溺れろ」

「父様、それ本当なの!?」


 父親はばつが悪そうに視線をそらした。
 それがノアの言葉が真実であると語っていた。


「父様!」


 ユウナは父親の上に乗っているノアをどかし、父親の胸倉を掴み上げた。


「どういうことなの、父様!?」

「いやぁ、それはまあ、その……」

「はっきりしなさい!」


 口ごもる父親の耳元でノアが呟いた。


「もぐぞ」

「ひぃ!」


 何をとは聞かない。
 父親が随分怯えているので効果はてきめんだった。




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