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アリアという女

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 女性と腕を組んで現れたジュードに、ユウナはぽかんとしてしまう。

 仮にも婚約者の前で女性と親密そうにするとは何事なのか。

 ただでさえ低いジュードの好感度が爆下がりしていくのが分かる。


 ジュードはそんなユウナの内心には気付かずに、柔和な笑みを浮かべて斜め横の別のソファーへ、連れて来た女性と隣同士で座った。

 いやいや、そこは普通婚約者の隣に座るものだろうというツッコミは静かに飲み込んだ。


「やあ、ユウナ。紹介するよ。彼女が僕の幼馴染みのアリアだ。アリア、僕の婚約者のユウナだよ」 


 何故だかジュードに婚約者と紹介されるのが非常に不愉快でしかなかった。
 それは顔に出さず、にこっこりと微笑み「はじめまして」と挨拶をする。


 そして、これが例の問題の幼馴染みかと、失礼にならない程度にアリアを観察する

 明るい茶色の髪に焦げ茶の瞳。
 体が弱いということだが、体型は少しふくよかで、むしろ顔色も良く健康そうに見える。
 柔らかな雰囲気を持った女性だったが、正直言うと容姿は普通だ。

 だが、この包容力のありそうなほんわかした雰囲気に男はやられてしまうのかもしれないと思った。

 ユウナにはない魅力と言って良いかもしれない。


 アリアはジュードから手を離すことなく、婚約者と紹介されたユウナに微笑む。


「はじめまして。ジュードからは話を聞いているわ。ジュードがお世話になってるみたいでありがとうございます」


 何か引っ掛かる言い方だった。
 何故赤の他人の彼女にお礼など言われなければならないのか。
 婚約者はユウナの方なのに。
 これはそれとなくマウントをとられているのだろうか、判断に困った。


「先日はごめんなさい。私が熱を出したばっかりにデートの邪魔をしてしまって」

「何を言ってるんだ、アリア。そんなこと気にする必要はないんだ」


 気にするななどと、そんな言葉をよくもまあ三時間も待たせたあげくにドタキャンした婚約者の前で言えたなと、ユウナはジュードに対して冷めた目をする。

 すると、どうだろう。
 ジュードの両親までもがアリアの擁護に回ったのだ。


「そうだよ、アリアちゃん。体の方が一番大事なんだから」

「オペラなんていつでも行けるんだから」

「ありがとうございます。おじ様、おば様」


 その言葉を聞きながらユウナはこれは何の茶番だといいたくなった。
 
 ユウナを無視して完成される空間。
 まるでユウナなどいないかのように話は続く。


「今日は体調が良さそうだね。夕食は一緒にどうだい?」

「わあ、嬉しい。でもお邪魔じゃないですか?」

「アリアちゃんがいると空気が明るくなったようになるから大歓迎よ」

「そうそう、アリアはうちの家族同然なんだから」



 そんな会話を聞かされていたユウナの我慢がピークに達する。

 突然立ち上がったユウナに、四人の視線が集まる。


「どうやらお邪魔のようですので私はおいとまします」

「あっ、ごめんなさい」


 何を思ったのか、悲しそうに眉を下げ謝るアリアと、責めるような視線を向けてくるジュードがどうにも癪に触る。


「いえ、謝られることはないので」


 そう。どちらかというと、謝って欲しいのはジュードとその両親である。

 祖父がやっと手に入れたチケットだというのに、オペラをいつでも行けると言ったり、ユウナを無視して話を続けたりと、ありえない。

 一番ありえないのは、遅れてきたにもかかわらず、謝罪一つないジュードであるが。


 ユウナは、この空間にこれ以上いることができなくて、足早に家へと帰った。



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