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婚約者の噂
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クエンティン商会の次男であるジュードは、その柔和で整った顔立ちと優しい性格で、女子からよくモテた。
ユウナも、ジュードが彼女らしい人と学校内で一緒にいるところを目にしていたが、見る度見る度別の人なのだ。
女たらしなのかと、あまりジュードに良い印象を受けなかったユウナは、ある時彼女らしき人との言い争いを聞いてしまう。
まあ、聞いていたのはユウナだけではない。
昼休み時間の廊下のど真ん中で言い争いをしていたのだから、多くの人がそれを目にし、興味津々に野次馬をしていた。
「いい加減にしてよ! なんなよ、あの女」
「あの女なんて言い方しないでくれ。彼女は大事な幼馴染みなんだ!」
「ただの幼馴染みがどうしてデートに付いてくるのよ! 非常識だわ!」
「仕方ないんだよ。家にはアリアしかいなくて、一人でいさせるわけにはいかないだろう?」
「はあ!? 三歳児じゃないんだから留守番ぐらいできるでしょう!」
「三歳児と比べるなんてひどいじゃないか。リアは体が弱くて、いつ何があるか分からないんだ。誰か側にいてあげないと」
「だから、どうしてあなたがそんなことをするのよ! それは家族の役目でしょう」
「アリアは家族同然だ!」
「話にならないわ。もうあなたとは別れる。さよなら。一生幼馴染みの世話をしてれば良いわ」
そう言って女性が去って行ったことで彼女達の話し合いは終わったが、周囲の者には面白い話の種を残していった。
話が見えないユウナは友人からの話でジュードのことを知る。
どうやらこういう騒ぎはユウナの知らぬ所でたくさんあったようで、ジュードには大事にしている幼馴染みの女の子がいるのだが、大事にしすぎて彼女をないがしろにするらしい。
デートのドタキャンは当たり前。
時には先程の彼女のように、デートに幼馴染みを連れてくることもあるらしい。
しかし、その幼馴染み、アリアという少女を学校では見掛けたことはない。
なんでも、体が弱くて学校にも通っていないらしい。
そんな体の弱さから、ジュードは過保護にしているようなのだ。
そりゃあ、彼女である自分より大事にする女の子がいては、彼女として不満しかないだろうなと、当時は他人事として聞いていたユウナだったが、決まった婚約者がそのジュードだと聞いて絶望した。
当然父親には抗議した。
けれど、会ってみるだけ会ってみてくれと、やけに必死で土下座する父親を冷たく見下ろしてユウナは問う。
「父様、いったい何やらかしたの?」
ギクリとした顔をした父親をユウナは見逃さなかった。
これは何かあると問いただしたところ、白状した。
どうやら父親は商会の集まりで賭け事をしていたところ、クエンティン商会の会頭から賭に勝ったらお互いの子供を婚約させようなどという話を持ちかけられたようだ。
酒に酔って気分が高揚していた父親はご機嫌でこれを了承。
そして、負けて帰ってきたというわけだ。
ご丁寧に証文を取り交わしており、ちゃんと父親のサインが書かれている。
これにはさすがに父親を愛する母親も怒り、笑顔で父親を往復ビンタしていた。
さらには、一番下の幼い弟にすらゴミを見るような目で見られて、父親はシクシク泣いていたが、使用人含めて誰一人助けに入ることはなかった。
ユウナも、ジュードが彼女らしい人と学校内で一緒にいるところを目にしていたが、見る度見る度別の人なのだ。
女たらしなのかと、あまりジュードに良い印象を受けなかったユウナは、ある時彼女らしき人との言い争いを聞いてしまう。
まあ、聞いていたのはユウナだけではない。
昼休み時間の廊下のど真ん中で言い争いをしていたのだから、多くの人がそれを目にし、興味津々に野次馬をしていた。
「いい加減にしてよ! なんなよ、あの女」
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「ただの幼馴染みがどうしてデートに付いてくるのよ! 非常識だわ!」
「仕方ないんだよ。家にはアリアしかいなくて、一人でいさせるわけにはいかないだろう?」
「はあ!? 三歳児じゃないんだから留守番ぐらいできるでしょう!」
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「だから、どうしてあなたがそんなことをするのよ! それは家族の役目でしょう」
「アリアは家族同然だ!」
「話にならないわ。もうあなたとは別れる。さよなら。一生幼馴染みの世話をしてれば良いわ」
そう言って女性が去って行ったことで彼女達の話し合いは終わったが、周囲の者には面白い話の種を残していった。
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時には先程の彼女のように、デートに幼馴染みを連れてくることもあるらしい。
しかし、その幼馴染み、アリアという少女を学校では見掛けたことはない。
なんでも、体が弱くて学校にも通っていないらしい。
そんな体の弱さから、ジュードは過保護にしているようなのだ。
そりゃあ、彼女である自分より大事にする女の子がいては、彼女として不満しかないだろうなと、当時は他人事として聞いていたユウナだったが、決まった婚約者がそのジュードだと聞いて絶望した。
当然父親には抗議した。
けれど、会ってみるだけ会ってみてくれと、やけに必死で土下座する父親を冷たく見下ろしてユウナは問う。
「父様、いったい何やらかしたの?」
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これは何かあると問いただしたところ、白状した。
どうやら父親は商会の集まりで賭け事をしていたところ、クエンティン商会の会頭から賭に勝ったらお互いの子供を婚約させようなどという話を持ちかけられたようだ。
酒に酔って気分が高揚していた父親はご機嫌でこれを了承。
そして、負けて帰ってきたというわけだ。
ご丁寧に証文を取り交わしており、ちゃんと父親のサインが書かれている。
これにはさすがに父親を愛する母親も怒り、笑顔で父親を往復ビンタしていた。
さらには、一番下の幼い弟にすらゴミを見るような目で見られて、父親はシクシク泣いていたが、使用人含めて誰一人助けに入ることはなかった。
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