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幼馴染みを優先する婚約者

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「すまない、ユウナ。明日のデートはキャンセルしてくれ」



 自分のクラスに来るなりそう言った婚約者に、ユウナは深い溜息を吐いた。
 栗色の髪と緑色の瞳を持つ温厚そうな優しい顔立ちのジュードは家が決めたユウナの婚約者だ。

 現在五度目となるデートのキャンセルを突きつけられているところだが、相手に悪びれる気配はない。


「またなの? 前だってドタキャンしたこと忘れたの?」

「すまない。けれど、仕方がないんだ。アリアが急に体調を崩したみたいで」

「その理由だって同じじゃない。前もアリアさんが体調を崩したって」

「アリアは体が弱いんだ。アリアだって好きでそんな体に産まれたわけじゃない」


 その言い合いも前回と同じ。


「けれどアリアさんとジュードは関係ないでしょう? 家族でもないのに、どうしてジュードが付き添うのよ」

「僕にとってアリアは家族同然だ! 大切な幼馴染みを放っておけというのか!? ユウナはそんな酷い女だったのか!?」


 そう逆ギレするのも前回と一緒。

 このジュードへアリアに対する不満を少しでも口にしようものなら人が変わったように怒り始めるのだ。

 毎度毎度繰り返される同じ言い合いにユウナは嫌気がさしてきていた。


「……分かったわ」


 結局、最後はユウナが折れるしかないのだ。


「ありがとう。やっぱりユウナなら分かってくれると思ったよ」

「次のデートは絶対に来て。お願いよ」

「ああ。分かったよ」



 ユウナが了承して気を良くしたジュードは笑顔で去って行った。


 ユウナは再び深い溜息を吐いた。

 ユウナは金色に近い薄茶の髪に青い瞳を持つ。
 
 ユウナの家は国内でも大きな商会をしているが、母親は元伯爵のご令嬢で貴族出身。
 社交界では引く手あまたの美しさを持っていたが、父親に一目惚れし貴族の地位を捨てて、庶民である父親を選んだ。

 噂では王子の求婚を蹴って父親を選んだというのだから、我が母ながらすごいとユウナは思うのだ。
 
 そしてそんな母の美しさはそのままユウナやユウナの兄弟達に引き継がれている。

 それ故ユウナへの求婚者は絶えず、貴族からお声が掛かるほどだったのを、父親は何をとち狂ったのか、同じように商会を営むクエンティン商会の息子と話をまとめてしまった。

 その息子と言うのがジュードである。

 それを聞かされたユウナは絶望した。

 なにせ、ユウナの学校ではこのジュードは難ありと有名だったからだ。






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